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« 宿直草卷三 第十五 鼠、人を喰ふ事 / 卷三~了 | トップページ | 和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 鼠婦(とびむし) »

2017/07/14

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 䗪(おめむし)〔ワラジムシ〕


Omemusi

おめむし   地鼈 土鼈

       虵蜱 蚵

【音祖】

       簸箕蟲 過街

ツヲヽ    【和名於女無之】

 

綱目䗪生川澤及沙中人家墻壁下濕處其形扁如鼈有

甲不能飛少有臭氣又狀似鼠婦大者寸餘小兒多捕以

負物爲戯此蟲逢申日則過街故名過街又與燈蛾相牝

牡矣䗪【鹹寒有毒】爲折傷接骨秘藥【方出本綱附方】

△按字彙䗪【一名鼠婦】和名抄䗪【一名𧉅】共爲鼠婦者誤也

 

 

おめむし   地鼈〔(ちべつ)〕   土鼈

       虵蜱〔(しやひ)〕   蚵〔(かひ)〕

【音、祖〔(シヤ)〕。】

       簸箕蟲〔(はきちゆう)〕 過街

ツヲヲ    【和名、於女無之。】

 

「綱目」、䗪は川・澤及び沙中・人家墻壁の下〔の〕濕處に生ず。其の形、扁に〔して〕鼈のごとし。甲、有りて、飛ぶ能はず。少し臭(くさ)き氣(かざ)有り。又、狀、鼠婦に似て、大なる者、寸餘。小兒、多〔く〕、捕(とら)へて、物を負ふを以つて戯〔(たはぶ)〕れと爲す。此の蟲、申の日に逢へば、則ち、街を過ぐ。故に「過街」と名づく。又、燈蛾と相ひ牝牡〔(ひんぼ)〕す。䗪【鹹、寒。毒有り。】、折傷(うちみ)・接骨(ほねつぎ)の秘藥と爲す【方、「本綱」の「附方」に出づ。】。

△按ずるに、「字彙」に、『䗪【一名、鼠婦。】』。「和名抄」、『䗪は【一名、𧉅〔(いゐ)〕】』〔として〕共に「鼠婦」と爲すは誤りなり。

 

[やぶちゃん注:幾つかの問題点があるが、結論を言うと、本文で扁平であるとすること挿絵に描かれた個体群の確かに扁平に見える体部と有意に長い触角、及び、「鼠婦」(本書の事項が「鼠婦」で「とびむし」と和訓している)なるものに似ているとしつつも、本文にはどこにも刺激を加えると丸くなるという叙述が出現しないことから、ここはまず、第一同定候補として、

節足動物門 Arthropoda 甲殻亜門 Crustacea 軟甲(エビ)綱Malacostraca 真軟甲亜綱 Eumalacostraca フクロエビ上目 Peracarida 等脚(ワラジムシ)目Isopoda ワラジムシ亜目 Oniscidea Ligiamorpha 下目 Armadilloidea 上科ワラジムシ科 Porcellionidae Porcellio属ワラジムシ Porcellio scaber

