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« 和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 䖟(あぶ) | トップページ | 和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 孑孓(ぼうふりむし) »

2017/09/19

和漢三才圖會卷第五十三 蟲部 蚊(か) 附 蚊母鳥(ヨタカ?)


Ka

か     暑※ 白鳥

      【和名加】

【音文】

      ※𧉬蚊蚉

ウヱン   皆同字

[やぶちゃん注:「※」=「螽」-「冬」+「民」。以下、同じ。]

 

本綱蚊冬蟄夏出晝伏夜飛細身利喙人膚血大爲人

害化生于木葉及爛灰中産子于水中爲孑蟲仍變爲

蚊也龜鼈畏之螢火蝙蝠食之故煑鼈入數枚卽易爛也

三才圖會云長喙如針性惡烟以艾燻之則潰其生艸中

者尤利而足有文彩號豹脚蚊字亦以有文也

    【堀川百首】蚊遣火の煙うるさき夏の夜はしつのふせやに假り寢をばせし 師賴

△按※以昏時出入故字从昬省蓋産子于水中爲孑

 冬蟄夏出之説竝非也其孑濕生而汚水爲熱感所

 生者也羽化爲蚊四月始生九月盡終也晝隱昬出羣

 飛上下如舂以翅鳴人血痕脹甚痒也其毒烈於蚤

――――――――――――――――――――――

豹脚【俗云藪蚊】 竹木葉濕熱所蒸生小蟲亦羽化爲蚊大倍

 常蚊足有班文又有一種小而黑者此二種寺院藪林

 多有之晝亦出不鳴嚙人最猛

 凡避蚊燻榧鋸屑可也然蜈蚣喜榧香來爾雅所謂菖

 蒲去蚤蝨而來蛉窮之類也五月五日午時書儀方二

 字粘屋柱則避蚊又灌酒篠葉挿傍隅則蚊皆集其篠

 凡蚊至深秋喙拆瑯琊代醉曰古諺云霧滃蠏螯枯露

 下而蚊喙拆月虛而魚腦減

嶺南有蚊子木葉如冬青實如枇杷熟則蚊出

塞北有蚊母草葉中有血蟲化而爲蚊

江東有蚊母鳥毎吐蚊一二升【見于水禽部】

 

せうめい

蟭螟

ツヤ◦ウ ミン

 

三才圖會云江浦之間有麼蟲巣蚊睫再乳而

蚊不覺毎生九卵伏成九子俱去蚊不知列子

云海上有蟲集蚊睫離朱子羽望之不見形𧣾

愈師曠聽之不聞其聲【此四人古聰明者然不得視之聞之】

△按春秋所謂齋景公與晏子極細者之問答蟭螟是也

 莊子所謂大者鯤魚鵬鳥小者蟭是也恐皆寓言

 

 

か     暑※〔(しよぶん)〕 白鳥〔(はくちよう)〕

      【和名、「加」。】

【音、文〔(ぶん)〕。】

      ※〔(ぶん)〕・𧉬〔(ぶん)〕・蚊〔(ぶん)〕・蚉〔(ぶん)〕、皆、同字なり。

ウヱン

[やぶちゃん注:「※」=「螽」-「冬」+「民」。以下、同じ。]

 

「本綱」、蚊は、冬は蟄〔(あなごもり)〕し、夏、出づ。晝、伏〔(ふく)〕し、夜、飛ぶ。細き身、利〔(と)〕き喙〔(くちばし)〕、人の膚の血を〔(す)〕ふ。大いに人の害を爲す。

木の葉及び爛灰〔(らんばひ)〕の中に化生して、子を水中に産む。「孑蟲(ぼうふりむし)」と爲る。仍つて變じて蚊と爲るなり。龜・鼈〔(すつぽん)〕、之れを畏る。螢火〔(ほたる)〕・蝙蝠(かはもり)、之れを食ふ。故に鼈を煑るに數枚を入るれば、卽ち、爛れ易し。

