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2017/10/02

トゥルゲーネフ「散文詩」全篇 神西清個人訳(第一次改訳) 好敵手


Syousou

   好敵手

 

 私に好敵手があつた。仕事の上の敵ではない。また勤めや戀の敵でもない。にも拘らず私達の竟見は、決して一致した例しがなかつた。顏を合せるたびに、涯しのない議論がもち上つた。

 議論の對象は、あらゆる事にわたつた。藝術、宗教、科學、現世、そして來世。……とりわけ來世の生活に就いて。

 鋒は信仰の深い情熱漢だつた。或るとき彼が言つた、「君は僕を莫迦にして笑ふね。ぢや、若し㒒が君より先に死んだら、僕はあの世から君を訪問しよう。……その時君が笑へるかどうか、まあ見てゐ給へ。」

 本當に彼は、まだ若い身空を私に先立つて死んだ。數年は事もなく流れて、私は彼の約束も脅し文句も、忘れてしまつた。

 或る晩、私は寢床に橫になつたが、妙に眼が冴えて、寐つけなかつた。

 部屋は朧ろな光に沈んでゐる。私は灰色の薄闇に眸を凝らしてゐた。

 そのとき不意に、窓と窓の間の壁を背にして、例の敵手の立つ姿が見えた。靜かに物悲しげに、首を上下に振つてゐる。

 私は驚愕もなく、恐怖もなかつた。半ば身を起して片肘をつき、思ひがけぬ亡靈にじつと眼をつけた。

 彼は相も變らず、頷きつづける。

 「どうした」と。つひに私は口を切つた、「元氣かい、それとも悲觀してゐるのかい。その合圖は何だね。何かの戒めか、それとも叱責かね。さも無ければ、君が間違つてゐたと言ふ印しかね。二人とも間違つてゐたのかい。今はどんな身分だね。地獄の責苦か、それとも天國で幸福にやつてゐるのかい。一言でもいい、何とか言つて呉れ。」

 けれど私の好敵手は、一言の返事もなしに、相變らず首を上下に、悲しげに大人しく振つてゐる。

 私は笑ひだした。すると彼は消え失せた。

              一八七八年二月

 

[やぶちゃん注:この挿絵は中山省三郎譯「散文詩」のものであるが、理由は不明ながら、一九五八年岩波文庫刊の神西清・池田健太郎訳「散文詩」には挿絵はない。]

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