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2017/05/31

「想山著聞奇集 卷の四」 「耳の大ひ成人の事」

 

 耳の大(おほ)ひ成(なる)人の事

 

Oomimitabu

 

 天保九年【戊戌】の春。向島木母寺(もくぼじ)の少し手前の土手に、乞食(こつじき)躰(てい)の者、人の手の内を乞居(こひゐ)たり、此者、面躰は三十有餘と見ゆれども、體(からだ)の大(おほき)さは十三四歳の丁稚(でつち)程にて、右の方(かた)、耳垂珠(みゝたぶ)、甚だ大く、厚さ三寸計(ばかり)にて、巾六七寸も有。長さは一尺四五寸も有て、着座なし居(ゐ)て、耳たぶ、地を摺(する)程有たり。共其色、紫黑(むらさきくろ)にて、肌もぶつぶつとして、全く疝氣玉(せんきだま)にそのまゝ也ければ、疝(せん)も、耳に入るものと見えたり。珍敷(めづらしき)病(やまひ)もあるものなり。由(よつ)て、其ありさまを畫(ゑが)きもらひたり。か樣のかたは成(なる)ものは、まゝ有ものにて、強て奇とするには足(たら)ざれ共、一奇病ゆゑ、爰(こゝ)に記し置(おき)ぬ。

[やぶちゃん注:「天保九年」一八三八年。

「木母寺(もくぼじ)」現在の東京都墨田区堤通にある天台宗梅柳山墨田院木母寺。謡曲「隅田川」所縁の寺として知られる。

「一尺四五寸」四十三から四十六センチメートル弱。挿絵は白く抜けてしまって、しかも右耳の下が深く切り込んで衣服の模様が見えている(その点於いて、これは耳朶(みみたぶ)ではなく耳介の一部の肥大という方が適切なようにも思われる。ぶるんとして下がっているから想山は「耳たぶ」と思い込んでしまっただけかも知れぬ)。ともかく、これは想山の言うような畸形者の事実記録の資料画としては上手く描けているとは言えない。

「疝氣玉」通常、疝気とは漢方で下腹部から睾丸部にかけての鋭い差し込むような痛みを伴う男性の病気を指す。想山はそうした本来は男性の下腹部疾患が耳に入って生じて肥大したものとして彼のそれを「耳に入るものと見えたり」と言っているようだが、どうもこの「全く疝氣玉(せんきだま)にそのまゝ也」というのは、これ以前に想山が一般的な疝気の腫瘤としての現物を知っており、それを前提として語っているように感じられるところが不審である。疝気は多様な疾患が想定されるが、或いは結石類もその候補に上っているから、或いは膀胱結石や尿道結石の自然体外排出されたもの(或いはされたとするもの)を彼が見たことがあったのかも知れない(尿路結石類はカルシウム・マグネシウム・シュウ酸・リン酸・尿酸・シスチン酸などの物質が結晶化する結果、その主成分によって色(及び形)が違ってくる(尿路結石中でその八十%を占めるのはシュウ酸カルシウム結石とされ、不均一でギザギザした特徴的な表面を持つ)が、結石の色は黄褐色や黒褐色が多く見られる)。ともかくも、これは何らかの後天的な疾患というよりも、先天性の耳介にのみ生じた畸形か(ただ彼が顔は三十代であるのに身体が小さいのはそれ自体が、深刻な腰椎や脊椎の先天性奇形である可能性も示唆しているようにも思われる)、何らかの耳介下部に発生した長期に亙って徐々に肥大化していった良性腫瘤のようにも感じられる。色と肌合いの異常はこれだけの大きさで垂れ下がっている以上、血流不全が発生した結果としては納得出来る(しかし挿絵のそれは原典画像を見ても全く白く描かれているのは不審である)。]

 

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