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2017/09/22

和漢三才圖會卷第五十四 濕生類 蟾蜍(ひきがへる)

 

和漢三才圖會卷第五十四

 

   濕生類


Hikigaeru

ひきかへる  𪓰 蚵

 䗇鼁 𪓰𪓿

       苦 癩叚蟇

蟾蜍

       【和名比木】

唐音

チエンチエイ

 

本綱蟾蜍【辛凉徴毒】其皮汁甚有毒在人家下濕處形大背上

多痱磊鋭頭皤腹促睂濁聲不解鳴行極遲緩不能跳躍

吐生擲糞自其口出也或取之反縛着密室中閉之明且

視自解者

抱朴子云蟾蜍千歳頭上有角腹下丹書名曰肉芝能食

山精人得食之可仙術家取用以起霧祈雨辟兵自解縛

今有技者聚蟾爲戯能聽指使物性有靈於此可推

蟾有三足者而龜鼈皆有三足則蟾之三足非怪也蓋蟾

蜍土之精也上應月魄而性靈異穴土食蟲又伏山精制

蜈蚣故能入陽明經退虛熱行濕氣殺蟲𧏾而爲疳病癰

疽諸瘡要藥五月五日取東行者陰乾用

土檳榔 蟾蜍屎也下濕處往往有之亦能主疾

△按蟾蜍實靈物也予試取之在地覆桶於上壓用磐石

明旦開視唯空桶耳又蟾蜍入海成眼張魚多見半變

――――――――――――――――――――――

蟾酥

    蟾蜍眉間白汁謂之蟾酥其汁不可入

    人目令人赤腫盲以紫草汁洗點卽消

 取蟾酥法以手捏眉稜取白汁於油紙上及桑葉上挿

 背陰處一宿卽自乾安置竹筒内盛之或以蒜及胡椒

 等辣物納口中則蟾身白汁出以竹箆刮下麪和成塊

 乾之味甘辛温有毒主治疳疾及疔惡腫

△按蟾酥倭不製之用自中華來者正黒色如墨而平圓

 是麪和成塊者矣【辛微苦微甘】畧似阿仙藥氣味而帶辛

 

 

ひきがへる  𪓰〔(きよしう)〕 蚵〔(かは)〕

 䗇鼁〔(きくきよ)〕 𪓰𪓿〔(しうし)〕

       苦〔(くらう)〕 癩叚蟇〔(らいがま)〕

蟾蜍

       【和名、「比木〔(ひき)〕」。】

唐音

チエンチエイ

 

「本綱」蟾蜍【辛、凉、徴毒。】其の皮汁、甚だ毒有り。人家〔の〕下濕の處に在り。形、大に〔して〕、背の上に痱-磊〔(ひらい)〕多く、鋭〔き〕頭、皤(しろ)き腹、促(みぢか)き睂(まゆ)、濁れる聲、鳴くこと、解せず。行くこと、極めて遲く緩やかにして、跳び躍〔(はね)〕ること、能はず。吐生〔(とせい)〕して擲〔(なげう)〕つ。糞、其口より出だすなり。或いは之れを取りて反-縛(しば)りて密室の中に着きて之れを閉〔じ〕、明くる且(あさ)視るに、自〔(おのづから)〕解く者なり。

「抱朴子」に云はく、蟾蜍、千歳すれば、頭の上に角り、腹の下に丹書〔(たんしよ)〕有り。名づけて「肉芝〔(にくし)〕」と曰ふ。能く山精を食ふ。人、得て、之れを食ふ。仙術家に取〔り〕用〔ふ〕べし。以つて霧を起し、雨を祈り、兵を辟〔(さ)〕け、自〔(おのづか)〕ら縛(しば)れるを解く。今、技者(げいしや)有りて、蟾を聚めて、戯と爲〔(な)すに〕、能く指使〔(しし)〕を聽く。物性の靈有ること、此に於いて推〔(お)〕すべし。

