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2017/05/11

南方熊楠 履歴書(その30) 窒素固定法(2)

 

 小生はとても左様の大事業を思い立つべきにあらざるが、物みな順序なかるべからずで、まず第一に空中から窒素をとる一法としては、その方向きのバクテリアを養成せざるべからず。バクテリアの種(たね)を養成するに、普通用うるアガーアガー(トコロテンを精製せるもの)は今日決して安値なものにあらず。トコロテンを作るべき海藻は到る処の海に生ぜず。海中にても定まった少しばかりの処にのみ生ずるものなれば、到底空中から多く窒素をとるに必要なるだけ多くわが邦に産せざるなり。しかるに、他邦は知らず、この紀州にはずいぶん多く生ずるパルモグレアという藻(も)あり。これは陰湿の丘側また山村の家の庭園などに、葛を煮て打ちなげたるごとき、透明の無定形の餅塊をなして多く生ずるなり。

[やぶちゃん注:「その方向きのバクテリア」所謂、人工的でない窒素固定(生物が空気中の遊離窒素を取り込んで窒素化合物を作る自然現象)は各種生物で見られる。因みに、地球上で固定される窒素は年間約三億トンに及ぶと推算されているが、その大部分はこの生物による窒素固定である。参照した小学館「日本大百科全書」によれば、『窒素固定微生物は大きく共生によるものと非共生によるものとに分けられ』、『共生的な窒素固定微生物ではマメ科植物に共生する根粒菌』(真正細菌プロテオバクテリア門 Proteobacteria αプロテオバクテリア綱 Alpha Proteobacteria リゾビウム目リゾビウム科リゾビウム属 Rhizobium・ブラディリゾビウム属Bradyrhizobium 等)『がその代表的なものである。根粒をつくってすみついた根粒菌に植物は光合成で得た炭水化物を与えるが、細菌のほうは植物に窒素源としてのアンモニアを提供する。非マメ科植物』(ブナ目カバノキ科ハンノキ属 Alnus ・ブナ目ヤマモモ科ヤマモモ属 Morella・マンサク亜綱モクマオウ目モクマオウ科モクマオウ属Casuarina 等)『には放線菌』(真正細菌放線菌門放線菌綱フランキア目 Frankiales フランキア科 Frankiaceae フランキア属 Frankia)『が根粒を形成して窒素固定を行う。ほかに』、真正細菌藍色細菌門 Cyanobacteria(シアノバクテイリア:藍藻類)は『単独でも窒素固定を行うが』、裸子植物(裸子植物門ソテツ綱ソテツ目ソテツ科ソテツ属ソテツ Cycas revoluta の根など)・シダ植物(シダ綱サンショウモ目アカウキクサ科アカウキクサ属アカウキクサ亜属アカウキクサ節アカウキクサ Azolla imbricata の葉など)・地衣類(菌類と藻類の共生体で見かけ上、単一の生物のように見えるものの総称)『とも共生して窒素を固定できる。非共生的な窒素固定微生物は絶対嫌気性細菌』(真正細菌フィルミクテス門 Firmicutes クロストリジウム綱 Clostridia クロストリジウム目 Clostridiales クロストリジウム科 Clostridiaceae クロストリジウム属 Clostridium など)・通性嫌気性細菌(フィルミクテス門バシラス綱 Bacilli バシラス目 Bacillales バシラス科 Bacillaceae バシラス属 Bacillus など)・好気性細菌(真正細菌プロテオバクテリア門 Proteobacteria γプロテオバクテリア綱 Gammaproteobacteria シュードモナス目 Pseudomonadales シュードモナス科 Pseudomonadaceae アゾトバクター属 Azotobacter など)・光合成細菌・藍藻類など『多岐にわたっている』。ここで南方熊楠がその窒素固定をやらせるに最も向いた種群としては真正細菌藍色細菌門 Cyanobacteria の「シアノバクテイリア」類(旧称・藍藻類)が一番であると言っているのである。

「アガーアガー(トコロテンを精製せるもの)」“agar-agar”は培地用に精製された寒天のこと。

「トコロテンを作るべき海藻」主に紅色植物門紅藻綱テングサ目テングサ科 Gelidiaceae の天草類(最も一般的な種はテングサ属マクサ Gelidium elegans)や紅藻綱オゴノリ目オゴノリ科オゴノリ属オゴノリ Gracilaria vermiculophylla 等を原材料とする。

「パルモグレア」「南方熊楠顕彰会のブログ」の記事のコメント回答によれば、緑藻植物門緑藻綱ヨツメモ目パルメラ科 Palmellaceae グレオキスティス属 Gloeocystis の一種とする。ただ、邦文学術サイトや海外サイトの同科の画像を見ても、このパルメラ科やグレオキスティス属で、南方熊楠が言うような、庭に(則ち、湿潤ではあっても陸に。次段でも南方熊楠は、はっきりと、この生物の生成する「トコロテン」様物質を「陸生トコロテン」と断じている)葛餅を投げ捨てたような寒天状の有意な塊りとなって生ずるような画像は遂に見い出すことは出来なかった。正体不明の物質として如何にもそれらしいものがあったが、それはなんとまあ! 流星群の発生した後に出現し、それは「スター・ゼリー」(Star Jelly)と呼ばれるなんどと書かれてあった。記事。但し、これ、眉に唾つけて見た方が私はよろしいと思う。それを見ながら、これこそ熊楠の言う「パルモグレア」と同定した方が、ずっと腑に落ちる気はした。ともかくも識者の御教授を乞うものである。]

Parumogurea


 顕微鏡で見れば、このような[やぶちゃん注:底本にはここに編者により『図のAを指す』と割注が入る。]微細の小判形の緑色のもの多くあり。これが藻の本体にて、こんな『図のBを指す』と割注が入る。]餅塊でつゝつまる。これが軟膠(ゼラチン)で、件の藻の体よりふき出さるるなり。海藻よりカンテンを作るには煮たり晒したりいろいろと手数を要するが、この陸生のトコロテンは既成のカンテン同様純白無色透明で、ただ多少混入せる土砂をさえ去ればよいのですこぶる便利にもあり、土の上に生じたのを水に入れ、ちょっと洗って砂糖をかくればただちに食い得るなり。陰湿の地にさえあらば多量に繁殖せしめ得る。よってこの陸生トコロテンを多く繁殖せしめて、空中から窒素をとるべきバクテリアを安価に多く繁殖せしむる方便とせんと企てしに、第一に日光とこの藻との精確なる関係を知り明らむるを要するゆえ、一畝ほどの畔(あざ)を作り、これに件(くだん)の藻を栽(う)えつけ冬至の日にその畔の北端まで日があたるように作り、それより一日一日と立つに随い、日光がおいおい夏至までにその畔の南端まで及ぶように作り、多年日光がこの藻に及ぼす影響を試みし。ただし、この外にもいろいろと学術上試験すべきことありて、この畔を日夜七度ずつ、夜は提灯をと催して五年つづけて怠りなく視察しおりたるなり。

[やぶちゃん注:「軟膠(ゼラチン)」ゼラチン(gelatin)は、動物の骨・皮膚・腱などの動物性原材料に酸やアルカリを作用させ、さらに加水して長く煮、そこから抽出された蛋白質を指す語であって、ここで藻類の形成するそれにこの語を使うのは正しくない。せめて「軟膠(ゼラチン)状」とすべきところである。

「空中から窒素をとるべきバクテリア」先に挙げた「南方熊楠顕彰会のブログ」の記事のコメント回答によれば、『その熊楠が研究しようとしていた「バクテリア」』が如何なる種であったかは『今のところ不明で』あるとある。]

 

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