「三才圖會」に云はく、長き喙、針のごとく、性、烟〔(けぶり)〕を惡〔(にく)〕む。艾〔(もぐさ)〕以つて之れを燻ずるときは、則ち、潰(つ〔ひ〕)ゆる。其れ、艸〔(くさ)〕の中に生ずる者、尤も利(と)くして、足に文彩〔(もんさい)〕有り。「豹脚〔(へうきやく)〕」と號(な)づく。「蚊」の字〔も〕亦、文〔(もん)〕有(あ)るを以つてす。

【「堀川百首」】蚊遣火〔(かやりび)〕の煙(けぶり)うるさき夏の夜はしづのふせやに旅寢をばせじ 師賴

[やぶちゃん注:一首は最終句に誤まりがあるので、特異的に訓読で訂した。誤りは「假り寢」の部分で「旅寢」が正しい。

△按ずるに、※〔(か)〕は昏時〔(くれどき)〕を以つて出入〔り〕す。故に字、「昬〔(コン/ゆふべ)〕」の省くに从〔(したが)〕ふ。蓋し、『子を水中に産みて、「孑(ぼうふり)」と爲〔(な)〕る』、『冬、蟄〔(あなごもり)〕し、夏、出づる』といふの説、竝〔(とも)〕に非なり。其孑は濕生にして、汚水、熱の爲めに感じて所生する者なり。羽化して蚊と爲る。四月、始めて生じ、九月、盡〔(ことごと)〕く終る。晝は隱れ、昬〔(ゆふ)〕べに出でて、羣飛して、上〔(のぼ)〕り、下り、舂(うすつ)くごとし。翅を以つて鳴き、人の血をふ。痕(あと)、脹〔(は)〕れて、甚だ痒し。其の毒、蚤(のみ)より烈〔(はげ)〕し。

――――――――――――――――――――――

豹脚【俗に「藪蚊」と云ふ。】 竹木の葉、濕熱に蒸されて小蟲を生ず。亦、羽化して蚊と爲る。大いさ、常の蚊に倍す。足に班文〔(はんもん)〕有り。又、一種、小にして黑き者、有り。此の二種、寺院・藪・林に多く之れ有り。晝も亦、出でて、鳴かずして人を嚙む。最も猛し。

凡そ、蚊を避くる、榧〔(かや)〕の鋸屑(をがくず)を燻(ふす)べて可〔(よ)〕し。然れども、蜈蚣〔(むかで)〕、榧の香、喜んで來〔(きた)る〕。「爾雅」、所謂(いはゆ)る、『菖蒲〔(しやうぶ)〕、蚤・蝨〔(しらみ)〕を去れども、蛉窮(げぢげぢ)を來(き)たす』といふの類〔(たぐひ)〕なり。五月五日、午〔(うま)〕の時、「儀方」の二字を書きて屋柱〔(やばしら)〕に粘(は)れば、則ち、蚊を避く。又、酒を篠(ささ)の葉に灌(そゝ)ぎ、傍隅(かたすみ)に挿(さ)せば、則ち、蚊、皆、其の篠に集まる。凡そ、蚊、深秋に至れば、喙〔(くちばし)〕、拆(くじ)く。「瑯琊代醉(ろうやだいすゐ)」に曰く、『古〔き〕諺に云はく、「霧、滃(こまやか)にして、蠏〔(かに)〕の螯(はさみ)、枯れ、露、下〔(お)〕りて、蚊の喙、拆け、月、虛にして、魚、腦、減〔(げん)〕ず」といふ』〔と〕。

嶺南に「蚊子木〔(ぶんしぼく)〕」有り。葉、冬青(まさき)のごとく、實、枇杷〔(びは)〕のごとし。熟すれば、則ち、蚊、出づ。

塞北〔(さいほく)〕に「蚊母草〔(ぶんもさう)〕」有り。葉の中に、血蟲(けつちゆう)有り。化して蚊と爲る。

江東に蚊母鳥〔(ぶんもてう)〕有り。毎〔(つね)〕に蚊を吐くこと、一、二升【水禽〔(すいきん〕の部の部を見よ。】

 

せうめい

ツヤウ ミン

 

