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2017/06/10

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 天牛(カミキリムシ)

Kamikirimusi  

かみきりむし 大水牛

       八角兒

天牛    獨角仙【一角天牛】

      【和名髮切蟲】

テンニウ

 

[やぶちゃん注:以下、特異的に、本文に先立って、図(中央)と見出し柱(下部)の、その上に良安の附説がある。東洋文庫注によれば、この附説は杏林堂版には存在しないとある。]

 

△按天牛大不如蟬

一寸余而正黒色畧

近于吉丁蟲形羽厚

不能遠飛吻有如鋏

者能切髮又蟷螂莎

雞蝗之類又切髮也

 

本綱天牛【有毒】大如蟬黒甲光如漆甲上有黃白點甲下

有翅能飛目前有二黒角甚長前向如水牛角能動其喙

黒而扁如鉗甚利亦似蜈蚣喙六足在腹乃諸樹蠹蟲所

化也夏月有之出則主雨在其桑樹者爲囓桑【一名囓髮又名壤】

羅山文集天牛蟲詩云血餘毎被此蟲抽須未曾饒黒白

 頭舌上剃刀分寸許蟬冠萬髮汝知不

一種飛生蟲【天牛別類】狀如囓髮頭上有角其角無毒【與鼺鼠同名】

 

 

かみきりむし 大水牛

       八角兒

天牛    獨角仙【一角天牛。】

      【和名、髮切蟲(かみきりむし)。】

テンニウ

 

[やぶちゃん注:訓読では、今までの他章と同様に最後にこれを持って行き、注もその順で附した。漢詩は正字に変えた白文を示し、その後に改めて訓読文を附加した。詩の前後は行空けした。]

 

「本綱」、天牛【毒、有り。】大さ、蟬のごとし。黒き甲、光り、漆〔(うるし)〕のごとく、甲の上に黃白の點、有り。甲の下に翅〔(はね)〕有りて、能く飛ぶ。目の前に二〔(ふたつ)〕の黒角〔(こくかく)〕、有り、甚だ長く、前(まへ)に向て、水牛の角〔(つの)〕ごとく、能く動〔うごか〕す。其の喙(くちはし)、黒くして扁〔(ひらた)〕く鉗(はさみ)のごとく、甚だ利なり。亦、蜈蚣〔(むかで)〕の喙に似る。六足、腹に在り。乃〔(すなは)〕ち、諸樹の蠹蟲(きおくいむし)の化する所なり。夏月、之れ、有り。出ずる時は則ち、雨を主〔(つかさど)〕る。其の桑樹に在る者は囓桑〔(けつさう)〕と爲〔(な)〕す【一名、囓髮(けつぱつ)、又、壤(じやう)と名づく。】。

「羅山文集」、「天牛蟲」の詩に云く、

 

 血餘每被此蟲抽

 須未曾饒黑白頭

 舌上剃刀分寸許

 蟬冠萬髮汝知不

  血餘(かみ) 每〔(つね)〕に此の蟲に抽〔(ひ)〕かる

  須らく未だ曾つて饒(あ)かず 黑白頭〔(こくびやくとう)〕

  舌上(ぜつじやう)の剃刀(かみそり) 分寸〔(ぶすん)〕許〔(ばか)〕り

  蟬冠〔(ぜんくわん)〕萬髮〔(まんぱつ)〕 汝 知るやいなや

 

一種、飛生蟲【天牛の別類。】、狀、囓髮〔(かみきりむし)〕のごとく、頭上に、角、有り。其の角、無毒【鼺鼠〔(むささび)〕と、名、同じ。】。

△按ずるに、天牛、大さ、蟬のごとからず、一寸余りにして、正黒色、畧〔(ほぼ)〕、吉丁蟲(たまむし)の形に近く、羽、厚く、遠く飛ぶこと能はず。吻に鋏〔(はさみ)〕のごとくなる者有りて、能く髮を切る。又、蟷螂〔(かまきり)〕・莎雞(きりぎりす)・蝗(いなご)の類も又、髮を切るなり。

 

