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2017/11/01

トゥルゲニエフ作 上田敏譯 「散文詩」(抄) 山靈

 

       山 靈

 

 アルプス山の絶頂………峩々たる峭壁のつらね………高山のたゞなか。

 山上に澄みて音なき淺綠の空あり。 霜烈し、むごし。 雪かたし、光あり。 雪をさきて、氷の峯、風の頂、怒るが如く聳ゆ。

 大山ふたつ、地平のこなたにしてふたりの巨人なり。

 ユングフラウの峯、フンステラアルホルン山。

 ユングフラウは隣山に問ふ。 もの珍らしきことありや。 われよりもひろく見給ふ君、雲の下に何かある。

 この時、數千載は轉じぬ、たゞ一分なり。 フンステラアルホルンとよもし答ふ。 地の上に雲霧………暫し待ち給へ。

 數千載再びすぎぬ、たゞ一分のおもひ。

 さて今はとユングフラウ迫る。

 今ぞすべて明なる。 天が下なべて同じ。 水靑く、森黑く、石だゝみ、灰色、そのうちに虫あり。 ここかしこ惑ひありく。 知り給ふらむ、君をもわれをもえ汚さゞる二足のものらよ。

 人間か。

 然り、人なり。

 數千載また轉ず、これ一分。

 さて今こそとユングフラウは問ひぬ。

 雷音にしてフンステラアルホルンは答ふ、今虫の數少し。 天が下すこし明るし。 水はひきて、森も疎らと。 數千載またゆきぬ、たゞ一分。

 何をか見給ふとまたユングフラウのたづねなり。

 われらの近くは澄みまさりゆけど、谷間はるかに斑點殘りて、なにものか動ける如しと答ふ。

 數千載また轉ず、卽ち一分の後、ユングフラウは問ふ、さて今は。

 今こそすべてよけれ。 なべて淸し、白し……いづこも、何處もわれらの雪、はてなき氷雪ぞ、なべては氷りぬ。 今こそよけれ、靜なれ。

 さらばよしとユングフラウうなづく。されどわが友、雜談に時はうつりぬ。 眠るべき時ぞ。

 まことや、その時なり。

 かくて大山は眠りぬ。すみたる蒼空も永遠寂寞の境をかけて眠りぬ。

 

[やぶちゃん注:前と同じく私の諸注は神西清訳 対話を参照されたい。なお、「虫」は原典のママ。岩波版は『蟲』に変えられてある。]

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