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2018/02/21

進化論講話 丘淺次郎 第十一章 分類學上の事實(3) 二 幾段にも分類を要すること

 

     二 幾段にも分類を要すること

 

 分類の單位なる種の定義を確に定めることは、なかなか容易でなく、場合によつては到底出來ぬこともあるが、實際分類するに當つては、兎に角、種といふものを定めて之を出發點とし、更に屬に組み、科に合せて、系統に造つて居る。而してその系統といふものを見れば、孰れも大群の内に小群を設け、小群を更に小な群に分ち、每段斯くの如くにして數段の階級を造り、最下級の群の中に各種類を編入してあるが、追々研究が進み、分類が細かになつた結果、門・綱・目・科・屬・種等の階級だけでは到底間に合はなくなり、今日の所では門の次に亞門を設け、綱の次に亞綱を置き、亞目・亞科・亞屬・亞種等の階段までも用ゐ、尚足らぬ故、更に區とか、部とか、組とか、隊とか名づける新しい階段までを造つて、十數段にも分類してある。似たものは相近づけ、異なつたものは相遠ざけるといふ主義に從うて、澤山の種類を分類すれば、その結果として組の中にまた組を設け、終に斯く多數の階段を造らなければならぬに至ることは、抑々如何なる理由によるものかと考へて見るに、之は生物種屬不變の説と敢へて雨立の出來ぬといふ譯ではないが、生物各種を初めから全く互に無關係のものとすれば、たゞ何の意味もないことになる。然るに、生物各種は皆共同の先祖から樹枝狀に分かれて進化し降つたものと見倣せば、分類の結果の斯くなるのは必然のことで、理窟から考へた結論と、實物を調査した結果とが、全然一致したことに當る故、理窟の正しい證據ともなり、また之によつて分類といふことに尚一層深い意味のあることが解る。

[やぶちゃん注:現行の旧来の階級分類でも「」((界の下層階でウイルスのみに使用。英語はgroup/一部の細菌で門の下層階に使用。英語はsection))、及び綱の下層で「」、その下で「」(これは魚類分類ではよく見かける)、科の下で「」(植物では「」)、植物のみで「連」の下に「」を、そのさらに下に同じく植物のみで「」や「」をよく見かける。また、他に「」(超科は貝類分類ではしばしば見かける)「」(後掲するカンガルを見よ)・「」や「」(上(下)目や上科は一般的)の他、魚類の「上目」と「目」の間の「」(近年(と言ってもこの魚類の「系」自体の初提唱は一九六六年)の魚類分類で、棘鰭上目 Acanthopterygii とスズキ目 Perciformesの間に、スズキ系 Percomorpha を見かけることが多くなった。調べてみると、棘鰭上目は現行ではボラ系 Mugilomorpha・トウゴロウイワシ系 Atherinomorpha と、このスズキ系の三群に分けられているようである。まあ、確かに魚類の大部分が十把一絡げにスズキ目だったのには正直、疑問はあった)なども見る。また以前に述べた通り、今はまだ一般人は聞き慣れない「スーパーグループ(supergroup」という階級単位様群集団が、ドメインの下層階や、それ以下の階級に顔を出し始めている。]

 元來天然に實際存在してあるものは、生物の各個體ばかりで、種とか屬とかいふものは素より天然にはない。個體の存在して居ることは爭はれぬ事實であるが、種とか屬とかいふのは、たゞ我々が若干の相似た個體を集め、その共通の特徴を抽象して腦髓の内に造つた觀念に過ぎぬ。屬・種以上の階段も無論同樣である。而して我々が初めて造る觀念は、分類の階段中孰れの段かと考へるに、最上でもなく、最下でもなく、中段の處で、それより知識の進むに隨ひ、上の段も下の段も追々造るやうになつた。恰も望遠鏡が良くなるに隨ひ、益々大きな事も知れ、顯微鏡の改良が出來るに隨つて、益々小い事も知れるに至るのと同樣で、何事も先づ最初は手頃な邊から始まるものである。本州の熊は黑いが、北海道の熊は赤いなどといふときの熊といふ考は、決して今日の所謂一種ではなく、寧ろ屬か科位な所であるが、初めは皆この位な考で、多數の動植物を知つてもたゞ之を禽・獸・蟲・魚位に區別し、一列に竝べて置くに過ぎなかつた。然るに研究が進むに隨つて、一方には尚之を細に分つて、屬・種・變種等に區別し、一方には之を合して目・綱等に組立て、組の中にまた組を設ける必要が生じて、リンネーの「博物綱目」には綱・目・屬・種の四段分類を用ゐてあるが、尚その後に門を設け、科を置きなどして、遂に今日の如き極めて複雜な分類法が出來るに至つたのである。分類は斯くの如く全く人間のなす業で、四段に分けようとも十六段に分けようとも、天然には素より何の變りなく、學者の議論が如何に定まらうとも、柳は綠、花は紅であることは元のまゝ故、一々の分類上の細かい説を敢へて取るに及ばぬが、解剖學上・發生學上の事實を基として似たものを相近づけ、異なつたものを相遠ざけるといふ主義で行ふ今日の分類法に於て、斯く幾段にも組の中にまた組を造らねばならぬことは、卽ち生物各個體の間の類似の度が斯かる有樣であることを示すもの故、之は生物種屬の起源を尋ねるに當つては、特に注意して考ふべき點である。