[やぶちゃん注:主記載のそれは「黒き甲、光り、漆のごとく」で「甲の上に黃白の點」があるところから、本邦産カミキリムシの最大種である、全体の地が灰褐色で、前翅に黄色の斑紋や短い筋模様が並び、前胸の背中側にも二つの縦長の斑点があり、これらの模様が死ぬと白色になるところの、鞘翅(コウチュウ)目カブトムシ亜目ハムシ上科カミキリムシ科フトカミキリ亜科シロスジカミキリ族シロスジカミキリ属シロスジカミキリ Batocera lineolata に同定してよいであろう。

「雨を主〔(つかさど)〕る」東洋文庫版訳では『雨が降る』とある。結果はそうだが、「主」には「降る」という意味はない。

「囓桑」幼虫の食草・食樹は種類によって概ね決まっているが、複数の樹に適応するものも多く、桑だけでは(バラ目クワ科クワ属 Morus のクワ類はカミキリムシ類で広汎に好まれる樹種である)種同定は困難である。現代中国語では、この漢名を持つ種は見当たらないようである。但し、以下の「壤」を東洋文庫版では誤字として『蠰』とするが、この字は漢和辞典では「くわかみきり」と出、本邦ならばこれはフトカミキリ亜科シロスジカミキリ族クワカミキリ属クワカミキリ Apriona japonica の和名である。但し、これが中国にも棲息し、「本草綱目」のこれや「囓髮」と同一種或いはごく近縁種であるかどうかはインセクタでない私には何とも言えない。学名や諸記載から見る限りでは大陸には本種は棲息しないような感じがする。

「羅山文集」江戸初期の朱子学者林羅山(天正一一(一五八三)年~明暦三(一六五七)年)の詩文集。この詩「天牛蟲」は、東洋文庫版の割注によれば、同文集の「詩集」の「卷第五十七」の「十二蟲」にある「髮切蟲」である。

「血餘」漢方で「頭髪」を指す。「血」の養分の「余」りから生じた体の一部と考えたのである。

「汝知不」東洋文庫版は『汝知るや知らずや』と訓じているが、訓点ではそのようには私は読めない。「この詩、全体の意味がよく分らぬ」ここに注したところ、教え子が以下のような返信を呉れた。

   《引用開始》

 

Fan_zhongyan

 

先生。羅山の漢詩、私は次のように解釈します。「須」を副詞と取ると未曾に繋がりにくいので、髭と理解します。「蝉冠」は漢民族の王朝における高官の冠。ここでは高官の暗喩です。蝉の羽根または蝉の図案を冠に付けるのでこの名称があります。北宋の大官範仲淹と言われている肖像をご参考までにここに貼り付けます。[やぶちゃん注:教え子が張りつけたものと同一の、ウィキの「範仲淹のパブリック・ドメイン画像を上に張り付けておいた。]額の上部にひとつ付いている図案、側面に三つ付いている図案、いずれも蝉です。では、詩四行の意味をまとめます。

 

髪の毛はいつもこの虫に引っ張られてしまう

白髪交じりの老いぼれには髭さえ豊かに蓄えられたことがない

お前の口にある剃刀はほんの小さな代物だね

高官が隠し持つ眼に見えぬ豊かな髪の毛をお前は知っているか

 

つまり、カミキリムシに託して、老人の負け惜しみと、高官としての矜持を歌った詩ではないでしょうか。

   《引用終了》

 

これで、すこぶる、腑に落ちた。

「飛生蟲」種同定不能。調べてみると、これ、カブトムシの意味もある。

「其の角、無毒」いやいや、そもそもがカミキリムシの角(触角)には毒はないでっしょう!

「鼺鼠〔(むささび)〕」読みは東洋文庫版に拠った。齧歯(ネズミ)目リス亜目リス科リス亜科 Pteromyini 族ムササビ属 Petaurista のムササビ類には、現在もこれとか、「鼯鼠」(中文ではこちら)の漢字が当てられている。

「吉丁蟲(たまむし)」鞘翅目多食(カブトムシ)亜目 Elateriformia 下目タマムシ上科タマムシ科 Buprestidae の玉虫類。

「莎雞(きりぎりす)」直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目キリギリス下目キリギリス上科キリギリス科キリギリス亜科 Gampsocleidini 族キリギリス属 Gampsocleis のキリギリス類。「螽蟖」や「螽斯」はよく見かけるが、これは正直、初めて見た。「雞」は「鷄」、「沙鶏」とも書く。何となく納得出来る。]

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