を挙げるべきと考える。以下、ウィキの「ワラジムシ」を全面引用すると、『ワラジムシ(草鞋虫、鼠姑、蟠)は』ワラジムシ科 Porcellionidae『に属する動物の一種のこと、あるいはワラジムシ亜目のかなりの種を総称する呼び名である』が、狭義の種としてのワラジムシ Porcellio scaber は体長十二ミリメートル程で、『人家周辺の石の下や草の間の地面に普通に見られる。体は灰色がかった褐色、上から見ると楕円形で、ダンゴムシとは異なり』、『前後が狭まる。また、背中はなだらかに盛り上がるだけで、やや扁平な動物である』。『体は頭部と胸部、腹部に分かれ、頭部からはやや発達した第』二『触角が伸びる。胸部は体の八割ほどを占め』、七『対の体節と付属肢が確認できる。腹部は幅狭く、末端には尾肢が一対、短い角のように突き出る』。『ヨーロッパ原産で、世界各地に広がり、日本では本州中部以北および沖縄に見つかっている。近似種も多い』。以下、「広義のワラジムシ」の項、『広義のワラジムシは、この属や科だけでなく、ワラジムシ亜目ほぼすべてを含んで』呼称されていると考えねばならない。同亜目は科としてフナムシ科 Ligiidae・ナガワラジムシ科 Trichoniscidae・ヒゲナガワラジムシ科 Olibrinidae・ウミベワラジムシ科 Scypacidae・ヒメワラジムシ科 Philosciidae・ホンワラジムシ科 Oniscidae・ハヤシワラジムシ)科 Trachelipidae・ワラジムシ科 Porcellionidae・オカダンゴムシ科 Armadillidiidae・ハマダンゴムシ科 Tyloidae・コシビロダンゴムシ科 Armadillidae を立てるが、この中には、現行では我々が一般には「ワラジムシ」とは呼ばないフナムシ科に海岸でよく見る「舟虫」(フナムシ類)が含まれ、また、最後のオカダンゴムシ科 Armadillidiidae・ハマダンゴムシ科 Tyloidae・コシビロダンゴムシ科 Armadillidae の三科には、所謂、現行で我々が「団子虫」(ダンゴムシ)と呼んでいるあの種群が含まれている。ウィキはここで『それ以外のものはすべて「ワラジムシ」の呼称で呼ばれている。むしろワラジムシ相(動物相の一部としての)と言えば、ダンゴムシなども当然含まれているものとして扱われることが多い』と述べている通り、実は我々のうちの多くは、狭義の「草鞋虫」(ワラジムシ類)と狭義の「団子虫」(ダンゴムシ類)をかなり高い確率で一緒くたにして、同じ種とさえ考えている可能性が高い(ワラジムシをダンゴムシの子どもと考えている者、ワラジムシを盛んに突いて「このダンゴムシ、団子にならねえ」という成人を私はしばしば見かけた。なお、私はこの混同は実は本著者である寺島良安も免れていないのではないかと考えている。ワラジムシは現在、世界で約千五百種が知られ、本邦でも百種ほどが『知られていると言うが、実際には』四百『種あるかもとも言われている』。一九八〇『年代くらいまでほとんど手つかずであった研究が現在は進行しており、多くの新種が確認されつつある』とある。

 ただ、本書を大観してみても実は我々に馴染み深い、かの「団子虫」は記載がない(次の「鼠婦(とびむし)」は図はそれらしいが、本文によく飛ぶとある点で決定的に違う)。さすれば、先に私が太字下線で示した通り、ここには、

ワラジムシ亜目のオカダンゴムシ科 Armadillidiidae オカダンゴムシ属オカダンゴムシ Armadillidium vulgare 及びハナダカダンゴムシ Armadillidium nasatum

及び、海岸線の特に砂浜に見られる、やや大型の、

ハマダンゴムシ科 Tylidae ハマダンゴムシ属ハマダンゴムシ Tylos Granulatus

と、森林の土壌を好む、やや小型の、

コシビロダンゴムシ科 Armadillidae コシビロダンゴムシ属 Sphaerillo のコシビロダンゴムシ類(本属は参照したウィキの「ダンゴムシ」によれば、『研究がほとんど進んでおらず、どれだけ種類があるのかさえよくわかっていない。コシビロダンゴムシよりは分類研究が進んでいるワラジムシでも、新種が次々に出ている現状から推しても、コシビロダンゴムシにもかなりの種数が存在する可能性が』高いとある)

をも同定候補として加えければならぬように思われるのである。なお、同ウィキによれば、『オカダンゴムシが多分』、『ヨーロッパ原産の帰化動物であるのに対して、これらは土着種である』とある。このオカダンゴムシの帰化時期が何時なのか判らぬが、或いは、江戸時代(本書は江戸中期の正徳二(一七一二)年自序)には侵入していなかったとするならば、特徴的な反応をする「団子虫」が書かれていないは腑に落ちる。丸くなる習性は博物学者なら絶対に記載せずにはおかぬからである。因みに、ウィキの「オカダンゴムシ」によれば、『オカダンゴムシは、元々、日本には生息していなかったが、明治時代に船の積荷に乗ってやってきたという説が有力である。日本にはもともと、コシビロダンゴムシという土着のダンゴムシがいたが、コシビロダンゴムシはオカダンゴムシより乾燥に弱く、森林でしか生きられないため、人家周辺はオカダンゴムシが広まっていった』と記されているのである(太字下線はやぶちゃん)。

 なお、「日本国語大辞典」では「おめむし」の項があり、はっきりと『「わらじむし」(草鞋虫)の異名』と記してある。そして、語源としては「大言海」の『オメムシ(怖虫)の義。席を叩けば怖れて止まるためにこの名がつけられた』という説、「名言通」の『ノミムシの転』の二つが示されてある。