[やぶちゃん注:「本州の熊は黑いが、北海道の熊は赤いなどといふときの熊といふ考は、決して今日の所謂一種ではなく、寧ろ屬か科位な所である」正直、この譬え話は適切とは思われない。何故なら、本邦の「本州」には動物界 Animalia脊索動物門 Chordata脊椎動物亜門 Vertebrata哺乳綱 Mammalia食肉目 Carnivoraクマ科 Ursidaeクマ属 Ursusツキノワグマ Ursus thibetanus しか棲息しておらず、北海道にはツキノワグマは棲息せず、クマ属 Ursusヒグマ Ursus arctos亜種エゾヒグマ Ursus arctos yesoensis しかいないからで、この「本州の熊は黑いが、北海道の熊は赤い」という命題は地名を出すことによって、存在する熊の種自体が完全に限定され、相互に誤認しようがないわけで、しかも黄褐色系個体がよく見られるのは確かに後者であるのだから、自ずと、結果的には全く異なる生物種を示していることに他ならない(誤認や誤解やいい加減な言説(ディスクール)たりえない)からである。寧ろ、同一種を違うとする誤った見解例(例えば、「本土狐と四国・九州の狐では警戒心が違う」とか「本州の狸と佐渡島の狸では毛並が違う」(私が勝手に作った作文である))を示すべきであると私は思う。

『リンネーの「博物綱目」には綱・目・屬・種の四段分類を用ゐてある』既注であるが、大分前(「第二章 進化論の歷史(1) 序・一 リンネー(生物種屬不變の説)」)なので、再掲しておくと、「分類学の父」と呼ばれるスウェーデンの博物学者カール・フォン・リンネ(Carl von Linné:ラテン語名:カロルス・リンナエウス Carolus Linnaeus 一七〇七年~一七七八年)が一七三五年、二十八歳の時に、動物・植物・鉱物の三界を扱って、分類を試みた「自然の体系」(Systema Naturae 第一版。ここで言っている「博物綱目」)を出版、「動物命名法」の基準は、その二十三年後に出た第十版(一七五八年刊)に発表され、他に一七三七年の「植物の属」(Genera Plantarum)、一七五三年の「植物の種」(Species Plantarum:この第一版が「植物命名法」の基準となった)といった著作の長い期間に亙る刊行と、その流布の結果として近代分類学の一大改革は行われた。]

 生物は總べて共同の先祖より漸々進化して分かれ降つたものとすれば、その系圖は一大樹木の形をなすべきことは、既に度々言つた通りであるが、假に一本の大木を取つて、その無數にある末梢を各起源に潮つて分類し、同じ處から分かれたものを各々一組に合せ、同じ枝から生じたものを各々一團として、全體を分類し盡したと想像したならば、如何なる有樣の分類が出來るかと考へるに、幹が分れて太い枝となる處もあり、また細い枝が分かれて梢となる處もあり、股に分かれる處は幹の基から梢の末に至るまでの間に殆ど何處にもあるといふわけ故、最も末の股で分かれたものを束ねて各々小い一組とすれば、次の股で分かれたものは更に合せて梢々大きな組とせなければならず、全體を分類し終るまでには、實に多數の階段が出來るに相違ない。これと同樣の理窟で、生物各種が皆進化によつて生じたものとすれば、これを分類するに當つて夥多の階段の出來るのは必然のことである。今日實際の分類法に於て門・亞門・綱・亞綱等の多數の階段を用ゐ、常に組の中にまた組を設けて居るのは、進化論の僅期する所と全然一致したことといはなければならぬ。

