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2016/11/24

谷の響 四の卷 三 水かけ蟲

 

 三 水かけ蟲

             

 水カケと言へる蟲は、深山の溪流にまゝあるものにして、その形髮毛の如く、長さ六七寸あるは八九寸にして、色はうす赤くせはしくうごけるものにあらずと言へり。又この蟲大口魚(たら)の肉の中にもまゝありて、こも又髮毛にひとしかれど、溪澗(さは)になれるものよりは色赤く長さは三寸ばかりとなり。俱に大毒ありて人をがいするといふめれば、よく心しろひすべきことなり。こは又溪澗(さは)の水のみにあらず井戸の水にもあることなり。

 さるは往(い)にし文政の年間(ころ)、紺屋町の新割町に住める三上の隱居といへる人、ある日湯屋に浴(ゆあみ)し、かわきたればとて水を乞ひて飮けるに、口の中に髮毛の有るやうに覺えければ、水を吐いて探り見るに、その髮毛のいとなめらかなればあやしく思ひ、手にあげてつらつら見るに、いとゆるやかにぬめりまわりてありしかば、これなん水かけと言ふ蟲ならめと、そばなる人にも見せておそれあへりと、己が父に語りしことありき。かゝればこの蟲は井の中にもあるものなれば、水はこして用ふべきものなり。

 

[やぶちゃん注:前の「二 中の蟲」との内容の相同性が強い。「水かけ蟲」及び「水カケ」と言う呼称は、現在、使用されていない模様で、不詳乍ら、これは「水蔭蟲」「水陰蟲」「水影蟲」で、髪の毛のように細く、水の中で隠れるように潜む、或いは、動いても、それあ水の光り(影)の反射のように誤認され易い虫の謂いではないかと推理する。私はこの体長と体色及び髪の毛に酷似しているという点、動きが極めて緩やかである点(ヒル類ならば、かなり活発に動き、また、これだけの大きさになると、ヒル類では頭部と尾部の大きさが異なって髪の毛のようには見えない)から、やはり前条で最初に出した、昆虫類に高い頻度で寄生する脱皮動物上門類線形動物門線形虫(ハリガネムシ)綱  Gordioidea の一種と同定出来ると考える。ウィキの「ハリガネムシ」によれば、『水生生物であるが、生活史の一部を昆虫類に寄生して過ごす』。『オスとメスが水の中でどのように相手を捜し当てるかは不明だが、雄雌が出会うと巻き付き合い、オスは二叉になった先端の内側にある孔から精泡(精子の詰まった囊)を出し、メスも先端を開いて精泡を吸い込み受精させる』。『メスは糸くずのような卵塊(受精卵の塊)を大量に生む』。一~二ヶ月『かけて卵から孵化した幼生は川底で蠢き、濾過摂食者の水生昆虫が取り込む。幼生は身体の先端に付いたノコギリで腸管の中を進み、腹の中で「シスト」の状態になる』。『水生昆虫のうち、カゲロウやユスリカなどの昆虫が羽化して陸に飛び、カマキリやカマドウマなどの陸上生物に捕食されると寄生し』、二 ~三ヶ月『の間に腹の中で成長する』。『また、寄生された昆虫は生殖機能を失う。成虫になったハリガネムシは宿主の脳にある種のタンパク質を注入し、宿主を操作して水に飛び込ませ、宿主の尻から脱出する』。『池や沼、流れの緩やかな川などの水中で自由生活し、交尾・産卵を行う』。『寄生生物より外に出る前に宿主が魚やカエルなどの捕食者に食べられた場合、捕食者のお腹の中で死んでしまう』『が、捕食者の外に出ることができるケースもある』。『カワゲラをはじめとする水生昆虫類から幼生および成体が見つかることがある。また、昆虫だけではなくイワナなどの魚の内臓に寄生する場合もある』とある(下線やぶちゃん。但し、タラは海産魚であり、ハリガネムシが寄生することはあり得ない。されば本条のそれは別の海産魚類に寄生する種の誤認である。後注参照)。ただ、本条では、この虫を「大毒ありて人をがい(害)するといふ」とし、後の例では近くにいた「人にも見せておそれ」合ったとして、「かゝればこの蟲は井の中にもあるものなれば、水はこして(濾して)用ふべきものなり」とまで危険動物として注意喚起をしている。しかし思うにこれは、その形状が隣国(現在の秋田・岩手)辺りで吸血するとして知られ、怖れられていた環形動物門ヒル綱顎ヒル目ヒルド科 Haemadipsa Haemadipsa zeylanica 亜種ヤマビル Haemadipsa zeylanica japonica を想起させ(私は似ているとは全く思わないが)、また、本書の「二の卷 四 怪蚘」に語られる人体寄生の寄生虫類(線形動物門双腺綱旋尾線虫亜綱回虫(カイチュウ)目回虫(カイチュウ)科回虫亜科カイチュウ属ヒトカイチュウ(ヒト回虫)Ascaris lumbricoides 等)によく似ている(これは色は別として似ていると言っても、まあ、よかろう)ことから、これらを一緒くたにして(特に後者と)、このハリガネムシが人体に寄生するそれらになると誤認したからではないかと考えるものである。