蟾、三足の者、有り。而〔れど〕も、龜・鼈〔(すつぽん)〕にも、皆、三足有るときは、則ち、蟾の三足も怪しむに非ざるなり。蓋し、蟾蜍は土の精なり。上〔は〕月-魄〔(つき)〕に應じて、性、靈異〔たり〕。土に穴して蟲を食ふ。又、山精を伏し、蜈蚣(むかで)を制す。故に、能く陽明經〔(ようめいけい)〕に入りて虛熱を退け、濕氣を行(めぐら)し、蟲𧏾〔(ちゆうじつ)〕を殺す。而して、疳病・癰疽〔(ようそ)〕・諸瘡の要藥と爲す。五月五日、東へ行く者を取りて、陰乾しにして用ふ。

土檳榔〔(どびんらう)〕 蟾蜍の屎〔(くそ)〕を〔いふ〕なり。下濕の處に、往往、之れ、有り。亦た、能く、疾を主〔(つかさど)〕る。

△按ずるに、蟾蜍は實〔(まこと)〕に靈物なり。予、試みに之れを取りて地に在(を)き、桶を上に覆ひて、壓(をしもの)に磐石〔(ばんじやく)〕を用ゆる。明旦、開き視れば、唯、空桶のみ。又、蟾蜍、海に入りて眼張(めばる)魚と成る。多く半〔ば〕變〔ずる〕を見る。

――――――――――――――――――――――

蟾酥(せんそ)

蟾蜍の眉間〔(みけん)〕の白汁、之れを「蟾酥」と謂ふ。其の汁、人の目に入るるべからず。人〔の目〕をして赤〔く〕腫〔らせ〕て盲〔(めしひ)〕ならしむ。紫草の汁を以つて洗〔ひ〕點ずれば、卽ち、消ゆ。

蟾酥を取る法 手を以つて眉の稜(かど)を捏(ひね)り、白汁を油紙の上及び桑の葉の上に取り、背陰(かげうら)の處に挿すこと、一宿すれば、卽ち、自〔(おのづか)〕ら乾く。竹筒の内に安置〔して〕之れを盛る。或いは、蒜〔(ひる)〕及び胡椒等の辣〔(から)〕き物を口中に納〔(い)〕るれば、則ち、蟾、身(みづか)ら、白汁を出だす。竹箆(〔たけ〕べら)を以つて刮-下(こそげ)、麪〔(むぎこ)〕に和し、塊(かたま)りと成し、之れを乾〔(ほ)〕す。味、甘く辛、温。毒、有り。疳疾及び疔(ちやう)・惡腫を治することを主〔(つかさど)〕る。

△按ずるに、蟾酥、倭〔(わ)〕に之れを製せず。中華より來たる者を用ふ。正黒色、墨のごとくにして平圓〔(へいゑん)〕。是〔れ〕、麪〔(むぎこ)〕に和して塊りを成す者か【辛、微苦。微甘。】。畧〔(ほぼ)〕、阿仙藥の氣味に似たり。辛(から)みを帶ぶ。

 

[やぶちゃん注:ヒキガエル類は怪奇談にしばしば妖怪の一種として出現し、私の「耳囊」カテゴリ「怪奇談集」にも沢山出てきたため、実はもの凄い数の注を私は過去に附してきた。ここでは生物学的に厳密なその決定注として示したいのであるが、まずは、