・「䗪【音、祖〔(シヤ)〕。】」「祖」の音(読み)は東洋文庫版に従った。「䗪」は音「シヤ」で、「祖」は現行では「ソ」しか一般に知られていないが、「廣漢和辭典」によれば、中国の固有県名を現わす際の特殊なケースで「シヤ」の音がある。但し、実はこの「䗪」にこそ大きな問題があるのである。何故なら、この字は現行の中文や漢方では、かのゴキブリ類(節足動物門 Arthropoda昆虫綱 Insectaゴキブリ目 Blattodea)を指すからである。中文漢方サイトを探った限りでは、Corydiidae Eupolyphaga Eupolyphaga sinensis(「シナゴキブリと和名する本邦の記載があるが、「シナ」は最早、現行ではまずいだろう)か、或いはオオゴキブリ亜目 Blaberoidea ムカシゴキブリ科 Polyphagidae の種のように読める。そして、ゴキブリという観点から、ここに出る異名「地鼈」「土鼈」「虵蜱」(蛇の婢(はしため)の謂いか?)「簸箕蟲」(「簸箕」は竹製の箕(みの))「過街」という文字列を眺めていると、何だか、これらは「草鞋虫」なんかじゃない、クチクラ層の結構堅くて、それなりに大きなゴキブリ(事実、上に示した二種類はそんな感じ)に見えてこないだろうか? 大方の御叱正を俟つ。

・「地鼈」「土鼈」「鼈のごとし」「鼈」は亀のスッポンのこと。

・「墻壁」土壁。土塀。

・「鼠婦」前に述べた通り、次項で出るので、そこで同定したいが、「鼠婦(ソフ)」は漢方ではまさにArmadilloidea 上科ワラジムシ科 Porcellionidae のダンゴムシ類を指すのであるが、次項では和名を「とびむし」(飛虫)とし、実際に跳躍するとあることから、これは節足動物門六脚上綱 Hexapoda 内顎綱 Entognatha トビムシ目 Collembola のトビムシ類に比定するのが穏当のように思われ、実に悩ましいのである。

・「大なる者、寸餘」この大きさはゴキブリではない。

『此の蟲、申の日に逢へば、則ち、街を過ぐ。故に「過街」と名づく』「本草綱目」の「䗪」に「時珍曰、按、陸農師云、『逢申日則過街、故名過街。』とあるが、陰陽五行説に基づく、生態とは無関係な妄言である。

・「燈蛾と相ひ牝牡〔(ひんぼ)〕す」「本草綱目」の「䗪」の「釋名」に、時珍の言として「與燈蛾相牝牡」と出るが、灯火に寄ってくる蛾(ガ)の類と雄雌の関係にあるというトンデモ説である。

・『方、「本綱」の「附方」に出づ』「本草綱目」の「䗪」の「附方」に、

   *

下瘀血湯、治婦腹痛有乾血。

用 蟲二十枚【熬、去足】、桃仁二十枚、大黃二兩、爲末、煉蜜杵和、分爲四丸。每以一丸、酒一升、煮取八合、溫服、當下血也。【張仲景方】

木舌腫強、塞口、不治殺人。 蟲【炙】五枚、食鹽半兩、爲末。水二盞、煎十沸、時時熱含吐涎。瘥乃止。重舌塞痛、地鱉蟲和生薄荷研汁、帛包捻舌下腫處。一名地蜱蟲也。【鮑氏方】

腹痛夜啼、蟲【炙】、芍藥、芎、各二錢。爲末。每用一字、乳汁調下。【「聖惠方」】

折傷接骨、楊拱「摘要方」、用土鱉焙存性、爲末。每服二、三錢、接骨神效。一方、生者擂汁酒服。「袖珍方」、用蚵【卽土鱉】六錢【隔、醋淬七次】、爲末。每服二錢、溫酒調下。病在上食後、病在下食前、神效。董炳「集驗方」、用土鱉【陰乾】一個麝香少許爲末。每傳秘方、慎之。又可代杖。

   *

とある。

・「字彙」明代の一六一五年に梅膺祚(ばいようそ)によって編纂された漢字字典。全十四巻に三万三千百七十九字を収める。ウィキの「によれば、『現在の画数順に』二百十四の『部首を並べる形は、『字彙』によって初めて行われた。『字彙』は部首の配列順及びその部首に属する漢字の配列順をすべて画数順とした画期的な字書である。本書の出現によって字書による漢字の検索は以前に比べて極めて容易になった。この方式はその後、『正字通』『康熙字典』に受け継がれ、現在の日本の漢和辞典の大半はこの方式を元にして漢字を配列している』とある。

・「𧉅〔(いゐ)〕」現行の辞書類でもこれを前の「鼠婦」とともにワラジムシ(草鞋虫)やダンゴムシ(団子虫)の類の別名としており、良安はこれを敢然と誤りだと言っているのである。]

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