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2016/12/03

谷の響 五の卷 三 皮を剝ぎ肉を截れて聲を發てず

 

 三 皮を剝ぎ肉を截(きら)れて聲を發(た)てず

 

 何れの御邸第(おやしき)にや名は忘れたれど、酉藏と言へる仲間頭のものありき。一日飴(あるひ)餘所(よそ)へ出て夜亥剋(よつとき)のころ歸りしが、時境(をりから)月いと澄わたりて明亮(あきらか)なるに、不圖塀の内なる松を向上(みあぐ)れば、平素(つね)に見もせぬ瘤あるに怪しく思ひ、門の裏に入りて看改(みなほ)せど紛れもあらぬ大きなる瘤なりき。酉藏は卽便(そのまゝ)松に登り帶たる木刀にて彼瘤を暴栗(したゝか)に擊ければ、狐ありて脇の枝に遷りたり。然(さて)こそあれと犬を呼びしに大きなる犬ども六七疋かけ來れば、酉藏は枝を拂ひて嚴しく逐たてしに、堪へえでや忽ち地上に墮たるを、數疋の犬やがて嚙つき已に殺すべかりしを、犬を追ひ退け狐を捕へて部屋に携來り、仲間共にしかしか語りていまだ活あるものを皮剝しかど、苦痛の容子もなくすこしも聲を出さず。かくて皮を剝畢(はぎお)ひぬるに其狐はむくむくと起(おき)て立んとするを、又擲きふせ肉を截扮(けづり)汁に焚(たい)て噉ひしかども死なでありけり。世の話に狐死に迨ぶとも苦聲を發することなしと言へるは實(まこと)なることなりと、この酉藏語りしとて山内與之吉といへる人語りしなり。こは天保二三年頃なるよしなり。

 又、僕又吉の語りけるは、弘化二年にてありけん、中村の山中にて芦萢(あしやち)村の者共狼の子の未だ幼氣(をさなげ)なるもの二三疋狩出して、卽便(そのまゝ)叩きふせ肚を剝き背を割りて寸々(ずたずた)に屠れども、さらに一聲も發(いだ)さずして死せるとなり。狼と狐は苦痛をよく堪へて死に迨るといへども聲を發(た)てることなしと、老夫(としより)の語なりと語りしなり。實にさることのあるにこそ。

 

[やぶちゃん注:「酉藏」「とりざう(とりぞう)」と読んでおく。音なら「いうざう(ゆうぞう」であるが、一般的とは思われない。

「仲間頭」「中間頭」。「ちうげんがしら」。

「亥剋(よつとき)のころ」二字へのルビ。午後十時頃。

「時境(をりから)」二字へのルビ。

「不圖」「ふと」。

「裏」「うち」。

「暴栗(したゝか)に」二字へのルビ。

「擊ければ」「うちければ」。

「遷りたり」「うつりたり」。

「逐たてしに」「おひたてしに」。

「墮たるを」「おちたるを」。

「嚙つき」「かみつき」。

「携來り」「たづさへきたり」。

「仲間共」支配の中間(ちゅうげん)ども。

「しかしか」ママ。

「活」「いき」。息。

「剝しかど」「はぎしかど」。

「剝畢(はぎお)ひぬるに」ルビはママ。「はぎおはんぬるに」の意。

「立ん」「たたん」。

「擲きふせ」「たたき伏せ」。

「截扮(けづり)」二字へのルビ。動詞として訓じている。

「噉ひしかども死なでありけり」不審。――「噉(くら)ひしかども」「死」ぬるま「で」(切り刻んで鍋にすっかり姿形を失ってしまう、その直前まで狐は)聲立てず「ありけり」――の謂いであろう。肉鍋にして喰らっても生きていたら、これはもう、無惨を通り越して、シュール過ぎる。

「迨ぶ」「およぶ」。「及ぶ」。

「苦聲」「くしやう」。狐を悼んでかく訓じておく。

「與之吉」「よのきち」と読んでおく。

「天保二三年」一八三一、一八三二年。

「僕」「しもべ」。

「又吉」「またきち」。

「弘化二年」一八四五年。

「中村の山中」前に出した底本の森山泰太郎氏の「中村澤目」の補註で、『中村川(西津軽郡鯵ケ沢町の東を流れ、舞戸で日本海に注ぐ)に沿う山間地帯をいう。中村・横沢・芦苑』(あしや)『(いずれも鯵ケ沢町に属す)などが主な部落である』とある中の「中村」であろう。現在の鯵ケ沢町の鯵ケ沢街道に沿った中村町。附近(グーグル・マップ・データ)。

「芦萢(あしやち)村」底本の森山氏の補註に、『西津軽郡鯵ケ沢町芦萢(あしやち)。中村川を滑った山間の村落』とある。現在の鯵ヶ沢町(あじがさわまち)芦萢町(あしやちまち)。(グーグル・マップ・データ)。

「狼」絶滅した食肉(ネコ)目イヌ科イヌ属タイリクオオカミ亜種ニホンオオカミ Canis lupus hodophilax

「肚を剝き」「はらをむき」とと取り敢えずは訓じておく。但し、平尾はしばしば濁点を打たないこと、標題から見るなら、「はらをはぎ」と読んでいる可能性が高い。

「屠れども」「はふれども」。ほふる。体を切ってばらばらにする。

「迨る」「およべる」「及べる」。

「實に」第一段落との対表現であるから、「まことに」。]

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