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2016/12/31

毛利梅園「梅園魚譜」 黃穡魚(ハナオレダイ)


Kandai

「閩書」

黃穡魚【ハナヲレダイ 別一種同名】

瘤鯛【カンダイ 佐渡

   ハナヲレダイ 黒色ノ者ヲスミ

   ヤキト云黒鯛名同】

烏頰魚【「釈名」】燒炭鯛【和名】

 寒鯛【同上】鼻推鯛【同上】両類魚

  寒鯛之魚臘月盛出故亦名

  寒鯛 「日東魚譜」

 

     丁酉如月三日求

     之眞寫

 

 

[やぶちゃん注:掲げたのは国立国会図書館デジタルコレクションの「梅園魚譜」の保護期間満了画像の当該頁と、私が視認して活字に起こしたキャプション。割注は【 】で示し、書名は「 」で囲った。

 本種はキャプションに出る異名に誘惑されると、とんでもない別種に間違える。まずは図譜を虚心に眺めることから、真実は自ずと見えてくる。吻部周辺と額にかけてが、通常の魚類に比して鈍角であり、明らかに垂直性を示している(図では分かり難いが、左右に膨満しているというよりは寧ろ、頭部は側扁して平たいように見える。ここも比定の特徴とし得る)。前額上部がやや隆起しており、異名の一つにある「瘤」(こぶ)のそれはここを指していると読め、「鼻」折れ「鯛」もそれに由来すると採れる。但し、ここで、その隆起を妄想的に大きく捉えてしまい、その異名として羅列されている「瘤鯛」や「カンダイ」「寒鯛」などから、安易にコブダイ(条鰭綱棘鰭上目スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科コブダイ属コブダイSemicossyphus reticulatus )と比定してしまっては誤りである。よく見ると、頭部の眼の上の隆起は、コブダイ(正確には同種の)のような異常な腫瘤状を呈してはいない。次にかなり薄いが、胸鰭の基部上部から後方の背鰭尖端前部下にかけて、黒い帯が入っており、さらにその少し離れた後ろに同じ基部から斜めに走る白い帯が走っていることも判る。これが大きな本種の特徴であることに着目出来る。今一つ、鱗が各々有意に大きく、しかも全体の体色が鮮やかな紅色や褐色を呈し、体部後半には紫色がそこに混じってより強く出ていること、さらに腹部の色が有意に薄いこと、そして、尻鰭と尾鰭が濃い暗色を呈していることが特徴的で、こうした華やかな色彩傾向はベラ科 Labridae によく見られるものである。図もちょっと見ではベラの類と誰もが思うものと言える。以上の観察から見ると、これは、異名には挙がっていないが、

条鰭綱スズキ目ベラ亜目ベラ科タキベラ亜科イラ属イラ Choerodon azurio

と比定するのが至当と私は考える。首を傾げる方のために謂い添えておくと、魚類学者望月賢二氏の監修になる「魚の手帖」(小学館一九九一年刊)でも本図が採用されているが、そこで望月氏も、このイラに同定されておられる(但し、そこで『胸鰭から上後方へ向かう黒色帯の位置がやや不正確である』と注しておられる)。

 以下、ウィキの「イラ」より引く(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した。下線はやぶちゃん。本図とのさらなる一致部分が確認出来るはずである)。分布域は『南日本(本州中部地方以南)・台湾・朝鮮半島・シナ海(東シナ海・南シナ海』で、全長は約四〇~四五センチメートル、『体は楕円形でやや長く、側扁である。また、イラ属はベラ科魚類の中では体高が高い。額から上顎までの傾斜が急で、アマダイ』(スズキ目スズキ亜目キツネアマダイ(アマダイ)科アマダイ属 Branchiostegus の類)『を寸詰まりにしたようである。老成魚の雄は前額部が隆起・肥大し、吻部の外郭は垂直に近くなるアマダイより鱗が大きい。両顎歯は門歯状には癒合せず』、『鋸歯縁のある隆起線をつくる。しかし』、『ブダイ科魚類のように歯板を形成することはない。前部に最低一対の大きな犬歯状の歯(後犬歯)がある。側線は一続きで、緩やかにカーブする。前鰓蓋骨の後縁は細かい鋸歯状となる。尾鰭後縁はやや丸い』。『体色は紅褐色から暗紅色腹側は色が薄く尾鰭は濃い。口唇は青色で、鰭の端は青い。背鰭と腹鰭、臀鰭は黄色。背鰭棘部の中央から胸鰭基部にかけ、不明瞭で幅広い黒褐色の斜走帯が走るその帯の後ろを沿うように白色斜走帯(淡色域)がある』が、『幼魚にはこの斜走帯はない』(というより、イラの幼魚は成魚とは模様が大きく異なる。リンク先に画像有り)。『雌雄の体色や斑紋の差が大きい』。『沿岸のやや深い岩礁域や』、『その周りの砂礫底に見られ、単独でいることが多い。日本近海での産卵期は夏。夜は岩陰や岩穴などに隠れて眠る』。『雌から雄への性転換を行う』ことでも知られる。『付着生物や底生動物などを食べる肉食性。これはイラ属の魚類に共通する』。『食用だが、肉は柔らかく』、「普通」或いは「まずい」とされ、また、事実、『水っぽい。他種と混獲される程度で漁獲量も少なく、あまり利用されない。煮つけなどにされる』とある。和名「イラ」は「伊良」或いは「苛」「苛魚」と書くようで、しばしばお世話になっている「ぼうずコンニャクの市場魚貝類図鑑」の「イラ」によれば、『つかまえようとすると』、『逆にかみつきにくる。そのために「苛々する魚(いらいらするさかな)」の意』であるとし、和歌山県田辺や串本での呼び名が標準和名となったものらしい。

