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2017/09/24

老媼茶話 酉陽雜俎曰(ナゾの殺人生物出現!)

 

     酉陽雜俎曰

 

 溫會(ヲンクハイ)といふ人、江州(がうしう)にありし時、客とつれて漁子(アマ)の水に入(いり)て魚をとるを見るに、壹人の漁子(アマ)、忽(たちまち)に岸にのほり、くるひ走る。溫會、是をとふに、但(タヽ)、手をかへして、背中にゆひさして、物言(ものいふ)事、あたはす。漁者のせなか、黑し。細細(こまこま)是をみれは、背中に物ありて、取(とり)つく。色(イロ)、黃(クチ)葉のことく、大(おほい)さは壹尺餘ありて、其上に、あまねく、眼あり。かみ入りて、とるに、はなれす。溫、是をやかしむ。燒落(やきおと)すをみれは、一眼の裏ことに、嘴(ハシ)あり、針のことく、刺(サシ)入(いり)けり。漁子、血を出す事、數升にして死す。何蟲といふ事を識るものなし。

 

[やぶちゃん注:短文ながら、個人的に非常に惹かれる話である(私は有毒・危険動物のフリークで、その方面の十数冊の学術的専門書も所持している)。この奇怪な人を死に至らせる危険生物は、

・淡水産生物である(「江州」(後注参照)というロケーションから)。但し、動物か植物か藻類かは不明である。

・それは単体の群体らしい生物である。

・体色は単体はくすんで黄色であるが、離れて見ると、群体は全体に黒く見える。但し、原文は「漁者色黑」で、これは漁師は肌の色が黒かったで、日焼けした漁師の肌色全体を指しているように見え、寧ろ、そこにその奇怪生物の朽ち葉色の暗い黄色が目立った、と読むのが正しいようにも思われる

・その大きさ(張り付いた生物の長径であろう)は一尺余りであった。唐代(「酉陽雑俎」は唐の段成式(八〇三年~八六三年)の撰になる志怪録)の一尺は三十一・一センチメートルである。

・表面には無数の眼のように見える付属器がある。これを私は取り敢えず、この生物群体の「単体」の器官或いは組織と見る

・漁師の背中に張り付いて人力を以ってしても剝すことが出来なかった。そこで、火(薪(たきぎ)であろう)をもって、張り付いた外側を焼いたところ、剥がれ落ちた。

・剥離したその生物群体の裏側(漁師の背中に張り付いた側)を見ると、先の眼様器官の一つずつの裏に対応して、一本ずつ、釘の様な(三坂は「針の如く」と書いているが、後に示した原典には、もっと太い動物の「觜」(ハシ/くちばし)の如き「釘」のようなものとあるのである)器官が付随していて、それが漁師の背中に非常に深く噛み付くように刺さっていたことが判った。後でこの被害者は二升という多量出血(但し、唐代の一升は〇・五九四四リットルしかないので、三升で一・七八、六升三・五六リットルである。それでも一升瓶一、二本に相当する)しているから、この針の数にもよるものの、刺さった深さは剝し得なかったことからみても、人体表皮の数ミリどころではなく、一センチ以上で、真皮や血管まで突き通していたと読むべきである。剝し得なかったことから、その釘状の器官はただ尖った針釘状のものではなく、鉤(かぎ)状にカエシを持っていたことが深く疑われる

・被害者の漁師は、その多量出血直後に亡くなった。ネット情報を見ると、例えば、体重六十キロの人の場合、約五リットルが全体の血液量となり、出血性ショックに陥るのは一リットルを超えたぐらいが目安となり、命に危険が及ぶ量は一・六リットルを超えたぐらいからとされるから、まずは、この漁師は時代と職業から見て体重は五十キロ前後と推定され、その「數升」という出血量を過少に見積もっても、一般的出血危険量を遙かに越えており、漁師の死因は大量出血死と考えるのが妥当であろう。但し、この生物が有毒物質をその針を以って人体に注入した可能性も充分に考え得ることではある。

・それが何という名の虫かは、現地の人間も誰も知らない。ということは、現地の人間もその奇怪生物をその時、初めて見たということになる。

 

この生物は一体、何だろう?

