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2017/10/10

トゥルゲーネフ「散文詩」全篇 神西清個人訳(第一次改訳) 老人


Roujinn

   老人

 

 つひに重苦しい暗い日は來た。

 自らの患ひ、親しい人々の病苦、老年の闇と寒さ。……お前の慈しんだもの皆、お前が吾を忘れて心を捧げたもの皆は、いま千々に摧(くだ)け落ちる。道は下る。

 何を爲よう。歎かうか、哭かうか。いや、それとても所詮、お前をも何人をも慰める力はあるまい。

 日に日に枯れ跼(こご)んでゆく木梢(こぬれ)に、葉は愈〻小さく、愈〻疎らだ。しかし、その翠のみは渝らない。

 ああ、お前も亦凋め。元の己れに、自らの思出に凋み入れ。そのとき、歸一の魂の奥深く、お前のありし日の生、お前のみが達し得る生は、今なほみづみづしい春の日の翠と、愛と力を湛へて、馥郁と薰じ耀かう。

 が、心せよ、哀れな老人。ゆめ行手を窺ひみるなかれ。

             一八七八年六月

 

[やぶちゃん注:太字「自らの」は底本では傍点「ヽ」。なお、最後から二つ目の段落の末にある「薰じ」の「薰」は底本では「董」で意味が通らない。特異的に誤植と断じて、かく、変えた。

「爲よう」「しよう」。

「哭かうか」「なかうか」。

「渝らない」「かはらない」。「變らない」に同じい。]

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