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2017/09/15

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蟿螽(はたはた)


Hatahata

はたはた  螇蚸

蟿螽

      【俗波太波太】

 

△按蟿螽卽𧒂螽之屬長三四寸身甚瘦方首兩額有眼

 目上有二髭翅灰赤色黒點腹下白善跳難捕本艸綱

 目謂似螽斯而細長曰蟿螽者是也

 

 

はたはた  螇蚸〔(けいれき)〕

蟿螽

      【俗に「波太波太」。】

 

△按ずるに、蟿螽は、卽ち、𧒂螽(いなご)の屬。長さ三、四寸。身、甚だ瘦(や)せて、方なる首、兩の額に、眼、有り。目の上に二〔つ〕の髭、有り。翅、灰赤色、黒點あり。腹の下、白く、善く跳びて捕へ難し。「本艸綱目」に『螽斯(はたをり)に似て細長〔(ほそなが)〕を蟿螽と曰ふ』と謂ふ者(〔も〕の)、是れなり。

 

[やぶちゃん注:短い叙述なのに悩ましい。まず、挿絵を見ると、立派なバッタだ。それも所謂、泰然自若とどっしりとした、雑弁亜目バッタ下目バッタ上科バッタ科トノサマバッタ属トノサマバッタ Locusta migratoria 然としたそれで、疑いようがない。考えてみると、私はここまで、孰れも実はトノサマバッタと比定同定していないから、もってこいだ。

 ところが、だ。

 これ、その本文を虚心坦懐に読むと、その確信安堵の様相が一変するのである。本種の属性は、

・身体が非常に瘦せている。トノサマバッタは大名のように鱈腹喰うて太った印象であって、少なくともこうは絶対に表現しない。以下で良安は概ね前面から対象昆虫を観察している。トノサマバッタの顔は、寧ろ、デブって丸くなった殿様顔である。

・首は方形である。「方」は対象が四角いことであるが、これは、その属性としての角張っていることをも指し、必ずしも四角形や箱形であらねばならないわけではない。寧ろ、前提で「非常に痩せている」としている以上、体幅が有意にある四角なのではなく、異様にスマートで角稜がくっきりと出ている頭胸部である、或いは、顔つきをしているという意味でとった方がしっくりくる

・両方の額に眼が存在し、その直上に一対の髭がある。この「兩額」というのは注意する必要がある。トノサマバッタのような前面が人の顔のようにのっぺりとした一平面としてある場合、その「額」を「兩」とは表現しない。我々額を「右の額と左の額」としてまず区別しないのと同じである。トノサマバッタを正面から観察すると、人の顔に譬えた場合、確かに眼は左右にあると言え、その上に一対の髭はあるものの、「額」は左右二つ、「兩額」ではなく、人間のそれと同じで前面に「額」があるのであって、左右「兩」面に分離した「額」が存在するとは私なら表現しない。では、「兩額」に眼があるとはどのような形状を指すか? 言わずもがな、「額」が前面からはないように見え、左右に「額」が分離して存在するようにしか見えず、そこに眼が左右に――前面からはっきりは見えず、ほぼ完全に「左右」に――あるように見え、しかも、そのすぐ真上から一対の触覚がすっくと伸びているのである。

・翅は灰赤色で黒点を有する。これのみは、かなりトノサマバッタっぽくはある。

・腹の下が白い。

・非常に高く強く跳び、捕えるのが難しい。以上の三点はトノサマバッタ類に認められるものであるが、ではトノサマバッタに特異的であるかというと、そうではない。これは寧ろ、バッタ類の多くの種或いは体色変異個体に広く認められるものである。

・「本草綱目」にさえ「螽斯」(はたをり)=直翅(バッタ)目剣弁(キリギリス)亜目キリギリス下目キリギリス上科キリギリス科キリギリス亜科 Gampsocleidini 族キリギリス属 Gampsocleis キリギリス類「に似て」いるが、有意に「細長」く、異様にスマートだというのである。繰り返すが、トノサマバッタを私はスマート、いやさ、瘦せてガリガリだなどとは逆立ちしても言わない

 もう、お判りであろう。

 これらの叙述の属性を殆んど総て(敢えて言うと、「翅は灰赤色で黒点を有する」というのはによく見られる褐色個体で前半はクリアー出来ても、「黒点」はちょっと無理か)保有する、ぴったりくる種は唯一つ既に蠜螽(ねぎ/しょうりょうばった)出た

有翅昆虫亜綱直翅(バッタ)目雑弁(バッタ)亜目バッタ下目バッタ上科バッタ科ショウリョウバッタ亜科 Acridini 族ショウリョウバッタ属ショウリョウバッタ Acrida cinerea

(或いは性的二形で大型の同種の以外にはいないと私は断言出来るのである。

 附言すれば、「はたはた」「蟿螽」「螇蚸〔(けいれき)〕」、特に「はたはた」と「螇蚸」は古くから現代に至るまで、広義にはイナゴやバッタの総称であったが(「螇蚸」を「ばった」或いは「はたはた」と読ませるケースは俳句などで非常に多い)、その中でも有意に狭義に「ショウリョウバッタの異名」として好んで用いられてきた経緯があるのである。

 「本艸綱目」と珍しくフル・ネームで出し、しかも何時ものように先には出さず、自身の評言のみで項立てしたこの特異点の項目「はたはた」は、そろそろ、「似たようなものばかり並んで、正直、飽きたわ」という良安先生の内心がキチキチ、基、ヒシヒシと私には伝ってくるのである。

 因みに、「本草綱目」の「螽斯(はたをり)に似て細長〔(ほそなが)〕を蟿螽と曰ふ」というのは、「𧒂螽」(本電子化中の𧒂螽」は本邦ではイナゴ類に限定同定した)の「集解」の中に記されてある。]

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