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2016/12/28

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 ■蜋(フンコロガシ)


Sentimusi

せんちむし    蛣𧏙 推車客

 くそむし    推丸 黑牛兒

𧏙

         鐡甲將軍

         夜遊將軍

キヤン ラン 【和名久曽無之】

       【一名末呂無之】

 

本綱𧏙蜋深目高鼻狀如羗胡背負黒甲狀如武士毎以

土包糞轉而成丸雄曳雌推置于坎中覆之而去數日有

𧏙蜋出蓋孚乳于中也有大小二種大者身黒光腹翼

下有小黃子附母而飛晝伏夜出見燈光則來【以此可入用藥】其

小者身黒而暗晝飛夜伏【小者不堪藥用】狐並喜食之

𧏙蜋【鹹寒有毒五月五日採蒸藏之臨用去足火炙】手足陽明足厥陰之藥古方

 治小兒驚風疳疾爲第一 治箭鏃入骨者用巴豆【微炒】

 同𧏙蜋搗塗斯須痛定必微痒忍之待極痒不可忍乃

 撼動拔之立出

𧏙蜋心 在腹下度取之其肉稍白是也能治丁瘡貼之

 半日許再易血盡根出則癒

 

 

せんちむし    蛣𧏙〔(きつきやう)〕 推車客〔(すいしやかく)〕

 くそむし    推丸〔(すいぐわん)〕 黑牛兒〔(こくぎゆうじ)〕

𧏙

         鐡甲將軍

         夜遊將軍

キヤン ラン 【和名、久曽無之〔(くそむし)〕】

       【一名、末呂無之〔(まろむし)〕】

 

「本綱」、𧏙蜋〔(きやうらう)〕は深き目、高き鼻。狀、羗胡(ゑびす)のごとく、背に黒き甲を負〔ふ〕狀〔かた〕ち、武士(もののふ)のごとし。毎〔(つね)〕に土を以つて糞を包み、轉〔(ころ)が〕して丸〔(ぐわん)〕と成して雄は曳(ひ)き、雌〔は〕、推〔(お)して〕坎〔(あな)〕の中に置き、之れを覆ひて去る。數日にして小𧏙蜋、出づ。蓋し、中に孚乳〔(ふにゆう)〕するなり。大小二種有り。大なる者、身、黒くして、光る。腹の翼下に小〔さき〕黃なる子〔(こ)〕有りて、母に附きて飛ぶ。晝、伏し、夜、出づ。燈光を見れば、則ち、來たる【此れを以つて用藥に入るべし。】。其の小なる者、身、黒くして暗し。晝、飛び、夜、伏す【小さき者、藥用に堪へず。】。狐〔(きつね)〕、並びに喜びて之れを食ふ。

𧏙蜋【鹹、寒。有毒。五月五日、採りて蒸し、之れを藏す。用ふるに臨みて、足を去り、火に炙〔(あぶ)〕る。】。手足の陽明、足の厥陰〔(けついん)〕の藥、古方に、小兒の驚風〔(きやうふう)〕・疳疾〔(かんしつ)〕を治するに第一と爲〔(す)〕。 箭鏃(やのね)、骨に入る者を治す。巴豆〔(はづ)〕を用ひ【微〔(わづ)〕かに炒〔(い)〕る】、𧏙蜋と同〔(あは)せ〕て搗〔(つ)〕きて、塗る。斯須(しばらく)して、痛み、定〔(や)む〕。必ず、微かに痒〔(かゆ)〕し。之れを忍(こら)へ、極めて痒くして忍〔(こら)〕ふべからざるを待ちて、乃ち、撼動(うご)かして之れを拔けば、立処〔(たちどころ)〕に出づ。

𧏙蜋心〔(きやうらうしん)〕 腹の下に在り。之れを度取〔(どしゆ)〕す。其の肉、稍(やや)白、是れなり。能く丁瘡〔(ちやうさう)〕を治す。之れを貼(つ)けて半日許〔(ばか)〕りにして、再び易〔(か)〕ふ。血、盡きて、根、出で、則ち、癒ゆ。

 

[やぶちゃん注:所謂、「スカラベ」(scarab:古代エジプト語起源)として知られる食糞性のコガネムシ類、

鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目コガネムシ下目コガネムシ上科 Scarabaeoidea 及びその近縁な科に属する昆虫の中でも主に哺乳類の糞を餌とする一群の昆虫

である。但し、真正の「スカラベ」である、

コガネムシ上科コガネムシ科ダイコクコガネ亜科 Scarabaeini 族タマオシコガネ属 Scarabaeus

の類は本邦には棲息しないから、ここでは、本邦に棲息する食糞性コガネムシの代表種であり、目にもつきやすい大きさで、鞠上の糞球を作るコガネムシ上科センチコガネ(雪隠黄金)科 Geotrupidae の三種