正直、該当しそうな淡水産生物は存在しないと私は思う。

ただ、一読、「形状はあれが潰れたみたいなもんに近かろうな」と思った動物はある。苔虫(コケムシ)の一種、

外肛動物門掩喉(えんこう)(苔虫)綱掩喉目ヒメテンコケムシ科オオマリコケムシ属オオマリコケムシ Pectinatella magnifica

である。多分、御存じない方が多いであろうから、ウィキの「オオマリコケムシを引いておく。下線は私が引いた。それはこの「酉陽雜俎」の奇怪生物の属性に似た部分があるという意味で引いた。『池や沼などの淡水域に棲み、寒天質を分泌して巨大な群体を形成する』。『アメリカ合衆国ペンシルベニア州のフィラデルフィア郊外で発見・記載された北アメリカ東部原産の生物で』、一九〇〇『年頃に中央ヨーロッパに持ち込まれた。日本では』一九七二『年に山梨県の河口湖で発見されて以来』、翌一九七三年には『同県精進湖でも多数の群体が出現、その後外来種として分布を広げている』。『現在では日本各地の湖沼で普通に見られる。奇妙で大きな外見から、度々話題になることがある』。『オオマリコケムシは群体を形成して肉眼的な大きさになる生物であるが、これを構成する個虫は非常に小さい。時に小型で分散性の休芽が作られて群体から放出され、これが悪条件への耐久や分布を広げる役目を担う。群体の表面には特徴的な多角形の模様が見られ、この模様と群体の形状が手まりを思わせることから「オオマリコケムシ」の名が付いた』。『群体中の個虫は体腔を共有するとともに細胞外に寒天質を分泌してこれに埋没する。個虫が寒天質を分泌しながら水草や岩に付着して増殖するために群体という形をとるものと考えられている』。『群体は球形から分厚い円盤状の形をしており、内部には寒天質が詰まり、表面に個虫が並んでいる。発達すると群体塊は房状に増殖して一畳にも達する大きさになる。長さでは』二・八メートル『に達したという報告もある』。『大きな群体塊となると付着物から離れていったん沈むが寒天質中にガスが溜ってやがて浮遊してくる』。『群体は夏から晩秋にかけて、』一ヶ月で『倍増するほどの速度で成長するが、冬季には低温によって表面の個虫が死滅し、ただの寒天質の塊になってしまう』。『オオマリコケムシの越冬は後述する休芽の状態で行われる』。『個虫のポリプ体(虫体、polypide)は体長』一・五ミリメートル『ほどで、肉眼では寒天(ポリプ体と区別して虫室(zooecium)とも呼ばれる)塊表面の黒色の点として認識できる』。『虫体は群体の外側へ向けて馬蹄形の触手冠を持ち、その中央に口がある。消化管はU字型をしており、肛門は触手冠の外側に開口する』。『摂食の様式は濾過摂食であり、水中の微生物やデトリタスをこの触手冠で濾し取って食べる。口の側にある口上突起(epistome)の近傍には赤い色素がある』。『また、触手冠の両先端部の下面、および虫体と寒天質が接する部分の肛門側には、上皮線からの分泌物の乳白色の塊がある』。『他の外肛動物と同様に循環器系は無いが、代わりに胃緒(funicles)と呼ばれる紐状の間充織のネットワークが体内を充たしている』。『オオマリコケムシは雌雄同体であり、生活環には有性生殖と無性生殖の両方が見られる』。『いずれの場合も』一『個体から新たな群体を形成する過程を含むが、そのような最初の個虫は初虫 ancestrula)と呼ばれる』。『有性生殖では体腔内の卵巣で受精が起こった後、親個虫の胚嚢(表皮直下の空嚢)の中で幼生の胚発生が進行する。幼生はほぼ発生が完了してから親個虫の外に放出される』。『幼生は繊毛によって遊泳し、適当な基物に着生して初虫となる』。『オオマリコケムシの無性生殖は二通りある。一つは群体中の個虫が増殖する際の出芽である。前述の有性生殖によって独立した幼生は、着生後に出芽を繰り返して個体数を増やし、群体を形成してゆく』。『もう一つの無性生殖は休芽(スタトブラスト、statoblast)と呼ばれる耐久性の構造を経るものである。休芽は発生初期の段階の個虫が強靭なキチン質の殻に包まれたもので、この状態で低温や(ある程度の)乾燥といった環境ストレスに耐える。休芽は丸みを帯びたいびつな多角形で、直径は約』一ミリメートル『(突起含まず)である。休芽は丈夫な殻に覆われており、この殻には錨型の棘が十数本ある』。『休芽は個虫の胃緒で無性的に形成され、完成すると寒天質を周囲にまとって放出される。この寒天質は放出後数週間持続するが後に消滅する。