 

Kamonohasi

[鴨の嘴とその卵]

[やぶちゃん注:学術文庫版の絵を用いた。「鴨の嘴」とは無論、動物界 Animalia 脊索動物門 Chordata 脊椎動物亜門 Vertebrata 哺乳綱 Mammalia 原獣亜綱 Prototheria 単孔目 Monotremata カモノハシ科 Ornithorhynchidae カモノハシ属 Ornithorhynchus カモノハシ Ornithorhynchus anatinus。現生種は一科一属一種。ウィキの「カモノハシによれば(アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部を変更・省略した)、『オーストラリア(クイーンズランド州東部、ニューサウスウェールズ州東部、ビクトリア州、タスマニア州)』のみに分布し、『分布域内では、熱帯雨林、亜熱帯雨林、ユーカリなどの硬葉樹林、高山地帯などの淡水の河川や湖沼などに生息している』。『カモノハシがヨーロッパ人により最初に発見されたのは一七九八年のことであり、カモノハシの毛皮やスケッチが第二代ニューサウスウェールズ州総督であったジョン・ハンターによりグレートブリテン王国へと送られた。イギリスの科学者達は、当初はこの標本は模造品であると考えていた。一七九九年に』“Naturalist's Miscellany”へ『この動物について最初に記載をおこなったジョージ・ショーは、「それが本物であることを疑わずにはいられない」と主張し、ロバート・ノックスはアジア人の剥製師による物と信じていたという。誰かがビーバーのような動物の体にカモのくちばしを縫い付けた物であると考えられ、ショーは縫い目がないかどうかを確認するために、毛皮に切り込みを入れた』という。『英語の一般名である“platypus”はギリシア語で「平たい」を意味する』語と、『「足」を意味する』語と『からなり、「扁平な足」を意味する。ショーは記述に際して、リンネの分類の属名としてplatypusを当てたが、この語はすぐにキクイムシ科の昆虫のPlatypus属につけられていることが分かったため、一八〇〇年にヨハン・ブルーメンバハにより、ジョゼフ・バンクスから送られた標本に基づき Ornithorhynchus paradoxus として記述され、後に先取権の原則により Ornithorhynchus anatinus と学名がつけられた。 Ornithorhynchus anatinus という学名はギリシア語で「鳥の口吻」を意味する』種名と、『ラテン語で「カモのような」を意味する』種小名『anatinusからなる』。『全長はオスで最大六十三センチメートル、メスで最大五十五センチメートル、尾長は八・五~十五センチメートル、体重はオスで一~三キログラム、メスで〇・七~一・八キログラム。全身には一立法センチメートル当たり六百本以上の柔らかい体毛が生えている。体毛の色は背面は褐色から茶褐色で、腹面は乳白色である。外側の毛は水を弾き、内側の毛は保温性に優れている』。『名前の通りカモのように幅が広く、ゴムのような弾性のあるくちばしを持ち、外見上の大きな特徴の一つとなっている。このくちばしには鋭敏な神経が通っていて、獲物の生体電流を感知することができる。