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2018/02/21

進化論講話 丘淺次郎 第十一章 分類學上の事實(4) 三 所屬不明の動植物

 

     三 所屬不明の動植物

 

 現今生存して居る動植物の種類は實に何十萬といふ程であるが、この中から最も相似たものを集めて、各一屬に組み合せ、屬を集めて科を作り、科を集めて目を造ろうと試みると、實際孰れの方へ編入して宜しいやら判斷の出來ぬやうな屬・科・目等が幾らもあることを發見する。それ故、全動植物を二大分類系統の中に奇麗に組み込んでしまはうとすれば、その際所屬の解らぬ屬・科等が幾つか剩つて[やぶちゃん注:「あまつて(あまって)」。余って。]大いに困ることが屢々ある。かやうなものは據なく[やぶちゃん注:「よんどころなく」。]孰れかの綱・目に附屬として添へて置く位より致し方もないから、今日の動物學書・植物學書を開いて見ると、その類の部には必ず若干の所屬不明の動植物の例が擧げてあるが、その各々を何類の附屬として取扱うかは、全くその著者の鑑定のみによることで、その見る所が各々違ふ、結果同一の動植物が甲の書物と乙の書物とでは、分類上、隨分相隔たつた處に編入してあることが往々ある。現今の多數の動植物學者の著書を比べて見るに、分類の大體は既に略々一定した有樣で、脊椎動物・節足動物・軟體動物といふやうな明な門或はその中の明な各綱等に就いては、最早何の議論もないやうであるが、こゝに述べた如きものになると、その分類上の位置に關する學者の考がまだ樣々で、少しも確なことは知れぬ。

 

Kagimusi

[かぎむし]

 

Hoya

Hoyakoudansyagakujyu

[海鞘]

[やぶちゃん注:前者は底本の国立国会図書館デジタルコレクションの画像を補正して用いた。後者はその国立国会図書館デジタルコレクションの画像と講談社学術文庫版の両方を並べた。底本が写真で、後者が絵で、異なるからでもあるが、実は私はホヤを激しく偏愛しているからというのが正直な理由である。例外的に「カギムシ」も「ホヤ」も種明かしは段落後の注に回そう。その方が面白いからね。]

 

 かやうな動植物の例は今日相當に多く知れてあるが、その大部分は人間の日常の生活には何の關係もない類故、普通の人は氣が附かぬ。一二の例を擧げて見ると、我が國の海岸の泥の中などに澤山に産する「いむし」と稱するものなどもやはりこの仲間で、何の類に入れて宜しいか善くは解らぬ。この蟲は、鯛を釣るための餌として漁夫の常に用ゐるものであるが、恰も甘薯[やぶちゃん注:サツマイモ。]のやうな形で、表面にも内部にも少しも節はないから、通常、蚯蚓・「ごかい」などの類に附屬させてはあるが、この類の特徴ともいふベき點は全く訣けて居る。また西印度・アフリカニュージーランドなどに産する「かぎむし」といふものは、恰も蜈蚣(むかで)と「ごかい」との間の如き蟲で、一對の觸角を有し、陸上に住して空氣を呼吸する點は、蜈蚣と少しも違はぬが、足に節のないこと、その他内部の構造などを考へると、寧ろ「ごかい」の方に近いかと思はれる位で、いづれに組み入れて宜しいか全く曖昧である。またこゝに圖を擧げた海鞘(ほや)の如きも、單に發生の途中に一度脊椎動物らしい形態を具へた時期があるといふだけで、その生長し終つた後の姿は少しも脊椎動物に似た處はない。それ故その分類上の位置に就いては種々の議論があつて、なかなか確定したものと見倣す譯には行かぬ。