「三才圖會」云はく、『江浦の間に麼蟲〔(バチユウ/こまかきむし)〕有り。蚊の睫(まつげ)に巣(すく)ふ。再たび、乳〔(う)めども〕、蚊、覺えず。毎〔(つね)〕に九卵を生み、伏〔(ふく)〕して、九子、成〔らば〕、俱に去りて、蚊、知らず。』〔と〕。「列子」に云はく、『海上に蟲有り、蚊の睫に集まる。離朱・子羽、之れを望むれども、形を見ず、𧣾愈〔(ちゆ)〕・師曠〔(しくわう)〕之れを聽けども、其の聲を聞かず』【此の四人は、古〔(いにし)〕へ、聰明なる者にして、然れども、之れを視、之れを聞くことを得ず。】〔と。〕

△按ずるに、「春秋」に所謂〔(いはゆ)〕る、齋の景公と晏子〔(あんし)〕と、極細なる者の問答の「蟭螟」、是れなり。「莊子」に所謂る、大なる者、鯤魚・鵬鳥、小なる者、「蟭螟」、是れなり。恐らくは、皆、寓言〔(ぐうげん)〕なり。

 

[やぶちゃん注:双翅(ハエ)目長角(糸角/カ)亜目カ下目カ上科カ科 Culicidae に属する蚊類。亜科はオオカ亜科 Toxorhynchitinae・ナミカ亜科 Culicinae・ハマダラカ亜科 Anophelinae に分かれるが、良安は人から吸血するものと限定しているから、も吸血行動をとらないオオカ亜科 Toxorhynchitinae は外れる。御存じのことと思うが、吸血するのはだけで、は植物の蜜や果汁などの糖分を含む液体を吸っている

 

「白鳥〔(はくちよう)〕」蚊の別名。「本草綱目」の「蜚〔(ひばう)〕」(キンイロアブ Tabanus sapporoensis が形態的には近い)の「附録」の条に「蚊子」があり、そこに『一名白鳥也』とある。

「蟄〔(あなごもり)〕し」音読み(「チツ」)してもよかったが、一読で判り易さを考え、東洋文庫版の訳のルビを援用した。

「利〔(と)〕き喙〔(くちばし)〕」鋭い口吻。

人の膚の血を〔(す)〕ふ。大いに人の害を爲す。

「爛灰〔(らんばひ)〕」時間が経って熱が去り、焼け残った物の腐敗が進んだ汚れた灰。

「孑蟲(ぼうふりむし)」蚊の幼虫。漢字はママ。ウィキの「カ」によれば、『幼虫は全身を使って棒を振るような泳ぎをすることから、古名の「棒振り」「棒振り虫」が訛ってボウフラ(孑孒、『広辞苑』によれば孑孑でもよい)となった』。『地方によってはボウフリの呼称が残る。ボウフラは定期的に水面に浮上して空気呼吸をしつつ、水中や水底で摂食活動を行う。呼吸管の近くにある鰓は呼吸のためではなく、塩分の調節に使われると考えられている』。

「螢火〔(ほたる)〕」下の「蝙蝠(かはもり)」(コウモリ)との釣り合いから、二字で「ほたる」と読んでおいた。但し、ホタルの成虫が蚊を摂餌するというのはどうだろう? 何故なら、ウィキの「ホタル」には、『多くの種類の成虫は、口器が退化しているため、口器はかろうじて水分を摂取するぐらいしか機能を有していない。このため』、ほぼ一~二週間の『間に、幼虫時代に蓄えた栄養素のみで繁殖活動を行うことになる』とあるからである。しかしその直後に『海外の種の中には成虫となっても他の昆虫などを捕食する種類がいる』とあるから、中国産の中には蚊を捕食する種がいるのかも知れぬ。識者の御教授を乞う。

「枚」数詞。匹。

「艾〔(もぐさ)〕」これは灸に使用されるヨモギ(キク目キク科キク亜科ヨモギ属変種ヨモギ Artemisia indica var. maximowiczii)の葉の裏にある繊毛を精製した「艾炷〔(もぐさ)〕」であろう(「炷」は音「シユ(シュ)」で灸に用いるための「もぐさ」の灯心状のものの一本分を指す)。