一方、カモノハシには歯がなく、長らく謎とされてきたが、三重大学などの共同研究チームの調査で、くちばしの向きや電気感覚を脳に伝える三叉神経が発達したために』、『歯の生える空間が奪われ』、『歯の消滅につながったと考えられている』。『四肢は短く、水掻きが発達している。オスの後脚には蹴爪があり、この蹴爪からは毒が分泌されている。メスも若い時には後脚に蹴爪があるが、成長の過程で消失する』。『哺乳類ではあるが乳首は持たず、メスが育児で授乳の際は、腹部にある乳腺から乳が分泌される』。『カモノハシはオスもメスも蹴爪を持って生まれるが、オスのみが毒の混合物を分泌する蹴爪を持っている。この毒は主にディフェンシンのようなタンパク質類(DPL)で構成されており、その中の三種はカモノハシ特有のものである』。『このディフェンシンのようなタンパク質はカモノハシの免疫機構により』、『生産されている。イヌのような小動物を殺すのには十分な強さの毒で、ヒトに対しては致死的ではないものの、被害者が無力になるほどの強い痛みがある。その痛みは大量のモルヒネを投与しても鎮静できないほどであるという。毒による浮腫(むくみ)は傷の周囲から急速に広がり、四肢まで徐々に広がっていく。事例研究から得られた情報によると、痛みは持続的な痛みに対して高い感受性を持つ感覚過敏症となり、数日から時には数ヶ月も続くことが指摘されている。だが、ヒトがカモノハシの毒で死亡した例は報告されていない。毒はオスの足にある胞状腺で生産されており、この腎臓の形をした胞状腺は後肢の踵骨の蹴爪へ、管によってつながっている。メスのカモノハシは、ハリモグラ類と同じで、未発達の蹴爪の芽があるが、これは発達せずに一歳になる前に脱落し、足の腺は機能を欠いている』。『毒は哺乳類以外の種によって生産される毒とは異なった機能を持つと考えられている。毒の効果は生命に危険を及ぼすほどではないが、それでも外敵を弱めるには十分な強さである。オスのみが毒を生産し、繁殖期の間に生産量が増すため、この期間に優位性を主張するための攻撃的な武器として使われると考えられている』。『群れは形成せず単独で生活し、夕方や早朝に活動が最も活発になる薄明薄暮性である』。『水中では目を閉じて泳ぐが、くちばしで生体電流を感知し獲物を探す。動かなければ最大で十一分ほど』、『水中に潜っていることができるが、通常は一~二分程度である。食性は肉食性で昆虫類、甲殻類、貝類、ミミズ、魚類、両生類等を食べる』。『陸上を移動する場合、前足が地面に着く時に水掻きのある指を後ろに折りたたむようにして歩く』。『水辺に穴を掘り巣にする。巣穴の入り口は水中や土手にあり、さらに水辺の植物等に隠れ、外からはわからないようになっている』。『繁殖期は緯度によるが八月から十月である。繁殖形態は哺乳類では非常に珍しい卵生で、巣穴の中で一回に一~三個の卵を産む。卵の大きさは約十七ミリメートルで、卵殻は弾性があり』、『かつ』、『粘り気のある物質で覆われている。卵はメスが抱卵し、約十~十二日で孵化する』。『子供はくちばしの先端に卵嘴を持ち、卵嘴を使用して卵殻を割って出てくる。成体の四分の三程度の大きさになるまでに離乳し、約四ヶ月で独立する』。『メスは約二年で成熟する。寿命は最大で二十一年』とある。]

