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2016/12/29

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蜉蝣(せつちんばち)


Settinbati

せつちんばち 渠畧

蜉蝣

       俗云雪隱蜂

      【厠異名曰雪

       隱而此蟲形

       似蜂故名】

フエウ ユウ

 

本綱蜉蝣似𧏙蜋而小大如指頭身狹而長有肉黃黑色

甲下有翅能飛夏月雨後叢生糞土中朝生暮死猪好啖

之蓋𧏙蜋蜉蝣腹蜟天牛皆蠐螬蠹蝎所化也此尚𧏙

之一種不可不知也 或云蜉蝣水蟲也狀似蠶蛾朝生

暮死

△按蜉蝣黃黒色身狹長細腰畧似蜂有角甲下有翅以

 翅發聲其聲似蠅而太夏月四五隻群飛敵合然無螫

 之害必非朝生暮死者唯魯鈍爲人易捕亦易死耳

 不如蠅之易活也然則此與水蟲之蜉蝣同名異種矣

 

 

せつちんばち 渠畧〔(きよりやく)〕

蜉蝣

       俗に云ふ、「雪隱蜂」。

      【厠の異名を、雪隱と曰ふ。而も、此の蟲、形、蜂に似る。故に名づく。】

フエウ ユウ

 

「本綱」、蜉蝣は𧏙蜋〔(くそむし)〕に似て小さし。大いさ、指頭のごとく、身、狹〔(せば)ま〕りて長し。肉有り、黃黑色。甲の下に翅〔(はね)〕有り、能く飛ぶ。夏月、雨の後、糞土の中に叢生〔(さうせい)〕す。朝に生まれ、暮れに死す。猪、好みて之れを啖〔(くら)〕ふ。蓋し、𧏙蜋〔(くそむし)〕・蜉蝣〔(かげらふ)〕・腹蜟〔(にしどち)〕・天牛〔(かみきりむし)〕、皆、蠐螬(すくもむし)・蠹蝎(きくいむし)の化する所なり。此れ、尚ほ、𧏙蜋の一種〔なるを〕、知らざらんは、あるべからざるなり。或いは云ふ、『蜉蝣は水蟲なり。狀、蠶蛾〔(かひこが)〕に似て、朝に生〔(しやう)〕じ、暮れに死す。』と。

△按ずるに、蜉蝣〔(せつちんばち)〕は黃黒色、身、狹〔く〕長く、細き腰、畧〔(ほぼ)〕蜂に似て、角〔(つの)〕有り。甲の下に翅有り、翅を以つて聲を發す。其の聲蠅に似て太(ふと)し。夏月、四、五隻〔(ひき)〕、群飛〔し〕、敵(あた)り合ふ。然れども、螫(さ)し(す)ふの害、無し。必ずしも朝に生じ、暮れに死する者に非ず。唯だ、魯鈍にして人の爲に捕へ易く、亦、死に易きのみ。蠅の活(い)き易きに如〔(し)〕かざるなり。然れば則ち、此れ、水蟲の蜉蝣〔(かげらふ)〕と〔は〕同名異種ならん。

 

[やぶちゃん注:「本草綱目」の記載の方に非常に大きな問題点があるが、これは結果的に、僕らが小さな頃「便所蜂(べんじょばち)」と呼んでいた、

双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目アブ下目ミズアブ上科ミズアブ科 Sarginae 亜科 Ptecticus 属コウカアブ(後架虻)Ptecticus tenebrifer

である。ミズアブ科の中では大形種で、体長十一~二十三ミリメートル、体色は黒で、翅は全体が黒褐色、腹部の基部が白色、前脚と中脚の脛節基部と脛節(ふせつ)は黄白色を呈する。触角第二節の内側は先端が前方に突出している。成虫は便所・畜舎・芥溜め周辺に五~九月頃、普通に見られる。腹部の基部が細く、姿や飛び方も蜂に似ており、便所(後架)の周辺や内部を飛ぶので「ベンジョバチ」の呼び名があるが、人を刺すことはない「刺された」とするネット投稿があるが、これは皮膚の表面をごく軽く表面的に舐められたに過ぎないか、別種の刺す虫によるものと思われる(そもそもがアブの類は基本、「刺して毒液を注入する」のではなく、大根おろし器のような口器で「舐め擦って体液を吸引する」のである)。産卵性で、幼虫は便所・畜舎の堆肥・芥溜めで発生し、形態は扁平で動きは鈍い。日本全土に分布し、中国・朝鮮半島・台湾にも棲息する。近年、形状が極めてこの種に似て(但し、以下に示す通り、全くの別種)触角が長く、腹部第二節に一対の白或いは黄色の紋があるアメリカミズアブ亜科 Hermetia属アメリカミズアブ Hermetia illucens が本邦に侵入、同じような場所に発生するために、在来種である我々の馴染みのコウカアブが駆逐され、姿が少なくなってきている。なお、コウカアブの近縁種キイロコウカアブPtecticus auriferは、山地の便所や畜舎付近に多く、体長十六~二十二ミリメートルで体は黄褐色、腹部に白と黒の帯があり、翅は全体に黄褐色を呈し、六~十月に出現する。本邦全土の他、シベリア・中国・東南アジアに広く分布する(以上は主に小学館「日本大百科全書」の倉橋弘氏の解説に拠った)。