[やぶちゃん注:ここと次の段落は私にとっては恍惚となるほど嬉しい箇所である。私の偏愛する海産生物が立て続けに登場するからである。

「いむし」現行の正式和名は「ユムシ」で、ここは諸叙述から、動物界 Animalia 冠輪動物上門 Lophotrochozoa ユムシ動物門 Echiura のユムシ目 Xenopneusta ユムシ科 Urechidae ユムシ属 Urechis ユムシUrechis unicinctus に同定してよい。漢字では「螠虫」で「ゆむし」と表記する。ここでは主に小学館の「日本大百科全書」から引こう。環形動物門ユムシ綱Echiuroideaに属する海産動物の総称(ユムシ類は世界で約百五十種ほど)、又はその中の上記した一種を指す。ユムシ類は総てが海産で、泥の中に掘ったU字形の穴や岩の隙間などに棲む。体は円筒状又は卵状を成し、吻部と胴部とに分かれる。体の表面には多くの小さな疣(いぼ)状の突起があるが、環節や疣足・触手も持たない。口のやや後方の腹側に、一対の腹剛毛があり、さらに肛門の周りに一つか二つの環列を成した尾剛毛を有する。頭部の先端には箆(へら)状の吻があるが、これは体内に引き込むことは出来ない。吻が長いものではキタユムシ目Echiuroineaキタユムシ科Echiuridae イケダ属 Ikeda サナダユムシIkeda taenioidesのように、体長四十センチメートルに対して、吻の長さが一・五メートルにも及ぶものもいる。多くの種では吻の表面に繊毛が密生しており、海水や微小な餌が繊毛溝を伝わって口へ運ばれるようになっている。消化管は長く、螺旋状に巻いており、体の末端にある肛門に続く。排出器は一~四対であるが、例外的に上記のサナダユムシには二百~四百対もある。雌雄異体で、卵は海中に放出され、ばらばらに海底に沈んで受精される。幼生は軟体動物門の貝類に特徴的なトロコフォラ型である、浮遊生活をした後に変態して成体となる。また、キタユムシ目ボネリムシ科Bonellidae ボネリアBonellia を代表とするボネリムシの類は、著しい性的二型を示すことで知られ、は非常に小さく、の咽頭或いは腎管中に寄生しており、は幼生の状態のままにとどまって、精巣だけが発達している幼体成熟(ネオテニー:neoteny)の最たるものである。ユムシ類は環形動物の多毛綱 Polychaeta・貧毛綱 Oligochaeta・ヒル綱 Hirudinoideaなどとは体制が非常に異なっていることから、分類学上、独立した一つの門 Echiura とする学者もいるが、ユムシの発生の途中で体節構造がみられることから、環形動物門 Annelida に含める学者も多い。私も現時点では前者を支持する。但し、近年の分子生物学的研究では完全に環形動物門多毛類に属しているとする主張もあるという。一方、種としてのユムシUrechis unicinctusは、体長十~三十センチメートルで、吻は短い円錐状を成し、体表は赤みを帯びた乳白色で、多くの皮膚乳頭を有する。口のすぐ後方に一対の腹剛毛があり、肛門の周囲にも九本から十三本の尾剛毛が一環列に並んでいる。北海道から九州までの沿岸の砂泥中にU字状の穴を掘ってすみ、穴の両端は低い襟状に隆起している。非常に古くから、タイ・カレイ・クロダイなどの釣り餌として用られている。最後はウィキの「ユムシ動物」も参考にして述べよう。そうした有用魚の餌としての利用の古さから地方名が多く、「アカナマコ」・「カキムシ」・「ユ」・「ムジ」・「コウジ」・「ルッツ」(北海道)・「イイ」(和歌山)・「イイマラ」(九州)などとも呼ばれる。この「マラ」は形状が男根に酷似することに由来すると考えてよいであろう。丘先生の「いむし」も単に「ゆむし」の訛りともとれるが、最後の二つの異称などとの親和性もある。「イイ」「イイマラ」は私は矢張り、男根を意味する「㔟(セイ)」の「イ」ではないかと推理している。『体部は細長い円筒形で、前端に吻をもち、その吻の付け根に口がある。付属肢も疣足もないが、わずかに剛毛がある』。『干潟などの浅い海域の砂地に棲息し、縦穴を掘ってその中に生息し、干潮時には巣穴に隠れる』。『韓国では、砂地の海底で鈎状の漁具を曳いて採り、「ケブル(개불)」と称して沿岸地域で刺身のように生食したり、串焼き、ホイル焼きなどにされ、割と一般的に食される。中国の大連市や青島市などでは「ハイチャン(海腸、拼音: hǎicháng)」と称して、ニラなどと共に炒め物にしたり、茹でて和え物にして食べる。日本でも北海道の一部などで、刺身、酢味噌和え、煮物、干物など食用にされるが、いわゆる珍味の一種であり、一般的な食材ではない』。『グリシンやアラニンなどのアミノ酸を多く含むため、甘味があり、コリコリした食感で、ミル貝に似た味がする』。『クロダイやマダイ釣りの釣り餌としても使われる』。私はさる本邦の店で特に予約注文をして取り寄せて貰い、刺身を食してみたが、まことに美味であった。すこぶる附きでお薦めの食材である。また、二十数年前、金沢八景の海の海岸で潮干狩りをした際、岸から程遠からぬ場所で数十センチメートルの本種を巣ごと現認、何か、とても嬉しかったことを覚えている。以下に、廣川書店平成六(一九九四)年刊の永井彰監訳 Thomas M.Niesen“The MARINE BIOLOGY COLORING BOOK”「カラースケッチ 海洋生物学」の「海産環形動物 ユムシ類」のレジュメと私が彩色した図を掲げる。こんなカラーリングを三十七歳の高校国語教師が嬉々としてやっていたさまを想像して見るがいい。私が如何にとんでもない海産無脊椎動物フリークであったかがお分かり戴けるであろう。