 

 また知識の進むに隨つて、分類に用ゐる階段の追々增加することも進化論の豫期する所である。前の樹木の枝を分類する譬によるに、昨晩薄暗い時に分類して置いたものを今朝明るい處で見れば、或は一旦二本に分かれ、更に各々二本に分かれて居る枝を、同時に四本に分かれたものと見誤り、單に一束として、階段を一つ飛ばしてあつたことを發見することもあれば、或は細い枝が一本橫へ出て居るのに氣附かずして、そのため階段を一つ脱(ぬ)かしたことを見出すこともあつて、細かく調べる程、階段の數は增すばかりであるが、實際の分類法が次第に變遷して複雜になり來つた模樣は全く之と同樣である。一二の例を擧げれば、從來脊椎動物門を分つて哺乳類・鳥類・爬蟲類・兩棲類・魚類と平等に五綱にしてあつたが、發生を調べて見ると、蛙・蠑螈[やぶちゃん注:「ゐもり(いもり)」。]等を含む兩棲類は甚だ魚類に似て、蜥蜴[やぶちゃん注:「とかげ」。]・蛇・龜の類を含む爬蟲類は甚だ鳥類に似て居ることが解つたので、脊椎動物を直に以上の五綱に分けるのは穩當でないとの考から、今日では先づ之を魚形類・蜥蜴形類・哺乳類の三つに分け、魚形類を更に魚類と兩棲類とに分ち、蜥蜴形類を更に爬蟲類と鳥類とに分つことになつて、分類の階段が一つ增した。また哺乳類も從來は單に猿類・食肉類云々と云ふ十二三の目に分けて、孰れも悉く胎生のものとしてあつたが、今より三十五年程前にその中の或る種類は卵を産むといふことが確に發見せられた。卵を産む獸といふのはオーストラリヤタスマニヤ邊に産する「鴨(かも)の嘴(はし)」といふ猫位の動物で水邊に巢を造り、恰も河獺[やぶちゃん注:「かはうそ(かわうそ)」。]の如き生活を營んで居るが、鷄卵よりも稍々小い卵を産む。また同じく胎生するものの中でも、詳細に調べて見ると、發育の模樣に大きな差があり、人間の胎兒は九箇月間も母の胎内に留まつて發生するが、殆ど人間と同じ大きさ位の「カンガルー」の胎兒は、僅一箇月にもならぬときに生み出され、殘後の八箇月分は母の腹の前面にある特別の袋の内で發育する。この獸の生れたばかりの幼兒は實に小なもので、我々の親指の一節程よりない。之が袋の中で、乳首に吸ひ著き、親の乳房と子の口とが癒着して一寸引いても離れぬやうになる故、初めて之を發見した人は誤つてこの獸は芽生すると言ひ出した。これらの獸類はたゞ子の生み方ばかりでなく、他の點に於ても著しく異なつた處が多いから、斯かるものを皆平等に一列に竝べて分類するのは、理に背いたことであるといふ考から、今日では哺乳類を別つて原獸類・後獸類・眞獸類の三部とし、第一部には「鴨の嘴」を入れ、第二部には「カンガルー」の類を入れ、第三部には總べて他の類を入れて、更に之を從來の如く十何目かに分けるやうになつたので、こゝにも一段分類の階段が增した。かやうな例は各門・各綱の中に幾らでもあるが、分類の階段の增して行く有樣は皆この通りで、先に樹木の枝に譬へたことと理窟は少しも違はぬ。

[やぶちゃん注:『今日では哺乳類を別つて原獸類・後獸類・眞獸類の三部とし、第一部には「鴨の嘴」を入れ、第二部には「カンガルー」の類を入れ、第三部には總べて他の類を入れて、更に之を從來の如く十何目かに分けるやうになつたので、こゝにも一段分類の階段が增した』現行ではこれがまた修正されている。現在の動物界 Animalia 脊索動物門 Chordata 脊椎動物亜門 Vertebrata 四肢動物上綱 Tetrapoda 哺乳綱 Mammalia原獣亜綱原獣亜綱 Prototheria 及び後獣下綱 Metatheria真獣下綱 Eutheriaの階級の異なる三群に分かれている。これは当初作った異獣亜綱 Allotheria が絶滅種の亜綱に変更され、現生種の原獣亜綱原獣亜綱以外の哺乳類を獣亜綱 Theria に移して後獣下綱及び真獣下綱に配したからである。既に示した通り、カモノハシは原獣亜綱単孔目 Monotremata へ(カモノハシ目は現生種ではハリモグラ科 Tachyglossidaeハリモグラ属 Tachyglossusの四種と合わせて五種しか現存しない)、一般に呼ばれるところのカンガルーは後獣下綱オーストラリア有袋大目 Australidelphia 双前歯目 Diprotodontia カンガルー形亜目 Macropodiformes カンガルー上科 Macropodoidea カンガルー科 Macropodidae に配されている。]

 斯くの如く、種の境の判然せぬものが澤山にあることも、分類するには數多の階段を設けて、組の中にまた組を造らねばならぬことも、また研究の進むに隨つて分類の階段の增すことも、總べて進化論から見れば必然のことであるが、實際に於ても現にその通りになつて居る所から考へると、我々は是非とも生物進化の論を正しいと認め、これらの分類上の事實を生物進化の證據の一と見倣すより外は致し方がない。自分で何か或る一目・一科の標本を集め、實物に就いて解剖・發生等を調べ、之を基としてその分類を試みれば、誰も生物進化の形跡を認めざるを得ぬもので、今日斯かる研究に從事した人の報告を讀んで見ると、必ず、解剖上・發生上の事實から推してその進化し來つた系圖を論じてある。つまり、生物種屬の不變であるといふ考は、何事も細かく研究せぬ間は不都合も感ぜぬが、聊でも詳細な事實を知ることとなれば、到底之を改めざるを得ぬものである。

 

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