 問題なのは、「本草綱目」が、「朝に生まれ、暮れに死す」などと記し、ご丁寧に最後にも「或いは云ふ、『蜉蝣は水蟲なり。狀、蠶蛾〔(かひこが)〕に似て、朝に生〔(しやう)〕じ、暮れに死す。』と」などと記してしまっていることである。これは言わずもがな、短命とされるカゲロウ類(真正の「カゲロウ」は昆虫綱蜉蝣(カゲロウ)目Ephemeropteraに属する昆虫を総称するもので、昆虫の中で最初に翅を獲得したグループの一つであると考えられている。幼虫はすべて水生。不完全変態であるが、幼虫亜成虫成虫という半変態と呼ばれる特殊な変態を行い、成虫は軟弱で長い尾を持ち、寿命が短いことでよく知られる。但し、面倒臭いことに、ホンモノでないホンモノにそっくりな「カゲロウ」類を、多くの人は本物の「カゲロウ」とごっちゃにして理解している。『本物でない「カゲロウ」』とは、具体的には、有翅昆虫亜綱内翅上目脈翅(アミメカゲロウ)目脈翅亜(アミメカゲロウ)亜目クサカゲロウ科 Chrysopidae に属する種群、及び同じ脈翅(アミメカゲロウ)目ウスバカゲロウ上科ウスバカゲロウ科 Myrmeleontidae に属する種群である。これらは形状は似ているものの、全く異なった種なのである。これは本テクストでもさんざん語ったし、他でも述べている。比較的くだくだしくない生物學講話 丘淺次郎 第八章 団体生活 一 群集の私の注などを参照されたい。

 非常に救われる思いがするのは、寺島良安がそうした「本草綱目」のトンデモ記述を批判し、最後に「水蟲の蜉蝣とは同名異種ならん」とぶちかまして呉れていることである。やったね! 良安センセ!

 

・「𧏙蜋〔(くそむし)〕」鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科 Scarabaeoidea 及びその近縁な科に属する昆虫の中でも主に哺乳類の糞を餌とする一群の昆虫。参照。

・「叢生〔(さうせい)〕す」群がって発生する。

・「蜉蝣〔(かげらふ)〕」ここは前に冒頭の注で示した誤った全くの異種を広汎に含んだカゲロウと呼称する昆虫類全般と採る。

・「腹蜟〔(にしどち)〕」半翅(カメムシ)目頸吻亜目セミ上科 Cicadoidea のセミ類の比較的終齢期の方に近い幼虫。先行する腹蜟を参照。

・「天牛〔(かみきりむし)〕」鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ(多食)亜目ハムシ上科カミキリムシ科 Cerambycidae のカミキリムシ類。次の次に独立項で出る。

・「蠐螬(すくもむし)」取り敢えず以前、鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科コガネムシ科スジコガネ亜科スジコガネ族スジコガネ亜族コガネムシ属 Mimela に属するコガネムシ類の幼虫とした。本「部」冒頭の「蠐螬」を参照。

・「蠹蝎(きくいむし)」取り敢えず以前、鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目ハムシ上科カミキリムシ(髪切虫・天牛)科 Cerambycidae の幼虫とした。先行する蝎」(そこで「蝎」を「木蠹蟲」と別名で呼んでいる。因みに、ここの「蝎」は「サソリ」の意とは異なるので注意されたい)の項を参照。なお、以上の記載はまさに、実は中国の本草学に於いては、「蠐螬」や「蠹蝎」という語が、特定の生物種を指す語ではなく、昆虫類の多様な幼虫を大小・形状・棲息場所などを以って区別して指し示した語であることが明白となったとも言えるのである。

・「𧏙蜋の一種〔なるを〕、知らざらんは、あるべからざるなり」『この「せっちんばち」も「糞転がし」の一種であることをよく理解しないなどということは、あってはならない誤謬である』というのであるが、双翅(ハエ)目短角(ハエ)亜目アブ下目ミズアブ上科ミズアブ科 Sarginae 亜科 Ptecticus 属コウカアブ(後架虻)Ptecticus tenebrifer は鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科 Scarabaeoidea とは、全然、目レベルで異なる明後日の異種で、ちゃいまんがな!

・「蜉蝣は水蟲なり。狀、蠶蛾〔(かひこが)〕に似」これは明らかに幼虫が総て水生であるところの、真正のカゲロウ類、昆虫綱蜉蝣(カゲロウ)目Ephemeropteraに属する昆虫を指している。

・「暮れに」実は以下二ヶ所のこの「暮れに」の原文の送り仮名は、どう見ても『ヘニ』としか見えない。しかしそれではどう読んでいるか不明なので、一般的な斯様な送り仮名としたものである。

・「(す)ふ」「吸ふ」に同じい。]

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