「潰(つ〔ひ〕)ゆる」全滅する。

「尤も利(と)くして」最も口吻の針が鋭くて。

「足」脚。

「文彩〔(もんさい)〕」模様。

「豹脚〔(へうきやく)〕」ここについては、中国の記載であるから、ナミカ亜科ヤブカ属 Aedes や、同じ様に紋を持つハマダラカ亜科 Anophelinae 類を含むとしておくのがよいが、まあ、我々にとってお馴染みのそれは、後の良安の説明に出るところの「豹脚」はヤブカ属シマカ亜属ヒトスジシマカ Aedes (Stegomyia) albopictus である。

「蚊遣火〔(かやりび)〕の煙(けぶり)うるさき夏の夜はしづのふせやに旅寢をばせじ」読み易く整序すると、

 

 蚊遣火の煙五月蠅(うるさ)き夏の夜は賤(しづ)の伏屋(ふせや)に旅寢をばせじ

 

である。言わずもがなであるが「旅寢をばせじ」は「旅寝なんぞは、これ、するものではない」の意。

「師賴」源師頼(もろより 治暦四(一〇六八)年~保延五(一一三九)年)は平安後期の公卿で歌人。正二位大納言。「小野宮大納言」と号した。和歌の速読を得意としたらしい。

「昏時〔(くれどき)〕」日暮れ時。

「昬〔(コン/ゆふべ)〕」「昏」の異体字。

「蓋し、『子を水中に産みて、「孑(ぼうふり)」と爲〔(な)〕る』、『冬、蟄〔(あなごもり)〕し、夏、出づる』といふの説、竝〔(とも)〕に非なり。其孑は濕生にして、汚水、熱の爲めに感じて所生する者なり。羽化して蚊と爲る」良安の悪い癖である化生説をブチ上げてしまい、折角の王圻(おうき)の「三才図会」の生物学的に正しい観察を否定してしまっている。残念至極。

「其の毒、蚤(のみ)より烈〔(はげ)〕し」これはちょっと大袈裟に見える。蚤の方が痒い。なお、当時の日本には未だ蚊が媒介するマラリアが本邦にも流行っていたのであるが、マラリアが蚊(ハマダラカ亜科 Anophelini 族ハマダラカ属 Anopheles のハマダラカ類)の媒介する感染症であることが判明するのは近代(一九〇二年・明治三十五年)のことだから、この「毒」をマラリアの症状を指すととるわけには残念ながら、いかない。

「竹木の葉、濕熱に蒸されて小蟲を生ず。亦、羽化して蚊と爲る」くどいね、誤りもここまで繰り返されると、ムッとしてきますぜ、良安センセ!

「晝も亦、出でて、鳴かずして人を嚙む」これは夜の静けさの中で羽音がよく聴こえることによる錯覚と思われる。

「榧〔(かや)〕裸子植物門マツ綱マツ目イチイ科カヤ属カヤ Torreya nucifera。カヤ材は碁盤や将棋盤の最高級品とされる。

「蜈蚣〔(むかで)〕、榧の香、喜んで來〔(きた)る〕」ホンマかいな?!

「菖蒲〔(しやうぶ)〕、蚤・蝨〔(しらみ)〕を去れども、蛉窮(げぢげぢ)を來(き)たす」同前。これらって、恐らくは陰陽五行説辺りで牽強付会させたもので、信じない方がいい部類の話である。

『五月五日、午〔(うま)〕の時、「儀方」の二字を書きて屋柱〔(やばしら)〕に粘(は)れば、則ち、蚊を避く』当時は一般に知られた端午の節句の習慣で、紙に「儀方」の二字を書いて壁や柱などに貼れば蚊をよせつけないとされた。仲夏の季語に「儀方書く」がある。

「瑯琊代醉(ろうやだいすゐ)」東洋文庫の書名注に、『瑯琊代酔編』として『四十巻。明の張鼎(てい)思編。経史の考証や雑事を漫然と記した随筆の類』とある。「瑯琊」は中国の古地名。

「蚊、深秋に至れば、喙〔(くちばし)〕、拆(くじ)く」蚊は晩秋になると、口吻が折れてしまう。ホンマかいな?!

