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2017/10/02

イワン・セルゲーエヴィチ・ツルゲーネフ作「散文詩」神西清訳 われ行きぬ、峰のあいだを /神西清改訳分~了



Watasihatakaiyama
 

  われ行きぬ、峰のあいだを

 

われ行きぬ、峰のあいだを

われ行きぬ、峰のあいだを

谷のみち、清きながれを。……

まなかいに見ゆるものみな

ささやくはただ一つこと、――

人ありてこの身を恋うと!

そのほかはなべて忘れぬ!

 

青ぞらは、かがやきみちて、

葉のそよぎ、小鳥のうたや……

ゆきかいのしげきわた雲

ながれては行方(ゆくえ)しらじら。……

あたりみな幸(さち)をいぶけど

この身はた、何うらやまん。

 

わたつみの波もさながら

身は揺るる波のひろびろ!

哀楽をとおくさかれる

静もりに胸もはろばろ。……

いつ知らずわれ忘られて

おもえらく、この世の王(きみ)と!

 

などはやく命たえせぬ?

などふたり生(せい)をつなげる?

年かわり……星はうつれど

おろかしきかの良き日々に

いやまさる幸(さち)もひかりも

消(け)ぬ雲と絶えてあるなく。

                 
.1878

 

[やぶちゃん注:中山省三郎譯「散文詩」では「私は高い山々の間を行くのであつた」。本詩は文語定型訳であるからして、正字・歴史的仮名遣表記が相応しい。以下に恣意的にそうしたものを掲げておく。

   *

 

  われ行きぬ、峰のあひだを

 

われ行きぬ、峰のあひだを

われ行きぬ、峰のあひだを

谷のみち、淸きながれを。……

まなかひに見ゆるものみな

ささやくはただ一つこと、――

人ありてこの身を戀ふと!

そのほかはなべて忘れぬ!

 

靑ぞらは、かがやきみちて、

葉のそよぎ、小鳥のうたや……

ゆきかひのしげきわた雲

ながれては行方(ゆくゑ)しらじら。……

あたりみな幸(さち)をいぶけど

この身はた、何うらやまん。

 

わたつみの波もさながら

身は搖るる波のひろびろ!

哀樂をとほくさかれる

靜もりに胸もはろばろ。……

いつ知らずわれ忘られて

おもへらく、この世の王(きみ)と!

 

などはやく命たえせぬ?

などふたり生(せい)をつなげる?

年かはり……星はうつれど

おろかしきかの良き日々に

いやまさる幸(さち)もひかりも

消(け)ぬ雲と絶えてあるなく。

 

   *

「まなかい」「目交い」「眼間(まなかい)」で、「目の先・目の前」の意。

「いぶけど」「息吹(いぶ)く」「気吹(いぶ)く」で原義は「息を吹く・呼吸する」の意。ここは「思いっきり味わう・謳歌する」の謂いであろう。]

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