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2017/07/15

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 鼠婦(とびむし)


Tobimusi

とびむし   𧉅 鼠姑

       鼠粘 負蟠

鼠婦

       鼠負 地雞

       蜲𧑓 地虱

チユイ プウ 地雞 濕生蟲

 

綱目鼠婦多在下湿處甕噐底及土坎中形似衣魚稍大

灰色多足大者長三四分背有橫文蹙起鼠多在坎中背

粘負之故有諸名

△按鼠婦大二三分形似鰕而灰白色多足黒眼兩鬚長

又形似蚤無翅而能飛跳故俗稱飛蟲

治胞肉瘡【俗云目波知古又云物毛良比】使鼠婦血則蟲赤脹瘡隨

 

 

とびむし   𧉅〔(いゐ)〕 鼠姑

       鼠粘      負蟠〔(ふはん)〕

鼠婦

       鼠負      地雞〔(ちけい)〕

       蜲𧑓〔(いしよ)〕地虱〔(ちしつ)〕

チユイ プウ 地雞      濕生蟲

 

「綱目」、鼠婦は多く下湿の處、甕噐〔(ようき)〕の底及び土坎〔(どかん)〕の中に在り。形、衣魚(しみ)に似て、稍〔(やや)〕大、灰色、多き足。大なる者、長さ三、四分。背に橫文有り。蹙(ちゞ)み起(た)つ。鼠、多く坎中〔(かんちゆう)に〕在り、背、粘〔(ねん)〕にして之れを負ふ。故に諸名有り。

△按ずるに、鼠婦、大いさ二、三分。形、鰕(えび)に似て、灰白色。多き足。黒眼。兩の鬚〔(ひげ)〕、長く、又、形、蚤に似、翅〔(はね)〕、無し。能く飛〔び〕跳〔ねり〕。故に俗、「飛蟲(とびむし)」と稱す。

胞肉瘡(めばちこ)を治す【俗に云ふ、「目波知古〔(めばちこ)〕」、又、云ふ、「物毛良比〔(ものもらひ)〕」。】鼠婦を〔して〕其の血を〔(す)〕はして、則ち、蟲、赤く脹れ、瘡、隨ひて愈ゆ。

 

[やぶちゃん注:この概ねの叙述は、

節足動物門六脚上綱 Hexapoda 内顎綱 Entognatha 粘管(トビムシ)目 Collembola のトビムシ類

の特徴とよく合致している。普通に我々の生活圏内に棲息するのであるが、小さい(殆んどの種は二~三ミリを標準に五ミリメートル以下)ためにあまり馴染みないかも知れぬ(よく観察すれば、驚くほど身近に沢山いるのだが)ので、ウィキの「トビムシ目」から引いておく。まず、本種群は昆虫ではない。『内顎綱は昆虫に近縁でより原始的なグループで』、他にコムシ目コムシ目 Dipluraとカマアシムシ目 Protura が『含まれ、昆虫とあわせて六脚類を』成す。『特徴的な跳躍器でよく飛び跳ねるものが多いので、この名がある。森林土壌中では』一平方メートル当たり『数万個体と極めて高い密度に達する』。『基本的な構造には昆虫と共通する点が多いが、跳躍器や粘管などの独特の器官をもち、触角に筋肉があるなど特異な特徴を備えている』。『様々な形のものがあり、例外は多いが、一般には一対の長い触角を持ち、体は細長く、胸部』の三節には各一対で計三対の足を有する。『これらの点は、昆虫の標準的な構造である。特殊な点としては、通常の昆虫では腹部に』十一『の体節があるのに対して、トビムシでは』六『節のみしかない。また』、『腹部下面にはこの目の旧名の元になった腹管(粘管)という管状の器官がある。これは体内の浸透圧を調整する機能を持つといわれている。また、腹部』の第四節には二股(ふたまた:二叉(にさ))になった『棒状の器官がある。この器官は叉状器(または跳躍器)と呼ばれ、普段は腹部下面に寄せられ、腹面にある保持器によって引っかけられている。捕食者などに遭遇した際にはこの叉状器が筋肉の収縮により後方へと勢いよく振り出され、大きく跳躍して逃げることができる』。世界では三千種以上が記載されており、本邦では全十四科百三属約三百六十種が『報告されている。分類は形態的特長によって行われている』(以下、科別の特徴が記されるが、省略する)。トビムシ類は『変態せず、脱皮を繰り返して成長する。成熟後も脱皮を繰り返す』。『基本的には交接は行わず、雄は土の表面に精包を置き、雌がそれを拾い上げることで受精が行われる』。一部にはが触角を使用しての触角を摑み、後脚を用いて、直接、精包を受け渡す種もあり、さらには『また、交尾を経ないで繁殖する単為生殖を行う種が知られており、深層性の生活を行うものに多くみられる』とある。『乾燥に弱く、水湿地や土壌などに生息する。特に土壌中に生息するものが多く、土壌中の個体数はササラダニ』(節足動物門鋏角亜門クモ綱ダニ目隠気門(ササラダニ)亜目 Oribatida に属するダニの総称。ダニ類ではあるが、土壌中で腐植を餌としており、体は固く、昆虫の甲虫類のような姿をしている。地上で最も数が多い節足動物の一つで、体長は大きいものでも二ミリメートルまでで、小型の種では〇・五ミリメートル以下のものもいる)『と並んで節足動物では最も数が多いものである。まれに畑地などに大発生し、辺り一面を埋め尽くして人を驚かす種がある。ほかに、海岸・洞穴・アリの巣に住むものもある』。『北アメリカにはある種のシロアリの兵アリの頭の上に住み、兵アリが働きアリから餌をもらう時』、それを脇から掠め取って『食べるトビムシが知られている』。『食性は多くの種が雑食で、落ち葉や腐植を中心に食べるものが多く、真菌の菌糸や胞子・バクテリア・藻類・花粉・線虫なども摂食することが報告されている』(以上、下線やぶちゃん)。『ある種のトビムシは、雪解けの時期に大発生をするものがあり、ユキノミと呼ばれる。場合によっては数メートルにわたって雪の表面が真っ黒になり、窪みにたまったトビムシはスプーンですくえるほどになる』。『トビムシ目は森林林床などの堆積腐植層において、有機物の分解過程の重要な構成要素となっている。土壌分解系において有機物を摂食するが、実際には、一緒に摂食している微生物(主に真菌)を経由して主要なエネルギーを得ている二次分解者にあたる。排泄された糞粒を培地にして再び微生物が繁殖するため、微生物はトビムシ(やササラダニ)により摂食されても容易に現存量は減少せず、むしろトビムシにより土壌分解系の回転が促進される。このプロセスを通じて植物遺体の砕片化と無機化が進行する』とある。