センチコガネ Geotrupes laevistriatus

(成虫体長一四~二〇ミリメートル。頭部背面を覆った頭楯の前縁が半円形をしており、体色は紫・藍・金など個体変異があり、鈍い金属光沢を持つ。北海道島から屋久島・対馬まで分布し、朝鮮半島・中国大陸・樺太にも分布)

オオセンチコガネ Geotrupes auratus auratus

(成虫体長一六~二二ミリメートル。頭楯前縁が三角形に尖る。体表は一般には赤褐色・赤紫色であるが、地域によって鮮緑色・鮮藍色を有する個体もある。強い金属光沢があることで「センチコガネ」と区別出来る。分布域はセンチコガネとほぼ同じ。「ファーブル昆虫記」でファーブルが観察した種は本種の近縁種である)

オオシマセンチコガネ Geotrupes oshimanus

(体表の光沢は殆んどない。奄美大島固有種)

を種として挙げておくこととする。参照したウィキの「センチコガネ科」によれば、『成虫、幼虫共に糞を食べる糞虫である。和名の「センチ」は便所を指す語「雪隠(せっちん)」が訛ったもので、糞に集まる性質に由来する』。『成虫が出現するのは夏で、ウシやウマなどの糞、または動物の死骸や腐ったキノコにも見られる。夕方に地表付近を低く飛んで糞などの餌を探し、夜には灯火にも飛来する。ただし、センチコガネの地域個体群によっては飛翔筋が退化しており、歩行のみで移動する。交尾したメスは獣糞を土中の巣穴に引き込んでこれで育児球を作り、それに産卵する。このとき、育児球を枯葉で包むことが報告されており、この点がコガネムシ科の糞虫の育児球と異なる。孵化した幼虫は育児球を食べて成長する』(下線やぶちゃん)。『糞虫として自然界の物質循環に果たす役割は大きい。また金属光沢のある鮮やかな体色から、他の糞虫同様に昆虫採集の対象ともなっている』とある。

 なお、冒頭に並ぶ「推車客」「推丸」「黑牛兒」「鐡甲將軍」「夜遊將軍」という漢名は、如何にも楽しく、腑に落ちる。

「末呂無之(まろむし)」「まろ」は「丸」で「丸いもの」を指す中古語で、室町以降に「まる」と変じた。「古事記」動詞としての排泄をするの意の「まる」はあるが、これが名詞化した糞を意味する「まり」は、芥川龍之介の「好色」辺りが初出とされているようだから、近代以降の呼称と思われる。従ってここは、「まろ」は「糞」の意味ではなく、糞を巧みに美事に「丸」く「鞠」のように転がす彼らの習性に基づく呼称と採りたい。

「羗胡(ゑびす)」教義には古代より中国西北部に住んでいる民族を指す。現在も中国の少数民族チャン族として存在しているが、ここは漢民族の顔つきとは有意に異なる、広義の異民族の謂いととってよかろう。

「雄は曳(ひ)き、雌は、推(お)して坎(あな)の中に置き、之れを覆ひて去る」私は昆虫には詳しくないので何とも言えないが、管見する限りでは、事実、糞球を作って転がすのはで、はそれに出逢って、その対象(或いは糞球)がよしとなれば、その糞にしがみつき、運ばれて行き、営巣して糞の下で交尾する種がある(mayayan215氏のブログ「ダラダラとムシャムシャ」のフンコロガシの一生」に拠った)というから、かくなる共同作業にように見えたとしても、腑には落ちるというものである。

「孚乳〔(ふにゆう)〕」「孚」は「育むこと」、「乳」はこの場合、「育つこと」の意である。前で親は巣を去るとしているから、糞球の中に産み込まれた卵が孵化し、自律的に幼虫が糞を餌として食って成長することを言っている。但し、mayayan215氏の「フンコロガシの一生」には、『メスは、抗菌作用のある分泌物で卵を守り、孵化するまでの2ヶ月間、卵が腐ったり、菌に感染したりしないか、丹念に見守り、そのまま息絶えます』ともあるので、そうしたが命をかけて育児するタイプではこれはまさに母が主体的に子を育てるの意とある。ウィキの「糞虫にも、『成虫は糞玉を作り上げると出て行くものもあるが、ずっと付き添って糞玉の面倒を見るものもある。ファーブルの観察によると、ダイコクコガネの一種で、糞玉に付き添う成虫を取りのけると、数日のうちに糞玉はカビだらけになり、成虫を戻すとすぐにきれいにしたと』いうとある(但し、このファーブルの言及部分に就いては要文献特定詳細情報要請がかけられている)。