「霧、滃(こまやか)にして、蠏〔(かに)〕の螯(はさみ)、枯れ、露、下〔(お)〕りて、蚊の喙、拆け、月、虛にして、魚、腦、減〔(げん)〕ず」これも陰陽五行の知ったかぶりの捏造であろう。

「嶺南」中国南部の「五嶺」(越城嶺・都龐(とほう)嶺(掲陽嶺とも称す)・萌渚(ほうしょ)嶺・騎田嶺・大庾(だいゆ)嶺の五つの山脈)よりも南の地方を指す。現在の広東省・広西チワン族自治区・海南省の全域と、湖南省・江西省の一部に相当し、部分的には華南とも重なっている。更に、かつて中国がベトナムの北部一帯を支配して紅河(ソンコイ河)三角州に交趾郡を置くなどしていた時期にはベトナム北部も嶺南に含まれていた。

「蚊子木〔(ぶんしぼく)〕」現行、漢名(中文名)で「蚊母樹」があり、これを蚊子木と同義とし、ユキノシタ目マンサク科イスノキ属イスノキ Distylium racemosum を指す

「冬青(まさき)」現行、「冬青」と漢字表記するのは、バラ亜綱ニシキギ目モチノキ科モチノキ属ソヨゴ Ilex pedunculosa である。「まさき」、則ち、ニシキギ目ニシキギ科ニシキギ属マサキ Euonymus japonicus はニシキギ目 Celastrales で共通するものの、目レベルでは近縁とは言えない。イスノキの葉はソヨゴと似ているが、マサキとは似ていないと私には思われる。

「實、枇杷〔(びは)〕のごとし」イスノキの実は表面が黄褐色の毛で覆われており、先端に雌蘂が二裂した突起として突き出て、枇杷の実に似ていないとは言えない

「熟すれば、則ち、蚊、出づ」出ません! 但し、イスノキにはしばしばアブラムシ類(半翅(カメムシ)目腹吻亜目アブラムシ上科 Aphidoidea)の寄生によって虫癭(ちゅうえい)が出来るから、それを誤って伝えたものか?

「塞北〔(さいほく)〕」現在の中国の北部中央域の古い呼称。中文ウィキの「塞北」で確認されたい。

「蚊母草〔(ぶんもさう)〕」現行、これはシソ目オオバコ科クワガタソウ属ムシクサ Veronica peregrina を指す。これもまた、時に虫癭(鞘翅(コウチュウ)目多食(カブトムシ)亜目 Cucujiformia 下目ゾウムシ上科ゾウムシ科ゾウムシ亜科ムシクサコバンゾウムシGymnetron miyoshii の寄生に拠る)が出来ることから「虫草」の名がついたとされる点に私は注目する。ここに出る「血蟲」(けつちゅう)というのもその幼虫を見誤ったものではないか?

「江東」長江下流域南岸域。

「蚊母鳥〔(ぶんもてう)〕」「水禽〔(すいきん〕の部の部を見よ」この名は昆虫類を捕食するヨタカ目ヨタカ科ヨーロッパヨタカ亜科ヨタカ属 Caprimulgus の総称として生きている。この電子化注が鳥類に及ぶのはまだまだ先なので、この際、水禽部の「蚊母鳥(ぶんもちやう)」(「ちやう」は原典のママ。歴史的仮名遣は「てう」が正しい)を電子化する。

    ★

Bunnmotyou

ぶんもちやう 吐蚊鳥

       鷆【音田】

蚊母鳥

 

ウエン モウ ニヤ◦ウ

 