 気になるのは、最後に書かれた処方で、これは上の下線部から、トビムシ類に吸血性の寄生性の種がいないと思われることから、明らかに吸血性のダニ類であってトビムシではないと断言出来る。「鼠婦」などという名や、盛んに鼠に附着しているとする点から、これは、ネズミに寄生し、しかもヒトにも寄生して吸血するダニ目オオサシダニ科イエダニ Ornithonyssus bacoti との混同した認識が中国の本草草書以来、ずっと続いていたものと考えられる。なお、イエダニは各種の線虫・病原菌・リケッチア・ウイルスなどのベクターであり、中には死に到る感染症も含まれる極めて危険な種であるから、この吸血処方(そもそもが「ものもらい」(後述)は吸血させても治らぬわい!)非常に危険がアブナい

・「地雞」の異名がダブっている表示されているのはママ。

・「甕噐〔(ようき)〕」瓶(かめ)。

・「土坎〔(どかん)〕」地面の穴。

・「衣魚(しみ)」項目として既出既注

・「長さ三、四分」全長九ミリから一センチ二ミリ。これは現在知られるトビムシ類の中では稀な大きな種であるが、これ以上小さな同類の種群は当時の技術では確認し難かったこと、それらの形態の類似性(実はトビムシの形態は種によってかなり異なるようである)を観察出来なかったことから、それより小さなトビムシ類を同一の種類であるとは認識出来なかったと考えれば、別段おかしくなく、納得も出来る。

・「橫文」体節のことをかく言っている。

・「蹙(ちゞ)み起(た)つ」体を縮ませ(たように見せ)て跳躍する。上記の下線部を参照のこと。

・「鼠、多く坎中〔(かんちゆう)に〕在り、背、粘〔(ねん)〕にして之れを負ふ」先に指摘した通り、これはトビムシ類ではなく、イエダニ Ornithonyssus bacoti を誤認し、しかも混同したものと考える。この全く異なった二つの生物種を混同誤認してしまったからこそ「故に諸名有り」なのではないか? 大方の御叱正を俟つ。

・「二、三分」六~九ミリメートル。下は現行のトビムシ類の標準全長の上限に近い。

・「鰕(えび)に似」実際に小さなエビに似ていると私も思う。

・「飛〔び〕跳〔ねり〕」「飛跳(ひてう)す」と音読みしているかも知れぬ。

・「胞肉瘡(めばちこ)」「目波知古〔(めばちこ)〕」「物毛良比〔(ものもらひ)〕」所謂、「ものもらい」、瞼(まぶた)に発生する小さな腫れ物、麦粒腫のこと。眼瞼の脂腺や汗腺に細菌が感染して起こる急性化膿性炎症。]

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