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2017/10/25

トゥルゲーネフ「散文詩」全篇 神西清個人訳(第一次改訳) 作家と批評家


Sakkahihyouka

   作家と批評家

 

 作家が仕事机に向つてゐると、不意に批評家がはいつて來た。

 「おやおや」と彼が叫ぶ。「まだ君は、性懲りもなく書いてるね。あれほど僕が遣つつけたのに。堂々たる大論文をはじめ、寸評、寄書にも筆を酸くて、君にはてんで才能のないこと、いや、曾てまだ才能のきれ端さへあつた例しのないこと、昭々として恰も二二が四なるが如しと斷じて置いたのに。そのうえ君は母國の言葉は忘れるし、これ迄も無知を以て鳴る君が、今では全く摩り切れて、襤褸布も同じことだ。」

 作家は靜かに批評家に答へた。

 「なるほど君は」と彼が言ふ、「論文雜文を問はず、さんざ僕を扱き下して呉れたね。だが君は、狐と猫の話を知つてるかね。狐は惡智慧があり餘る癖に、たうとうに係蹄(わな)に陷(はま)つた。猫は樹に登るより外に能は無かつたが、流石の犬も手が出せなかつた。僕も同じさ。君の論文に報いるため、僕はある本に君の全身像を描いて置いた。賢明な君の頭には、道化の帽子を被せて置いたよ。まあそれでも被つて、せいぜい後世に威張りたまへ。」

 「後世にだつて?」と、批評家は笑ひ出した、「君の書いたものが、後生に殘るとでも言ふのかね。四十年、長くて五十年もすれば、誰一人見向きもしまい。」

 「僕もさう思ふ」と、作家は答へた、「それで結構さ。ホメロスはテルシーテスの名を不朽に留めてやつたが、君たちなんかは半世紀でも勿體ないくらゐだ。君なんかは、道化としてさへ、不朽に留める値打はないのさ。ぢや左樣なら、なにがし君。それとも君は、本名で呼んで貰ひたいかね。まあ止して置かう。僕が呼ぶまでもなく、皆がたんと呼んで呉れようよ。」

             一八七八年六月

 

[やぶちゃん注:訳者註。

   *

テルシテス 『イーリアス』の一人物(第二歌二一二行以下)眇眼のうへに跛者で、トロイ遠征の希臘軍中隨一の卑劣漢である。のちアキレスの鐡腕の一擊に仆されたとも傳へられる。

   *

確証はないが、前の蟲」と一緒に「散文詩(セリニア)」の初版刊行前に除去されていること、「長蟲」のクレジットが『一八七八年五月』と直近であることから、この批評家はまさに「長蟲」に臭わされたロシアの右派文芸評論家であったボレスラフ・マルケビッチを念頭に置いているものかとも思われる。

「寄書」投稿記事であろう。

「狐と猫の話」ソップ童話集の「猫と狐であろう(リンク先はウィキソース)。但し、そこでは狐は罠にかかるのではなく、猟師の猟犬に咬み殺されることになっている。]

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