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2017/02/17

小穴隆一「鯨のお詣り」(46)「影照斷片」(4)

 

         ○

 

 ――あの時は、それでも僕等は嵐の中に互(たがひ)に互の空色(そらいろ)が出るのを待つてゐた。

 

 槻(つき)を句にしたがつてゐたがなあ、

 高槻(たかつき)や、高槻やと、置いてゐたがなあ、

「君は、僕の女房にどうしてあんなにわからずやになつたのかつて言つたさうだね。女房もほんとにどうしてかうわけがむからなくなつたのかと言つてゐたよ。ほんとに君、僕はそんなにわからずやになつてしまつたかね。女房は言つてたよ。小穴さんはどうしてあんなにわからずやになつたのかつて僕のことを言つてたつて、君ほんとに僕はさうかね。」

 僕は僕の家に這入(はい)つてくるといふよりはいつももぐつてくるといふ格好の無氣味を忘れないよ。

 うしろの松だつて、朝寒(さざむ)や、松をよろへる、蔦(つた)うるし這(はは)せて寒し庭の松、仕舞ひには、飛行機も東下(あづまくだ)りや朝ぐもりなんて僕のとこの唐紙(からかみ)のきれつぱしに書いてゐたではないか。

「女房は僕に、僕に君の癖がすつかりうつつちやつたつて言つてたよ。うつつちやつたつてね。」

 ああ、アハツハツツ――、

 さういふげらげら笑ひは僕にうつつちやつた。

[やぶちゃん注:この断片は「二つの繪」版の「鵠沼」にほぼ丸ごと活かされてある。]

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