脊索動物門脊椎動物亜門両生綱無尾目アマガエル上科ヒキガエル科 Bufonidae に属するヒキガエル類

である。これは本稿の大分が中国本草書の引用であるから、どうしても最初はここで留めておく必要があるのである。ウィキの「ヒキガエル科」によれば、『四肢が比較的短く、肥大した体をのそのそと運ぶ。水掻きもあまり発達していない』。『後頭部にある大きな耳腺から強力な毒液を出し、また、皮膚、特に背面にある多くのイボからも、牛乳のような白い有毒の粘液を分泌する。この毒によって外敵から身を守り、同時に、有害な細菌や寄生虫を防いでいる。不用意に素手でふれることは避けるべきで、ふれた場合は後でよく手洗いする必要がある。耳腺の毒液は勢いよく噴出することもあるので、これにも注意を要する。この毒液には心臓機能の亢進作用、即ち強心作用があるため、漢方では乾燥したものを蟾酥(せんそ)と呼んで生薬として用いる。主要な有効成分はブフォトキシン』(bufotoxin:激しい薬理作用をもつものが多い強心配糖体の一種。主として心筋(その収縮)や迷走神経中枢に作用する)『などの数種類の強心ステロイドで、他に発痛作用のあるセロトニン』(serotonin:血管の緊張を調節する。ヒトでは生体リズム・神経内分泌・睡眠・体温調節など重要な機序に関与する、ホルモンとしても働く物質である)『のような神経伝達物質なども含む』とある。

 さて問題は良安の記述及び本邦での「ひきがえる」であるが、これは一般的には、現在は本邦固有種と考えられている(以下の記載はウィキの「ニホンヒキガエル」に拠る)、

ヒキガエル科ヒキガエル属ニホンヒキガエル Bufo japonicus

と同定してよいであろう(他にもヒキガエル類はいるが、ここでは、これで代表させて問題ない)。その体色は褐色・黄褐色・赤褐色などで、白・黒・褐色の帯模様が入る個体もおり、変異が大きく、体側面に赤い斑点が入る個体が多く、背にも斑点が入る個体もいる。但し、さらに言えば、厳密には現在、このニホンヒキガエルはさらに以下の二亜種に分けられている

亜種ニホンヒキガエル Bufo japonicus japonicus

(本邦の鈴鹿山脈以西の近畿地方南部から山陽地方・四国・九州・屋久島に自然分布する。体長は七~十七・六センチメートル。鼓膜は小型で、眼と鼓膜間の距離は鼓膜の直径とほぼ同じ