本綱蚊母鳥江東多之生池澤茄蘆中大如鷄黑色其聲

如人嘔吐毎吐出蚊一二升夫蚊乃惡水中蟲羽化所生

而江東有蚊母鳥塞北有蚊母樹嶺南有母草此三物

異類而同功也

蚊母鳥【郭璞曰似烏𪇰大黃白襍文鳴如鴿聲異物志云吐蚊鳥大如青鷁大觜食魚物】時珍曰

有數説也豈各地之
異耶

△按二説所比𪇰鷁並鸕鷀之種類而與雞不甚遠者也

 此圖據三才圖會

 

 

ぶんもちやう 吐蚊鳥〔(とぶんてう)〕

       鷆〔(てん)〕【音、田。】

蚊母鳥

 

ウエン モウ ニヤ

 

「本綱」、蚊母鳥、江東に多し。之れ、池澤〔の〕茄蘆〔(かろ)の〕中に生ず。大いさ、鷄のごとく、黑色。其の聲、人の嘔吐するがごとし。毎〔(つね)〕に、蚊、一、二升ばかりを吐き出だす。夫〔(そ)〕れ、蚊は、惡水の中にある蟲、羽化して生〔ずる〕所にして、而〔(しか)〕も江東には蚊母鳥有り、塞北には蚊母樹有り、嶺南には母草〔(ばうもさう)〕有り。此の三物、異類〔にして〕而〔(しか)〕も功(わざ)を同じくすと。

蚊母鳥【郭璞〔(かくはく)〕曰く、『烏𪇰〔(うぼく)〕に似て、而も大きく、黃白〔の〕襍文〔(しふもん)ありて〕鳴けば鴿〔(いへばと)〕の聲のごとし』〔と〕。「異物志」に云はく、『吐蚊鳥〔(とぶんちやう)〕、大〔いさ〕、青鷁〔(せいげき)〕のごとく、大〔なる〕觜〔(はし)あり〕、魚物〔(ぎよぶつ)〕を食ふ。』〔と〕。】時珍、曰く、『數説有〔るも〕、豈に、各地の差〔(さんさ)〕、異〔(こと)〕なるや。』〔と〕。

△按ずるに、二説に比する所の、𪇰〔ぼく〕・鷁〔げき〕並〔びに〕鸕鷀(う)の種類にして、而も、雞〔(にはとり)〕と甚だ遠からざる者なり。此の圖、「三才圖會」に據る。

   ★

以下、簡単に「蚊母鳥」に注しておく。

・「茄蘆」不詳。取り敢えず音読みしただけ。東洋文庫訳は『あかねぐさ』とルビするが、どうも従えない。これはキク亜綱アカネ目アカネ科アカネ属アカネ Rubia argyi の別称であろうが、池や沢の近くに生えるとする本文とどうも相性が悪いように感ずるからである。識者の御教授を乞う。

・「其の聲、人、嘔吐するがごとし」先に同定したヨタカはウィキの「ヨタカ」によれば、『鳴き声は大きく単調な「キョキョキョキョ、キョキョキョキョ」。鳴き声からキュウリキザミやナマスタタキ、ナマスキザミなどの別名もある』とあるが、嘔吐の音には似ていない。

・「塞北には蚊母樹有り、嶺南には母草〔ばうもさう)〕有り。此の三物、異類〔にして〕而〔(しか)〕も功(わざ)を同じくすと」「功(わざ)を同じくす」というのは、生きた蚊を多量に吐き出し、この世に送り込んでくるという習性・性質を指している。ここに東洋文庫では注を附して、「本草綱目」(虫部・化生類・蜚蝱)に『次のようにある。「嶺南には蚊子木がある。葉は冬青(もちのき)のようで實は枇杷に似ている。熟すと蚊が出てくる。塞北には蚊母草がある。葉中に血があり、虫が化して蚊となる」また、木は木葉の中から出てくる。飛んでよく物を囓(かじ)る。塞北にもいるが、嶺南には極めて多い、ともある』。しかし既に私の電子化でも見たように、『とはあぶのことである。良安の文はこれらを混同したものであろうか』としている。確かに、ここの部分、おかしい。なお、「冬青」に「もちのき」とルビするのには従えない。

