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2017/08/07

北越奇談 巻之一 蝮蛇

 

    蝮蛇(うはばみ)

 

 葛塚(くずづか)は福湖(ふくしまがた)の西涯(さいがい)にして、今、數十邑(すじうゆう)の惣名(そうみよう)たり。福湖(ふくしまがた)より溜水(りうすい)を阿水(あが)の中(うち)へ吐流(とりう)せる濁川(にごりかは)と云へる挾渠(きようきよ)ありて、其廣さ、二十餘間には過ぎるべけれど、深き事、幾(いくばく)なることを知らず。町の端(はし)、大曲(おほまがり)と云へる渕、殊に深し。此所(このところ)、冬の半(なかば)より春に至(いたつ)て、白魚(しらうほ)を獲ること、夜每(よごと)に夥(おびたゞ)し。されども、漁者(ぎよしや)、三網(みあみ)より過(すぎ)て、又、曳くこと、あたはず。四度(よたび)に至る者は、即(すなはち)、水底(すいてい)より其網を引(ひき)とりて、盡(ことごと)く破り棄つ。も此地に久しく寓して、月夜(げつや)、橋頭(きようとう)に是を見たり。

 又、十とせばかり以前ならん。殊に晴やかなる日、川水、俄に逆捲き起り、左右の堤、溢(あふ)れ、漁舟(ぎよしう)を覆(くつがへ)し、網を破り、流(ながれ)に隨(したがひ)て一里餘り下(くだり)しが、忽、水底に沈みて、止(やみ)ぬ。其通り筋、兩堤の村々、農夫・漁人、棹を捨て、鍬を投げて逃去りしが、さらに一人として、其形(かたち)、如何なるものといふことを見ず。

 又、福湖(ふくしまがた)東南の岸(きし)、新田(しんでん)と云へる所に、何某とて、豐かに富(とめ)る農家あり。其下男(しもおとこ)、馬の秣(まくさ)苅(かる)次手(ついで)、芦・萩深く茂れる淵に臨(のぞみ)て、釣を垂れ、半時ばかり休らひけるが、忽、水底より二丈ばかりなる蝮蛇(うはばみ)、黑き頭(かしら)をさし出(いだ)し、紅(くれなゐ)の口を開きければ、かの男、あまりに打驚き、竿を捨て、蓑を忘れ、夢路を辿(たど)る心地にて逃歸りけるが、夫(それ)より數(す)十日、病臥(やみふし)ぬ。

 此頃、予も其家に至り、詳(くは)しく尋ね聞(きゝ)しかど、

「あまりに恐ろしくて、鱗(うろこ)・鬚(ひげ)は見定(みさだめ)もせず、爪・角(つの)はなかりし。」

と云へり。

 

[やぶちゃん注:前話とは水怪の妖蛇譚で直連関。

「蝮蛇(うはばみ)」蟒蛇(うわばみ)。大蛇。「蝮」(通常は「まむし」と訓ずる)に「うはばみ」の訓を当てるケースは稀であるが、ないわけではない。例えば、知られた泉鏡花の「高野聖」の「第十七」で、『軈(やが)て又例の木の丸太を渡るのぢやが、前刻(さつき)もいつた通り草のなかに橫倒(よこだふ)れになつて居る木地(きぢ)が恁(か)う丁度鱗(うろこ)のやうで譬(たとへ)にも能くいふが松の木は蝮(うはゞみ)に似て居るで』と出る。

「葛塚(くずづか)は福湖(ふくしまがた)の西涯(さいがい)」現在も一部が残る福島潟(既出既注)の西方、新潟県新潟市北区葛塚周辺。ここ(グーグル・マップ・データ)。

「惣名(そうみよう)」(複数の村落を纏めた)総称。

「溜水(りうすい)」溜まった水。

「阿水(あが)」阿賀野川。

「吐流(とりう)」排水。

「濁川(にごりかは)」現在の福島潟を源流として阿賀野川河口及び日本海へと注ぐ新潟市北区を流れる新井郷川(にいごうがわ)の旧称或いは前身と考えられる。グーグル・マップ・データで、新井郷川阿賀野川を見ると、まさに「濁川」という地名を確認出来るからである。

「挾渠(きようきよ)」狭い人工的に掘削した掘割。

「二十餘間」四十一・一八メートル。現在の新井郷川の川幅は四十二メートルほどでよく一致する

「大曲(おほまがり)と云へる渕」不詳。現在の新井郷川が旧濁川と河川変更されているとするなら、最早、存在しない可能性もある。現地の識者の御教授を乞う。

「白魚(しらうほ)」文字通りならば、シラウオ(条鰭綱新鰭亜綱原棘鰭上目キュウリウオ目シラウオ科 Salangidae に分類される魚の総称。狭義にはその中の一種 Salangichthys microdon の和名)であるが、シロウオ(スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科シロウオ Leucopsarion petersii)である可能性も半ばする分布域・生息場所・漁法からはこの孰れであってもおかしくはないからである。但し、両者は全く縁遠い別種である。孰れも死ぬと白く濁った体色になって見分けがつきにくくなるが、生体の場合はシロウオ Leucopsarion petersii の方には体にわずかに黒い色素細胞があり、幾分、薄い黄味がかかることで区別は出来る。詳しくは私の今日のシンクロニティ「奥の細道」の旅1 行くはるや鳥啼きうをの目は泪 芭蕉の私の注及びそのリンク先を参照されたい。

「予も此地に久しく寓して」これは重要な発言である。橘崑崙茂世はかつてこの葛塚附近に、有意な機関、仮に住居を持っていたという事実が判るからである(冒頭の柳亭種彦の序文から、本書刊行直前には三条にいた)。

「橋頭(きようとう)」橋の畔(ほと)り。橋のたもと。

「其形(かたち)」その変事を起した(と思われる)川中の生物或いは魔物の姿形。

「福湖(ふくしまがた)東南の岸(きし)、新田(しんでん)と云へる所」旧福島潟の東南の岸辺りであったと思われる地域((グーグル・マップ・データ))には現在でも「新田」のつく地名が多く残ることが地図上からも判る。

「半時」現在の一時間に相当。

「二丈」六メートル六センチ。]

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