亜種アズマヒキガエル Bufo japonicus ormosus

(本邦の東北地方から近畿地方・島根県東部までの山陰地方北部に自然分布する。体長六~十八センチメートル。鼓膜は大型で、眼と鼓膜間の距離よりも鼓膜の直径の方が大きい

なお、本来、本種が存在しなかった北海道への移入については、引用元を参照されたい。

 以下、ウィキの「ニホンヒキガエル」から引用する(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した)。『四六のガマと呼ばれるが、前肢の指は四本、後肢の指は五本。繁殖期のオスにはメスを抱接する際に滑り止めとして後肢にコブ(婚姻瘤)ができるためそれを六本目の指と勘違いしたと』も言われる(引用元には要出典要請が掛けられてあるが、私は複数の書物でこの説を読んでおり、疑問視する必要はないと考える)『の亜種とされていたが、分割され』て『独立種となった。ヘモグロビンの電気泳動法による解析では、両亜種の解析結果がナガレヒキガエル』(ヒキガエル属ナガレヒキガエル Bufo torrenticola:日本固有種で北陸地方から紀伊半島にかけて自然分布し、体長はで七~十二・一センチメートル、で八・八~十六・八センチメートル)『とは類似するものの』、『ヨーロッパヒキガエルとは系統が異なる(近縁ではない)と推定されている』。『低地から山地にある森林やその周辺の草原などに生息し、農耕地、公園、民家の庭などにも広く生息する。本種は都市化の進行にも強い抵抗力を示し、東京の都心部や湾岸地域でも生息が確認されている』。『夜行性で、昼間は石や倒木の下などで休む。ヤマカガシは本種の毒に耐性があるようで好んで捕食する。ヤマカガシの頚部から分泌される毒は、本種の毒を貯蓄して利用していることが判明している』。『本種を含め、ヒキガエル類は水域依存性の極めて低い両生類である。成体は繁殖の際を除いて水域から離れたまま暮らしており、とりわけ夏季には夜間の雑木林の林床や庭先等を徘徊している姿がよくみられる。体表のイボや皺は空気中における皮膚呼吸の表面積を最大化するためと考えられている。また後述のように、繁殖に必要とする水域規模もまた、相対的に小さくて済むようになっている』。『食性は動物食で、昆虫、ミミズなどを食べる』。『繁殖形態は卵生。繁殖期は地域変異が大きく南部および低地に分布する個体群は早く(屋久島では九月)、北部』及び『高地に分布する個体群は遅くなる傾向があり(立山や鳥海山では七月)。池沼、水たまり、水田などに長い紐状の卵塊に包まれた千五百~一万四千個(基亜種』で『六千~一万四千個、亜種アズマヒキガエル』で『千五百~八千個)の卵を産む。多数個体が一定の水場に数日から一週間の極めて短期間に集まり繁殖する(ガマ合戦、蛙合戦)。南部個体群は繁殖期が長期化する傾向があり、例として分布の南限である屋久島では日本で最も早い九月の産卵例、十一月の幼生の発見例(十月に産卵したと推定されている)、一~三月の繁殖例、三~四月の産卵例がある。繁殖期のオスは動く物に対して抱接しようとし、抱接の際にオスがメスを絞め殺してしまうこともある。幼生は一~三か月で変態する』。『先着のオスが発する、またはオスがメスと思って上に乗っかると「グーグー(おれはオスだ。さっさと降りろ!)」のリリース・コールという特別な鳴き声によって弱いオスは離れ、通常一対一のペアで産卵が行われる』(ここと次の部分には要出典要請が掛けられており、)。『背中のオスの抱きつく力が刺激になって産卵を誘発するといわれ、紐状の卵塊を長時間にわたって産み出すために、産卵後のメスは体力を使い果たして、産み落とした卵の側で休む事が多い』。『大柄な姿に反してヒキガエルの幼生期間は短く、仔ガエルに変態した時の体長はわずか五〜八ミリメートルである。これは、水の乏しい地域で短期間しか存在しない水たまり等でも繁殖できるよう進化がすすんだためと考えられている』。『形態や有毒種であることからか忌み嫌われることもある。しかし民家の庭等に住みつくこともよくあり、人間の身近で生活する動物とも言える。一番身近な生物の一つ』である(私の家にも一九九〇年に新築した直後から、猫の額ほどの庭とも言えぬ庭の隅の狭苦しい水道受けの下に十五センチを超える一匹が実に十年近く棲んでいたのを思い出す)。『本種の皮膚から分泌される油汗をガマの油と称して薬用にしたとされる。しかし実際に外傷に対し』、『薬として用いられたのは馬油や植物のガマの方であるとも言われているが、実際のところは不明である。二〇一六年現在に於いて種村製薬から発売されている商品は、その配合も含めて第二次世界大戦後に作られた物である。』但し、『「ガマの油」とは別に、ヒキガエルの耳下腺分泌物には薬効があり、それを小麦粉で練ったものは蟾酥といい、強心や抗炎症などに用いた』とある。

 なお、「がまがえる」と「ひきがえる」は、本邦では「大きな蛙」の代名詞のように汎用化されて同一生物種とされてしまい、「蟇(蛙)」「蟾蜍」と両方に全く同じ漢字名が使用され(それぞれを漢字変換すると、ワード・プロセッサ自体が混用していることがお判り戴けるはずである)、全く同種として認識されているのであるが、次項の出る「蝦蟇」(がま:無尾(カエル)目アカガエル科ヌマガエル亜科ヌマガエル Fejervarya limnocharis)と、このヒキガエル科の「蟾蜍」は生物学的には全く異なる種であるので、くれぐれも注意されたい

 

「癩叚蟇〔(らいがま)〕」これのみ、東洋文庫の読みを参照した。他は総て、今まで通り、独自に音を調べ、歴史的仮名遣で記してある。

「痱-磊〔(ひらい)〕」当初は「いぼ」と当て訓しようと思った(「痱」は現代中国語「痱子」で「あせも」を意味し「磊」は文字通り、「石がゴロゴロと多く積み上っている」の意)が、「いぼ」では隆々突兀たる背部のイメージが出ないので敢えて音読みした。東洋文庫版は『ぶつぶつ』とルビするが、これはショボ過ぎるし、古文の訓読としては馴染まないので採らない。