・「烏𪇰〔(うぼく)〕」東洋文庫の注に、『水鳥で』(サギ類か)『に似ていて短頭。腹と翅は紫白。背は緑色、という』ある。同定不能。中文サイト「百度百科」を見ると、これは「𪇰」と同じであって、郭璞は(東洋文庫の注はそれを不完全に引いたものである)水鳥の一種でに似ているが、頸が短く、腹と翅は紫白、背の上が緑色であり、江東では「烏𪇰」と呼ぶ、とあった。

・「襍文」「(しふもん)」「襍」は「入り混じる」の意。東洋文庫訳では『雑文(いりまじったもよう)』と裏ワザのようなルビが振られてある。

・「鴿〔(いへばと)〕」東洋文庫のルビに従った。普通に我々が「ハト」と呼んでいるハト目ハト科カワラバト属カワラバト Columba livia のこと。カワラバトとヨタカなら鳴き声は似ていないこともない

・「異物志」東洋文庫書名注に、『一巻。漢の楊孚(ようふ)撰。清の伍元薇編輯『嶺南遺書』の中に収められている。嶺南地方の珍奇な生物などについて書いたもの』とある。

・「青鷁〔(せいげき)〕」不詳。「鷁」は想像上の水鳥で、白い大形の鳥。風によく耐えて大空を飛ぶとされ、船首にその形を置いて飾りとしたことで知られるから、実在する鳥に比定すること自体が無理である。鷁の羽色の青みを帯びたものとしか言いようがない。

・「數説有〔るも〕、豈に、各地の差〔(さんさ)〕、異〔(こと〕な)るや」時珍が「本草綱目」で珍しく不満をぶつけている部分。東洋文庫訳では『数説あるが、どうして各地でこのような差異があり得ようか、と李時珍』『は言っている』となっている。

・「鸕鷀(う)」これは実在する海鳥、カツオドリ目ウ科 Phalacrocoracidae の鵜類を指す。

 では、「蚊」の注に戻る。

 

「蟭螟(せうめい)」以下にまことしやかに書いている、蚊の睫毛に巣を作り、そこで子を生むという想像上の微細な虫の名。

「麼蟲」「こまかきむし」の訓は私が東洋文庫のルビ『こまかいむし』を元に「細かい虫」の意で添えたもの。

「乳〔(う)めども〕」卵を生んでも。

「蚊、覺えず」そもそも見えないぐらいにごく小さな虫なんだから、その卵なんぞが判ろうはずがなかろうが!

「伏〔(ふく)〕して」東洋文庫訳は『抱き伏して』と訳しているが、私は親がその卵と一所に睫毛の中に「潜伏して」の意で採る。

「蚊、知らず」蚊自身にさえ判らんものが、何で、人に判るんじゃい?!

『「列子」に云はく……』以下は「湯問第五」に出る。

「離朱」東洋文庫の注によれば、伝説時代の黄帝の治世の人で『百歩離れたところからでも、ごく細い毛末を見ることができたという、目のよい人』とある。

「子羽」東洋文庫の注によれば、『春秋時代の人。目がよくきいた』とある。

𧣾愈〔(ちゆ)〕」東洋文庫の注によれば、『耳のよく聞こえた人』とある。

「師曠〔(しくわう)〕東洋文庫の注によれば、『春秋時代の晋(しん)の平公の楽師。音律に明るかった』とある。

「春秋」「晏子春秋」。は、中国春秋時代の斉において、霊公・荘公・景公の三代に仕えて宰相となった抜群の記憶力を持った合理主義者晏嬰(あんえい ?~紀元前五〇〇年)に関する言行を後人が編集した書。単に「晏子」とも呼ぶ。編者未詳。全八巻。儒教の他、墨家的思想も含まれる。以下は東洋文庫の注に『「公曰。天下有極細乎。安子對(コタエテ)曰。有。東海有ㇾ蟲。巣於※睫。再乳再飛而※不爲驚。臣嬰不ㇾ知其名。而東海漁者。命(ナヅケテ)曰焦冥」(『安子春秋』巻四外篇)』とある(「※」=「螽」-「冬」+「民」)。]

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