「長さ六七寸あるは八九寸」体長十八~二十一センチメートル、個体によっては二十四~二十七センチメートル程。

「大口魚(たら)の肉の中にもまゝあり」三字へのルビ。一般に青森で「タラ」と言った場合は、条鰭綱新鰭亜綱側棘鰭上目タラ目タラ科タラ亜科マダラ属マダラ Gadus microcephalus、或いはタラ亜科スケトウダラ属スケトウダラ Theragra chalcogramma を指すと考えてよかろう(本邦では他にはタラ亜科コマイ属コマイ Eleginus gracilis も広義の「タラ」に含まれるが、形状がやや異なり(前二種と異なり、下顎より上顎が前に突き出ており、下顎にある髭(ひげ)がごく短い)、当時、本種を一緒に認識していたとは私は思わない)。さて、タラ類に寄生するものとしては、かの、ヒトにアニサキス症を発症させる線形動物門双腺綱回虫目回虫上科アニサキス科アニサキス亜科 Anisakinae のアニサキス属 Anisakis やシュードテラノーバ属 Pseudoterranova などが知られるが、それだけでなく、実はタラの寄生虫は非常に多く、市販の切り身などでも完全除去は難しいとされるほど、多くの寄生虫が寄生している(タラ類のそれらは、「水産食品の寄生虫の検索データベース」のタラ類」を参照。但し、耐性のない方はタラが食えなくなることもあるので各項の「詳細」をクリックするのは自己責任で)。孰れにせよ、平尾が「タラ」を挙げていることによって、細長い虫を十把一絡げにして、全く異なる種を一緒くたに同一生物と考えていることはこれで判然とする。なお、ここで平尾はタラのそれを、「色赤く長さは三寸(九センチメートル)ばかり」と記しており、これはちょっと大き過ぎる(最大長でも四センチメートルほど)ものの、色はシュードテラノバ属シュードテラノーバ・ディシピエンス Pseudoterranova decipiens によく一致する

「心しろひ」「心知らふ」(気遣いする・注意する)の転訛した語が名詞化したものか。

「文政の年間(ころ)」一八一八年~一八三〇年。

「紺屋町の新割町」現在の弘前市紺屋町(こんやまち)ならばここ(グーグル・マップ・データ)で、ウィキの「紺屋町弘前市)によれば、ここの東部に明治初年に「紺屋町新割町」があったとある。なお、同ウィキに、この紺屋町は寺山修司の出生地とされている、とある。奇体な虫とテラヤマ、彼なら喜びそう!

「かわきたれば」咽喉が「渇きたれば」。

「飮けるに」「のみけるに」。]

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