「鋭〔き〕」私は「とき」と訓じたい。

「皤(しろ)」「白」に同じい。

「促(みぢか)き睂(まゆ)」「短き眉」。

「鳴くこと、解せず」その鳴き声は明瞭に音写することが出来ない、の謂いと採る。

「吐生〔(とせい)〕して擲〔(なげう)〕つ」意味を採り難いが、本巻は「湿生類」で湿気から生ずる生物と認識された生物群である。即ち、これは突如、口から自分の子を吐き、そのまま飼育せずに放置するという意味である。しかも「糞、其口より出だすなり」とくるのは、異形の彼らとは言え、時珍先生、あんまりです!

「反-縛(しば)りて」底本では「縛」の右に「シハリテ」と振るのであるが、「反」を上手く読めないので、二字でかく読ませた。「反縛」という熟語は漢語で「両の手を反りかえして縛り上げること」を意味するように思われるから、或いは四肢を背の側に反らせて繩で縛り上げ、絶対に這えぬようにすることを言っているのではないかと私は推測する。

「着きて」(動けぬように)しっかりと据え置いて。

「自〔(おのづから)〕解く者なり」常に何故か絶対の解けぬように縛ったはずの繩が自然に解けてしまっているのである、の意。ここで大事なのは、後で良安が実験した時のように(これは怪奇談の中にしばしば出る。例えば私の「北越奇談 巻之四 怪談 其十三(蝦蟇怪)」を見よ)、密室の中で消えていなくなっている「怪」として書かれているのではない点である。都合よく、そう読んではいけない。そうしてこれなら、非常に柔軟な体を持つヒキガエルならば、繩を抜けても少しもおかしくないことが判る。さればこそ、時珍のこの記載は決して読む物を怖がらせるような超常怪奇現象として書いているのでは決してなく、観察上の事実を書いているのである。彼は当時の立派な博物学者なのである。

「抱朴子」(ほうぼくし)は晋の道士葛洪(かっこう:彼は「道教は本、儒教は末」という儒・道二教を併用する思想の保持者であった)の号であると同時に彼の仙道書の書名。 元は全百六篇とされるが、現存するそれは内篇二十・外篇五十・自叙二篇である。三一七年の成立。内篇は仙人の実在を主張し、仙薬製造法・修道法・道教教理などを論じて道教の教義を組織化したものとして後代の道教のバイブルの一つとされ、外篇は儒教の立場からの世事・人事に関する評論が載る。私の偏愛書の一つである。但し、以下は「抱朴子」の原書(「仙藥」の章にある)からの引用ではなく、良安は「太平御覧」(宋初期に李昉らの奉勅撰によって九七七年から九八三年頃に成立した類書(百科事典)の一つ。同時期に編纂された「太平広記」・「冊府元亀」・「文苑英華」と合わせて四大書と称される)の「巻九百四十九 蟲豸部六」の「蟾蜍」の記載その他を元に書いたのではないかと思われ、しかもここ以下は、そこから安易に繋ぎ合せて引いた(良安の悪い癖である)ために、「抱朴子」ではない、他の「玄中記」や靈憲」等の記載も含まれてしまっているように見える。以下に「太平廣記」のそれを示すので確認されたい(下線やぶちゃん)。

   *

「抱朴子」曰、蟾蜍壽三千。又曰、肉芝者、謂萬歳蟾蜍頭上有角、領下有丹書「八」字再重。以五月五日日中時取之、陰乾、百日、以其足畫地、卽爲流水。帶其左手於身、辟五兵。若敵人射已者、弓弩矢皆反還自向也。又曰、辟兵法、或以月蝕時刻三歳蟾蜍喉下有『八』字者血、以書所持之刀劍。「玄中記」曰、蟾蜍頭生角、得而食之、壽千歳。又能食山精。張衡「靈憲」曰、羿請不世之藥於西王母、娥竊之以奔月。遂托身於月、是爲蟾蜍。「淮南子」同。

