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2017/10/02

トゥルゲーネフ「散文詩」全篇 神西清個人訳(第一次改訳) 對話


Kaiwa

   對話

    ユングフラウも

    フィンステラールホルンも、

    未だ曾て人迹をとどめず。

 

 アルプスの絶巓、ただ峭立する斷崖のつらなり。ここ山靈の棲む所。

 山脈のうへ、空は蒼ざめた綠に澄み、物の聲もない。きびしく膚(はだへ)を刺す冷氣。閃々ときらめく雪の硬さ。その雪を突いて聳える、風にさらされ氷を着た巖の嶮しさ。

 天際はるかそそり立つ二つの巨嶽、二人の巨人――ユングフラウと、フィンステラールホルンと。

 ユングーフラウが隣人に向つて言ふ、「何か珍しい事でもなくて。もう見えるでせう。下界は何があつて?」

 瞬くまに過ぎる幾千年。さて、フィンステラールホルンが轟々と答へる、「密雲が地を蔽うてゐる。暫く待て。」

 瞬くまに過ぎる幾千年。

 「さあ、今度はどう?」と、ユングフラウ。

 「やつと見える。下界は相變らず、斑(はだ)らにせせこましい。水は靑み森は黑ずむ。ところどころに、積みあげた小石が灰色に見える。そのあたりを、まだ蟲けらどもがうようよしてゐる。それ、なんて言つたつけな、いまだに俺たちを瀆す力もない、あの二本足の手合さ。」

 「人間ですか?」

 「いん、その人間だ。」

 瞬くまに過ぎる幾千年。

 「今度はどう?」と、ユングフラウ。

 「どうやら、蟲けらどもは減つた樣子だ」と、フィンステラールホルンが咆える、「下界は大分はつきりして來た。水は退(ひ)いて、森の影も疎らだ。」

 瞬くまに過ぎる幾千年。

 「何が見えて?」と、ユングフラウ。

 「俺たちのまはりは、まづ淸々したよ」と、フィンステラールホルン、「だが、ずつと向ふの谿間にはまだ斑(ふ)が見える。何やらが其處でうごめく。」

 「で、今度は」と、瞬くまに幾千年を經て、ユングフラウが尋ねる。

 「やつとさつぱりした」と、フィンステラールホルン、「すつかり綺麗になつた。何處を見ても眞白だ。見渡す限り、俺たちの雪と氷で坦々としてゐる。……何もかも凍つてしまつた。やつと淸々した。」

 「まあ、いいこと」と、ユングフラウが呟く、「私達もたんとお喋りをしたから、そろそろ寢ませうよ、お爺さん。」

 「よからう。」

 巨嶽は睡る。綠に澄みかへる空も、地の永遠の沈默のうへに睡る。

             一八七八年二月

 

[やぶちゃん注:添え辞は、ブログでの不具合を考えて改行してある。これも後の新改訳がある。こちら。そちらの注も参照されたい。]

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