 なお、この「イラ」は現行でも地方名で「アマダイ」・「イソアマダイ」・「オキノアマダイ」・「カンダイ」・「カンノダイ」、果ては「ブダイ」(但し、これはベラ亜目ブダイ科ブダイ属ブダイ Calotomus japonicus と混同誤認している可能性もある)などと紛らわしい異名で呼ばれ、しかも、面倒臭いことに、最初に出した「コブダイ」の地方名にも「カンダイ」を始めとして「イラ」・「カンノダイ」(寒の鯛)・「コブ」があるから、これは大いに困るのである。

 

・「閩書」「びんしよ」。既出既注であるが再掲する。「閩書(びんしょ)南産志」。明の何喬遠(かきょうえん)撰になる福建省の地誌。

・「黃穡魚」現代仮名遣の音なら「オウショクギョ」であるが、どうも不審である。何故なら「穡」は「農作物を収穫する・農業」や「惜しむ・物惜しみする」「吝嗇(けち)」の謂いでどうも意味としてピンとこないからで、私は実は、この「穡」は「檣」(ショク:ほばしら:イラの鼻筋の屹立しているさまを喩えているのではあるまいか?)の梅園の誤記(他にも見出せるから、複数の本草家のというのがより正しい。例えば寺島良安和漢三才圖會 卷第四十九 魚類 江海有鱗魚の「黄魚(はなをれだひ)」。リンク先は私の電子テクストである)ではあるまいかと深く疑っているのである。)

・「ハナヲレダイ」「鼻折れ鯛」。同じく、イラの鼻筋の屹立しているさまに拠る命名であろう。

・「別一種同名」「イラ」でない別な一種にも「ハナヲレダイ」という同名が使われているという意。これはもう、高い確率でコブダイSemicossyphus reticulatus のことと私は思う。

・「瘤鯛」「こぶだひ」。

・「カンダイ」「寒鯛」コブダイSemicossyphus reticulatus 同様、旬が脂ののる寒い時期(現行では旬は晩秋から初夏と長い)だからであろう。「佐渡」とするが、当地での「カンダイハ」は「イラ」ではなくて「コブダイ」のことを指すものと私は思っている。

・「スミヤキ」「炭燒」。炭焼きの面(つら)のように真黒の謂いであろう。

・「黒鯛名同」「黒鯛」という名も同じ。しかしこれではスズキ目タイ科ヘダイ亜科クロダイ属クロダイ Acanthopagrus schlegelii が怒る、基、と区別がつかん!

・「烏頰魚」「うきやうぎよ(うきょうぎょ)」と音読みしておく。

・「釈名」「釋名(しゃくみょう)」。後漢末の劉熙(りゅうき)が著した辞典。全八巻。

・「燒炭鯛」「やきすみだひ」と訓じておく。

・「同上」前の割注の「和名」と同じことを指す。以下、同。

・「鼻推鯛」「はなおしだひ」と訓じておく。「ハナヲレダイ」と同起原であろう。私は推して潰れて上に膨らんだとするこの名の方がしっくりくる気がする。

・「両類魚」読みも意味も不詳。雌雄の形状の違い(性的二型)を言うとしたら、大した生物学的知見と言えるが、ちょっとな。

・「寒鯛之魚獵月盛出故亦名」「臘」は「獵」のように見えるが、これでないとおかしい。訓読すると、

 寒鯛。之の魚(うを)、獵月(らふげつ)、盛んに出づる故、亦、名づく。

であろう。「獵月」(ろうげつ)は陰暦十二月の異名である。

・「日東魚譜」全八巻。江戸の町医神田玄泉(生没年及び出身地不詳)著になる、本邦(「日東」とは日本の別称)最古の魚譜とされるもので、魚介類の形状・方言・気味・良毒・主治・効能などを解説する。序文には「享保丙辰歳二月上旬」とある(享保二一(一七三六)年。この年に元文に改元)。但し、幾つかの版や写本があって内容も若干異なっており、最古は享保九(一七一九)年で、一般に知られる版は享保一六(一七三一)年に書かれたものである。私はブログ・カテゴリ神田玄泉「日東魚譜」を置いているが、未だ二篇で停まっている。これは今一つ、絵が上手くなく、正直、それで触手が動かないからである。悪しからず。来年は少しはやろうと思う。

「丁酉如月」天保八年二月。西暦一八三七年で、同年二月一日はグレゴリオ暦では三月七日。]

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