   *

「千歳」原典の「抱朴子」でも「三千歳」であり、上記の通り、「肉芝」は「萬歳」を経た蟾蜍で、「千歳」は「玄中記」の数値であることが判る。

「山精」(さんせい)は、ここでは古代中国で広範なアニミズムの山川草木に対する精霊崇拝から生じた山の霊・神怪及びそれが零落した化け物を指す語であったと思われる。後に擬人化して一本足の鬼の怪物として描かれるのであるが(良安自身が描いて解説している。私のサイト版「和漢三才圖會 卷第四十 寓類 恠類」の「山精」を参照されたい)、幾らなんでも、ちんまいヒキガエルがこの「一本だたら」めいたそれを食うという情景は中国であっても考えにくい。あくまで魑魅魍魎や木霊(こだま)のような人間の目には見えない妖気から成り立っている精霊(すだま)を想起するのがよい。後に出る「山精を伏し」もそう採ってこそ、すんなりと読める。

「兵を辟〔(さ)〕け」武器の難を避け。

「自〔(おのづか)〕ら縛(しば)れるを解く」捕縛された場合にそのきつく絞まった繩をいとも簡単に自然に解(ほど)いてしまう。

「技者(げいしや)」読みはママ。技芸者。業者(わざもの)。この場合は、ヒキガエルを用いて芸をさせるために調教する大道芸人のような生業(なりわい)の者を指すのであろう。

「戯と爲〔(な)すに〕」芸をを仕込むに。

「能く指使〔(しし)〕を聽く」よくその調教師の指図を弁えてその通りにする。

「物性」人以外の動植物の基本的属性。

「推〔(お)〕すべし」推察することが出来る。

「蟾、三足の者、有り」これは後足が一本の前足とで三本の蛙のことを指す。捕食されて欠損したものや奇形で幾らも自然界に実在はするが、中国では蝦蟇仙人(がませんにん)が使役する「青蛙神(せいあしん)」という霊獣(神獣)がこの三足だとされ、「青蛙将軍」「金華将軍」などとも呼ばれて、一本足で大金を掻き集める金運の福の神として現在も信仰されている。それを形象した置物も作られて売られている。

「龜・鼈〔(すつぽん)〕にも、皆、三足有る」これも欠損や奇形で説明は出来るが、私の好きな中国古代のトンデモ地理書「山海経」の「中山経」には、「其陽狂水出焉、西南流注于伊水、其中多三足龜、食者無大疾、可以已腫」とあって、伊水という川に三足亀が多く棲む、これを食べる者は大病かそうでないかなどは無関係に腫瘍を治すことが出来る、とする。東晉の郭璞(かくはく)の「江賦」には「有鱉三足、有龜六眸」と出、この「鱉」(音「ゲツ・ケツ」)はまさにスッポンのことである。

「ときは」ここは「ことを考えれば」の意。

「蟾蜍は土の精なり」この場合は巣籠もりする土という具体的な「土(つち)」も勿論乍ら、五行の元素(エレメント)としての、万物を育成・保護するという性質や季節の変わり目の象徴でもある「土行(どぎょう)」の含みも添えていよう。

「月-魄〔(つき)〕に應じて」「淮南子(えなんじ)」の「覧冥訓」に、羿(げい)が不死の薬を西王母に求めたところ、羿の妻嫦娥(じょうが)が、これを窃(ぬす)んで月に奔(はし)ったことが見え、嫦娥は月中の蟾蜍(せんじょ)となって月の精となったとあり(これは「楚辞」の「天問」にも歌われているが、そこでは兎となったとされるから、観察される月表面の模様にヒキガエルを見たことが推理される。ここは平凡社「世界大百科事典」に拠る)。東洋文庫の注にも、『蟾蜍は月に住むという。『淮南子』(精神訓)に、日の中には踆烏(しゅんう)あり、月の中には蟾蜍がいる、とある』とある。

「山精を伏し」魑魅魍魎を降伏(こうぶく)し。

「蜈蚣(むかで)を制す」ヒキガエルは実際にムカデを捕食するが、ここで言っているのには、やはり陰陽五行説による相克説や蜈蚣と蟾蜍の中国での民俗学的関係があるように私には思われる。はっきり書けるように資料が集められたら、追記したいと思っている。