「大小二種有り」これは大陸の「本草綱目」の記載で、大きさや光沢の有無も有意に違い、しかも前者は夜行性、後者はそうでない点で明らかに習性が異なるので、種(亜種の可能性はある)は違うものと考えてよかろう。或いは、後者はフンコロガシでない生物種(フンコロガシの大半は夜行性である)を誤認している可能性もないとはいえない。ただ、ウィキの「糞虫」を見ると、本邦にいるタマオシコガネ亜科マメダルマコガネ族マメダルマコガネ属マメダルマコガネPanelus parvulus がスカラベ類と同じ糞運びをすることが知られているが、体長が僅か三ミリメートルしかないので、目につかないとあるから、大きさの違いは問題にはならないし、光沢の有無も本邦種のセンチコガネ・オオセンチコガネ・オオシマセンチコガネの違いを見ても、それは同じように言える。ただ、気になるのは、「腹の翼下に小さき黃なる子(こ)有りて、母に附きて飛ぶ」という前者の奇妙な叙述で、この黄色い小さな子どもというのは、この虫の何らかの器官の一部と考えられ、さすれば、こちらの方こそ、実はフンコロガシ類とは違った種を誤認している可能性があるのかも知れぬ。昆虫守備範囲外の私には、これ以上の考察は出来ない。識者の御教授を乞うものである。

「並びに」(その違った習性を持つフンコロガシの)孰れをも。

喜びて之れを食ふ。

「五月五日、採りて蒸し」端午の節季を採取とするのは、無論、陰陽五行説などを援用して、成虫の薬効が、そこで最大最強となるとする認識があるからではあろうが、例えば本邦のセンチコガネの場合、成虫が出現するのは夏であるから(この「五月五日」は旧暦であるから夏である)、特定の日に限って採取をし、その他の時季のそれを禁ずることで、採り尽くさないようにする、伝統的本草学の、種を保存する理念の現われとも考え得る。

「藏す」保存する。

「手足の陽明」人体を巡る経絡(けいらく:ツボ)の一つ。ウィキの「手の陽明大腸経」(「経」は「けい」と読む)によれば、『大腸経に属する手を流れる陽経の経絡である。肺と大腸は共に中国の五行(木、火、土、金、水)でいうと金に属するため』、『密接な関係を持つ。また、『大腸はもとより、歯のまわりを取り囲んでいるため』、『歯痛にこの大腸経の経穴を使うこともある』とある。

「厥陰」前と同じく経絡の名。陰気進行の最終段階で、陰気が尽きて陽気が生じる意味を持つ。ウィキの「足の厥陰肝経によれば、『肝経に属する足を流れる陰経の経絡である。肝臓と胆嚢は共に中国の五行(木、火、土、金、水)でいうと木に属するため』、『密接な関係を持つ。また、流注によると肝臓はもとより、目のまわりを取り囲んでいるため』、『目の痛みにこの肝経の経穴を使うこともある』とある。

「古方」古い漢方の処方。

「驚風」小児が「ひきつけ」を起こす病気の称。現在の癲癇(てんかん)症や髄膜炎の類に相当する。次の「疳疾」も同類の症状を指す。

「箭鏃(やのね)」鏃(やじり)。

「巴豆(はづ)」キントラノオ目トウダイグサ科ハズ亜科ハズ連ハズ属ハズ Croton tiglium の実のこと。マメ科ではないので注意。実は凡そ一・五センチメートル弱の楕円形で中に三個の種子を持つ。ウィキの「ハズ」によれば、『種子から取れる油はハズ油(クロトン油)と呼ばれ、属名のついたクロトン酸のほか、オレイン酸・パルミチン酸・チグリン酸・ホルボールなどのエステルを含む。ハズ油は皮膚につくと炎症を起こす』。『巴豆は『神農本草経下品』や『金匱要略』に掲載されている漢方薬であり、強力な峻下』(しゅんげ:下剤効果の中でも強いものの様態を指す)『作用がある。走馬湯・紫円・備急円などの成分としても処方される。日本では毒薬または劇薬に指定』『されているため、通常は使用されない』とある。

「同〔(あは)せ〕て」私の推定訓読。

「斯須(しばらく)して」二字へのルビ。

「定〔(や)む〕」私の推定訓読。(痛みが)止まる。

「之れを忍(こら)へ、極めて痒くして忍〔(こら)〕ふべからざるを待ちて」これって結構、シンどそうだなぁ。

「撼動(うご)かして」二字へのルビ。揺り動かして。

「度取〔(どしゆ)〕す」私の推定読み。よく見極めて採取する。

「丁瘡〔(ちやうさう)〕」面疔(めんちょう)のこと。汗腺又は皮脂腺が化膿し、皮膚や皮下の結合組織に腫れ物を生じた症状が顔面に発症した場合を指す。

「根」腫れ物の化膿して生じた核である膿の囊(ふくろ)。]

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