休芽は温度や光条件により発芽する』。『休眠状態の発芽は低温に晒されると静止状態に移行し、その後適温』(摂氏十七~二十五度)『になると発芽する』。『この仕組みにより、オオマリコケムシは群体の生育に適した春期に発芽することができる。適温に置かれた休芽は、一日目に細胞層の陥入によって消化管の形成が始まる』。二『日目にはU字型の消化管の形成が完了し、触手冠の原基も作られる』三~四『日目には虫体がほぼ完成』し、五『日ほどで初虫となる個体が殻からハッチ』(hatch:孵る・孵化する)『してくる』。『琵琶湖や霞ヶ浦、雄蛇ヶ池など、日本各地の湖沼で時々』、『大発生する。水質が悪化した水域で多く見られる傾向がある。積極的に害をおよぼす例は知られていないが、取水口などに詰まって取水の物理的な障害となる場合がある』。『また本種の分布域拡大とともに、同じ生態的地位を占める在来種であるカンテンコケムシ』(オオマリコケムシ属カンテンコケムシ Pectinatella gelatinosa:無色透明の寒天質の中に塊状の群体をつくる。群体は普通長径 一・五~二センチメートルの楕円形を成し、個虫は共通した体腔内に並ぶ。一個虫には七十本から百本に及ぶ触手がある。休芽は暗褐色で直径一・三ミリメートル内外の円形を呈し、周縁には非常に小さな錨形の鉤が並んでいる。若い群体は移動する性質を持ち、関東地方以西の池沼・用水池に棲息しており、ときに大発生することがある。ここは「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)『やヒメテンコケムシ』(ヒメテンコケムシ属ヒメテンコケムシ Lophopodella carteri 。日本各地の池沼などに見られる。塊状の長径一・五センチメートルほどの薄い外皮に包まれた群体を形成する。個虫は共通の体腔内にあって、馬蹄形の総担を持ち、その上に七十本から八十本の触手をもつ。長さ一ミリメートル内外の楕円形で両端に棘のある暗褐色の休芽を形成する。休芽は乾燥すると水に浮び,水鳥などによって運ばれる。ここも同じく「ブリタニカ国際大百科事典」に拠った)『が減少しており、これらの生物の脅威となっていると考えられている』。『食べても毒はないが、ふつうオオマリコケムシは食用にはならない』とある。グーグル画像検索「Pectinatella magnificaをリンクさせておく。ブニュブニュ系が苦手な人は見ない方がよいとは思う。中国にこの淡水産のコケムシ類が棲息しているかどうかは分らぬが、いないはずはない。但し、言わずもがな、これらは人間の皮膚に刺さって出血を起こさせたり、毒を注入したりする生物ではないしかし、この叙述形状は私は淡水産のコメムシ類の群体にかなり似ていると思う。特に群体の個虫を「眼」と比喩するのは私にはよく納得出来るのである。

 三坂が訳したのは、「酉陽雜俎」の「卷十七 廣動植之二」にある以下である。

   *

異蟲 溫會在江州、與賓客看打魚。漁子一人、忽上岸狂走。溫問之、但反手指背、不能語。漁者色黑、細視之、有物如黃葉、大尺餘、眼遍其上、齧不可取、溫令燒之落。每對一眼、底有觜如釘、漁子出血數升而死、莫有識者。

   *

「江州」は現在の中華人民共和国江西省北部にある九江(きゅうこう)市の古称。(グーグル・マップ・データ)。]

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