「陽明經〔(ようめいけい)〕」人体を巡っている十二経絡の一つで、手に流れる大腸経や足に流れる胃経の総称。

「蟲𧏾〔(ちゆうじつ)〕」「𧏾」は「人を刺す虻(あぶ)や蚊(か)の類」或いは「虫に刺されたり噛まれたりして病むことを意味する。東洋文庫はあっさりと「蟲𧏾」の二字で『むし』とルビする。その方が判りはよい。

「疳病」は「癇の虫」と同じで、「ひきつけ」などの多分に神経性由来の小児病を指す。

「癰疽〔(ようそ)〕」感染性の腫れ物や腫瘍。「癰」は浅く大きくもの、「疽」は深く狭いものを差す。

「諸瘡」皮膚のできものや腫れ物及び外傷。

「土檳榔〔(どびんらう)〕」「檳榔」は単子葉植物綱ヤシ目ヤシ科ビンロウ属ビンロウ Areca catechu であるがここはその実である檳榔子(びんろうじ)のことであろう。「酉陽雑俎」の「巻十 物異」に、

   *

土檳榔 狀如檳榔。在孔穴間得之。新者猶軟、相傳蟾蜍矢也。不常有之、主治惡瘡。

   *

とあるのがそれ。「矢」は「屎」の意。但し、原典の叙述から見て、実際には「ヒキガエルの糞」ではないようで、「採取されるところではそう言い伝えられている」とある。地面の穴の中から採取され、新しいものは柔らかで、滅多になく、悪性腫瘍に効く、とする辺りからは、稀種のキノコの類のように私には思われる

「疾を主〔(つかさど)〕る」病いを療治する。

「磐石〔(ばんじやく)〕」重く大きな岩石。

「蟾蜍、海に入りて眼張(めばる)魚と成る。多く半〔ば〕變〔ずる〕を見る」脊椎動物亜門条鰭綱新鰭亜綱棘鰭上目スズキ目カサゴ亜目メバル科メバル属 Sebastes の、あの魚のメバルである。驚く人も多かろうが、実はこの「ヒキガエルがメバルに変ずるというトンデモ変異譚(メタモルフォーゼ)」は、以外にも江戸時代には全国的にポピュラーなものであった。私の「谷の響 二の卷 六 變化」を是非、参照されたい。そこで私流のこの伝承の見解も注で附してあるからである。

「蟾酥(せんそ)」ウィキの「蟾酥から引く。生薬の一つで、アジアヒキガエル(ヒキガエル属アジアヒキガエル Bufo gargarizans:朝鮮半島及び中華人民共和国東部・日本(南西諸島)・ロシア南東部に分布)やヘリグロヒキガエル(ヒキガエル属ヘリグロヒキガエル Bufo melanostictus:インド及び東南アジア・中国南部・台湾・ネパール・パキスタン等に分布。本邦には棲息しない)の『耳腺分泌物、皮膚腺分泌物を集め、乾燥させたもの』である。『漢字の「蟾」はヒキガエル、「酥」は牛や羊の乳から取る脂肪や、それに類似するものをいう』。『主な有効成分は強心性ステロイドでブファリン(bufalin)、レジブフォゲニン(resibufogenin)、シノブファギン(cinobufagin)、ブフォタリン(bufotalin)、シノブフォタリン(cinobufotalin)、ガマブフォタリン(gamabufotalin)等』、『またインドール塩基のセロトニン(serotonin)等を含む。有効成分はアルコールや油脂に溶解するので、粉砕してエタノールや白酒に浸し、溶解して用いる』。『中国の『中華人民共和国薬典』に収載。日本薬局方では毒薬とされている』。常用量は一日二~五ミリグラム、極量は一日十五ミリグラムと規定されている。『生薬としては、多くはやや艶のある赤褐色から黒褐色で、上面が凸レンズ状にふくれ、下面が凹んだ円盤状に成型され、団蟾酥と称する。中央に穴をあけ麻紐を通し』五個ほどを一連として『吊るしていることが多かった。他に板状に乾かした後、不規則なフレーク状に割ったものもあり、片蟾酥と称する。表面に水滴をたらすと、水分を含んで乳白色に変化する』。『味は、はじめは甘く刺激性があり、後に持続性の麻痺感を生ずる』。『臭いはあまり無いが、わずかに生臭さがある』。『皮膚、粘膜などに長く接触すると、痛みを感じ、発泡する』。『生産地は、中華人民共和国の江蘇省、河北省、遼寧省、山東省などの各地。多くは夏と秋にアジアヒキガエルやヘリグロヒキガエルを捕獲、または養殖して洗浄し、白い分泌物を集める』。『薬理作用は、強心作用、血圧降下作用、冠血管拡張作用、胃液分泌抑制作用、局所麻痺作用、抗炎症作用等がある』。『蟾酥を用いた和漢薬には六神丸などがある』。『なお、民間薬で傷薬として用いられる「蝦蟇の油」は、実際は本品でなく、動物の脂肪から取った油、もしくは植物のガマの油であったとされる』とある。

