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« 仙人芝居夢 | トップページ | 北越奇談 巻之四 怪談 其五(飯を食われる怪) »

2017/08/25

北越奇談 巻之四 怪談 其四(初夢怪)

 

    其四

 

 安永の頃、坂屋村貧民某(それがし)の女(むすめ)、同郷、酒造の家に奉公せしが、正月二日の朝、傍輩(ほうばい)に談(かたつ)て云ふ。

「今曉(こんきやう)、夢に、大船(たいせん)、帆を張りて我(わが)閨(ねや)の窓の下に着き、其帆柱の上、白き鷹一ツ、止(とま)りてありしが、飛(とん)で懷(ふところ)の内(うち)へ入(いり)たり。」

と云へり。

 皆々、聞(きゝ)て、其夢の吉(きつ)ならんことを祝す。

 かの女(むすめ)、喜んで笑(ゑみ)を含み、火箸にて、炉(ろ)の灰を搔き均(なら)すに、忽(たちまち)、錢(ぜに)二百文あり。

 主人、怪みて、

「かの女(むすめ)の盜み匿(かく)せるならん。」

とす。

 巳にして、又、二百文を灰の中(うち)より出(いだ)す。

 家人(けにん)、大きに怪しみ、皆々、炉中(ろちう)に求(もとむ)れども一ツもあることなし。

 かの女(むすめ)、火箸を執れば、忽然として、錢あり。

 それより、女(むすめ)、袂(たもと)を探(さぐ)れば、錢あり。懷を開けば、即(すなはち)、錢あり。至る所、皆、自然に錢ありて不ㇾ絶(たへず)と。

 主人、その怪を憎み、親の元に歸す。

 女(むすめ)、家に至る時、已に錢十五貫文を得(う)。

 人、皆、怪しみて抱(かゝ)へず。

 依(よつ)て、新潟他門(たもん)、舟問屋(ふなとひや)某(それがし)の家に奉公す。

 一日、塵(ちり)を川岸に捨(すつ)るに、忽(たちまち)、紙に包みたる物あり。取上(とりあ)げて、これを見れば、遺金(いきん)三十五両なり。

 終(つゐ)に捨(すて)たる主(ぬし)なし。

 是(これ)を以(もつて)、他の家(いへ)に嫁(か)して、今、猶、富(とめり)。

 是等(これら)は誠に奇怪はかりがたき事どもなり。

 

[やぶちゃん注:初夢の吉夢に始まる奇談。ウィキの「初夢によれば、文献上の「初夢」の初出は西行の「山家集」とし、室町時代頃からは吉夢を見るために『七福神の乗っている』宝船の絵に「なかきよの とおのねふりの みなめさめ なみのりふねの おとのよきかな(長き夜の 遠の眠りの 皆目覺め 波乘り船の 音の良きかな)」『という回文の歌を書いたものを枕の下に入れて眠ると良いとされ』、それでも『悪い夢を見』てしまった場合は、翌朝、その『宝船の絵を川に流して縁起直しを』したという。知られた吉夢のアイテムに江戸初期には既に形成されていたと思われる「一富士二三茄子」があるが、『それぞれの起源は次のような諸説がある』。

   《引用開始》

徳川家縁の地である駿河国での高いものの順。富士山、愛鷹山、初物のなすの値段

富士山、鷹狩り、初物のなすを徳川家康が好んだことから

富士は日本一の山、鷹は賢くて強い鳥、なすは事を「成す」

富士は「無事」、鷹は「高い」、なすは事を「成す」という掛け言葉

富士は曾我兄弟の仇討ち(富士山の裾野)、鷹は忠臣蔵(主君浅野家の紋所が鷹の羽)、茄子は鍵屋の辻の決闘(伊賀の名産品が茄子)

   《引用終了》

とあり、実は四番目以降も存在し、『四扇(しおうぎ、よんせん)、五煙草(多波姑)(ごたばこ)、六座頭(ろくざとう)』で、これは「俚言集覧」に記載があり、こちらは『一説として、一富士二鷹三茄子と四扇五煙草六座頭はそれぞれ対応しており、富士と扇は末広がりで子孫や商売などの繁栄を、鷹と煙草の煙は上昇するので運気上昇を、茄子と座頭』『は毛がないので「怪我ない」と洒落て家内安全を願うという』。他にも、この四又は五を「葬式・葬礼」「雪隠・糞」「火事」とするものがあるとする(不吉な葬儀や火事及び不浄の便所や排泄物は逆夢という解釈であろう)。本話柄も、先に述べた通り、心理学的には主人公が思春期の少女である点と最近起ったとされる都市伝説(アーバン・レジェンド)という点で先行する条々と極めて強い親和性を持ち(そうした主人公の「少女たち」の存在を崑崙は明らかに強く意識して書いている)、主人がそれを忌まわしいこととして憎んで追い出してしまうところには、背後に実際に実は金銭が消えていた(主人のへそくりであるとかして事実は言えない)、或いは、この少女に好色の主人や馬鹿息子が懸想して与えた金だったりする……という現実的解釈は、これ、無粋なのでこれで止めておこう。

「安永」一七七二年から一七八一年。

「坂屋村」不詳。新潟県新潟市江南区に酒屋町なら現存する。(グーグル・マップ・データ)。

「錢十五貫文」既に述べたが、一貫は正規には銭千文を指すが、江戸時代は実際には九百六十文が一貫とされた。しかし、としても、一万四千四百文で、江戸後期の一両は十貫文であるから、十五貫文で一両半、当時の平均的物価からは現在の七万五千円ほどにはなろうか。火鉢の灰の中からこれだけ出てくるというのは、まさに「奇怪」である。だからこそ、私は背後に男女の饐えた体臭を嗅ぎつけるのである。

「新潟他門(たもん)」新潟県新潟市北区葛塚上他門があり、これは新井郷川(にいごうがわ)の右岸地区であり、同じ川の少し下流の左岸にはバス停で「他門大橋」を認めるから、「舟問屋(ふなとひや)」とは親和性がある。(グーグル・マップ・データ。右上中央に「上他門」)。

「遺金(いきん)」お金の落し物。

「三十五両」これはもう尋常な金額ではない。先の換算(一両=五万円換算)で百七十五万円!]

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