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2017/08/22

北越奇談 巻之三 玉石 其十五(石鯉)

 

    其十五

 

 松の山(やま)浦田口村(うらたぐちむら)、山(やま)氏(うじ)所藏の石鯉(せきり)、囲(めぐ)り、一尺余(よ)、頭(かしら)の方(かた)、半尺二寸ほどもあらんか。鱗鬚(りんしゆ)、全く備(そな)はり、金(きん)・黑色(こくしよく)交(まじは)る。一とせ、高山(かうざん)の峯、片缺(かたか)け落(おち)て、谷に入。一樵夫(いつしようふ)あり。その所に至(いたつ)て仰ぎみるに、缺け落ちたる所、數十丈上に金色(きんいろ)物、日に映じて見ゆ。樵夫、即(すなはち)、「黄金(わうごん)なり」として、獨り、是を得んことを欲(ほつす)れども、た易く取(とる)べからず。漸々(やうやう)にして、攀(よ)ぢ上り、其所(そのところ)に到れば、片足を踏み外(はづ)して、巳に落ちんとす。驚き慌(あは)て、力(ちから)を出(いだ)し、其物(そのもの)とりつきたれば、かの金色(きんしよく)なるが、さし出(いで)たる土際(つちぎは)より、折(おれ)て、是と共に谷に落(おち)たり。扨(さり)とて、得たる所の物を見れば、即、鯉(り)の頭(かしら)の方(かた)、半(なかば)より折(おれ)たるなり。其後(そのご)、好事の者、その尾の方を掘り得て、今、猶、他の家に藏(おさ)むと云へり。未(いまだ)、是を見ず。「金臺紀聞(きんたいきぶん)」云、『縣河灘上有乱石石魚長可二三寸天然鱗鬣或雙或隻不等』とあり。此類(たぐひ)なるべきか。

 

[やぶちゃん注:これは現在の新潟県十日町市松之山と推定される。ここ(グーグル・マップ・データ)。その根拠はイッシー氏のサイト内の「市町村の変遷」のこちらのページに、旧東頸城郡内に「浦田口村」という村が存在した事実、その村は明治時代に合併して「松之山村(まつのやま)」となっているが、その合併した村々の中には「松之山」という名はどこにもなく、これは或いは、この地区の古い広域地域呼称だったのではないかとも推測されること、明らかに山間地で、この話柄に合致すること、による。

「石鯉(せきり)」魚の(こい)鯉の形に酷似した石。鯉(条鰭綱骨鰾上目コイ目コイ科コイ亜科コイ属コイ Cyprinus carpio)の化石などではなく(化石の場合は骨格であることが多いが、ここの表現は明らかに生きた鯉の外面形態を保持しているとしか読めない)、素人ながら、私は黄銅鉱様の鉱石などを含んだ黒色粘板岩のシミュラクラではないかと私はまず推理した。或いはフェイク(人工的に石で彫り上げたもの)の可能性もあろう。

「半尺二寸」約三十六センチメートル。

「鱗鬚(りんしゆ)」鱗(うろこ)と鬚(ひげ)。「全く備(そな)はり」とあるからには、口元には二対の口髭があることになる。

「金臺紀聞(きんたいきぶん)」野島出版版脚注では不詳とするが、調べてみると、これは明の陸深の撰になる博物学的随筆である。中文古典テクスト・サイトの「中國哲學書電子化計劃」のここで原文が読め、そこに、

   *

郡縣河灘上有亂石、隨手碎之。中有石魚長可二三寸、天然、鱗鬣、或雙或只不等。雲藏衣笥中能闢蠹魚。又平陽府侯馬驛澮河兩岸仄土上、皆婦人手跡、或掌或拳、儼然若印、削去之其中複然。又大同山中有人骨、在山之腰、上下五六十丈皆石耳。惟中間一帶可四五尺、皆髑髏脛節齦齦然。關中之山數處亦爾。余聞之陝西舉人張守、後以訪之士大夫云果然。造化變幻。何所不有也。

   *

とある。思うに、こちらの叙述は魚化石のようにも読めぬことはない

「縣河灘上有乱石。石魚、長可二三寸。天然、鱗鬣、或雙、或隻、不等」「北越奇談」の原典は以下のような感じで訓じている。原典の略字を正字化し、歴史的仮名遣の誤りも訂して示す。更に〔 〕で私が必要と考えた送り仮名を添えた

   *

縣河(けんが)・灘上(たんしよう)に亂石(らんせき)有り。石魚(せきぎよ)〔は〕、長さ、二、三寸(ずん)〔あるべし〕。天然〔の〕鱗鬣(りんしゆ)〔あり〕、或いは雙(さう)、或いは隻(せき)〔にして〕不等(ふとう)〔たり〕。

   *

野島出版脚注には「縣河」は『傾斜が急で流れの早い川』とし、「灘上」『水浅く石多くして急に流れ、舟行の困難なる処』とある。「亂石」とはさまざまな形状を成した雑多な石塊の意味らしい。その中に「石魚」なるものがあると言うのであろう。「或いは雙、或いは隻にして不等たり」(最後は私は「等しからず」とは、鱗や「鬣」(これは「鬚(ひげ)」とも「鰭(ひれ)」ともとれる。両方でとっておく)の鱗(うろこ)や鰭(ひれ)や鬚(ひげ)は左右対称のものもあり、片方しかないものもあって、普通の魚のようなシンメトリーを成していない(「不等」)、の謂いと読んだ。]

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