「紫草」シソ目ムラサキ科ムラサキ属ムラサキ Lithospermum erythrorhizon か。ウィキの「ムラサキによれば、同種の根は生薬で「紫根(シコン)」と呼ばれ、「日本薬局方」にも収録されている。抗炎症作用・創傷治癒の促進作用・『殺菌作用を持ち、紫雲膏などの漢方方剤に外用薬として配合される。最近では、日本でも抗炎症薬として、口内炎・舌炎の治療に使用される』とあり、中文ウィキはこれを「紫草」という漢名で出す。

「背陰(かげうら)の處に挿す」陰干しする。

「一宿すれば」一晩で。

「竹筒の内に安置〔して〕之れを盛る」最後の「之れを盛る」がよく判らぬ。「保存する」なら「安置」があるから屋上屋である。「熟成させる」の意だろうか? 識者の御教授を乞う。

「蒜〔(ひる)〕」ここは特定種ではなく、ネギ・ニンニク・ノビルなどの食用とする単子葉植物綱ユリ目ユリ科 Liliaceae の多年草類の古名。

「胡椒」コショウ目コショウ科コショウ属コショウ Piper nigrum から製した香辛料。同種の実の収穫のタイミングや製法の違いによって黒・白・青・赤の胡椒が製品としては別に存在する。

「刮-下(こそげ)」こそぎ落とし。

「麪〔(むぎこ)〕」小麦粉。

「疔(ちやう)」面疔(めんちょう)。顔面に発生した癤(せつ:毛包組織の化膿性病変。広義の「おでき」の一つであるが、重症化すると根治が難しく、合併症によって生命に危険をもたらこともある)。口の周囲・額・鼻などに発生し易く、近代以前では、炎症が頭蓋内に及んで脳膜炎などを起こすことが頻繁にあり、非常に恐れられた病気である。

「倭〔(わ)〕」日本。

「平圓〔(へいゑん)〕」平たい円盤状。

「是〔れ〕、麪〔(むぎこ)〕に和して塊りを成す者か」これが前に記した「麪に和し、塊(かたま)りと成し、之れを乾す」とある最終精製物なのであろうか?

「阿仙藥」先行する、訳の分らぬ項立て第五十二 蟲部 阿仙藥の本文及び私の注を参照されたい。結論だけを言うと、「阿仙薬」とは被子植物門双子葉植物綱アカネ目アカネ科カギカズラ属ガンビールノキ Uncaria gambir の葉及び若枝を乾燥させて加水し、そこから抽出した精製エキスのことで、当該エキスは、強い活性酸素抑制能力により、「生活の質」(QOL:quality of life)の向上・過酸化脂質の無毒化・心筋梗塞の発生抑制・細菌性食中毒の予防・身体機能の「恒常性」(Homeostasis:ホメオスタシス)を健康な状態に保つ・健胃整腸機能その他の効果があるとされる。詳しくはリンク先の私の注を、どうぞ。]

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