 

Img103_2

 

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「かぎむし」現在は独立した動物界 Animalia真正後生動物亜界 Eumetazoa脱皮動物上門 Ecdysozoa有爪(ゆうそう)動物門 Onychophora に、彼らだけで同門にカギムシ綱 Onychophoridaカギムシ目 Euonychophora として単独で配されている(ペリパツス科 Peripatidae・ペリパトプシス科 Peripatopsidae の二科)を作っている。ウィキの「有爪動物」によれば、『森の落ち葉の下などに棲んでいるカギムシ類のみが知られ』、『細長くて柔らかい動物である。全身は赤褐色、黒、緑など様々だが、黒紫色のものが多いらしい。発見当初はナメクジの』一『種として記載された』。『体は細長く、やや腹背に扁平、背面は盛り上がり、腹面は平らになっている。全身がビロード状の柔らかい皮膚に覆われる。頭部には』一『対の触角があり、その基部には眼がある。頭部の下面には口があって、その側面に』一『対の付属肢がある』。『頭部以降の胴体には、対を成す付属肢が並ぶ。付属肢は円錐形に突出し、先端には鈎爪がある。腹部末端に肛門がある。生殖孔は最後の附属肢の間の腹面中央か、もう一つ前の附属肢の間に開く』。『呼吸は気管によって行われる。体表のあちこちに気門が開き、その内部にはフラスコ型の気管嚢がある。気管はここから』二~三『本が体の内部へと伸び、それらは互いに癒合することがない』。『雌雄異体で、体内受精によって生殖する。雄は精包を雌の体表に貼り付け、精子はその皮膚を貫いて雌の体に侵入し、卵を受精させる。卵を産み出す場合と、体内で孵化するものがある。また、一部の種では胎盤が形成される胎生を行う』。『熱帯多雨林の地表や朽ち木の中などに生息する。肉食性で、小型の昆虫等を捕食する。餌をとるときは口のそばにある粘液腺から白い糸のように見える粘液を噴出し、これを獲物に引っかけて動けなくする。場合によっては』三十センチメートル『ほども飛ぶ。この粘液は防御のためにも使われる』。『触角や付属肢の配置等は節足動物のそれにほぼ一致する。体内の構造にも腎管の配置などに体節制を感じさせるものがある。しかし、見掛け上も内部構造にも体節が存在せず、付属肢も関節が無い。節足動物に似た点が多いもののこのような点で異なることから、緩歩動物、舌形動物(五口動物)と併せて』、『側節足動物という群にまとめられることもある』。『環形動物の多毛類に似ている点として、付属肢が疣足状であること、平滑筋であること、生殖輸管や腎管に繊毛があることなどが挙げられる。かつては節足動物が環形動物から進化したと考えられたため、この両者をつなぐ位置にあるものと考えられたこともある』。『バージェス動物群の一つであるハルキゲニア(Hallucigenia)やアイシュアイア(Aysheaia)は、この有爪動物門に属するものと考えられ』てい『る。バージェス頁岩だけでなく、中国などのカンブリア紀の地層からも類似の動物化石が見つかっている。節足動物と類縁の原始的な動物門と考えられている』但し、『ハルキゲニアやアイシュアイアは海に生息していたが、現生種では海中に生息しているものは』一『種も存在しない』とある。ここに出るカギムシの捕食行動は多くの動画で見ることが出来る。私が昔見たのは、“Bizarre Slime Cannon Attack | World's Deadliest”でその技に大いに感動した。但し、ワーム(蠕虫)系が苦手な方は見ない方がよかろうとは思う。

「海鞘(ほや)」ここに掲げられた個体は、写真も図も孰れも、動物界 Animalia脊索動物門 Chordata尾索動物亜門 Urochordataホヤ綱 Ascidiaceaマボヤ目 Pleurogona マボヤ亜目 Stolidobranchiaマボヤ科 Pyuridae マボヤ属 Halocynthia マボヤ Halocynthia roretzi である。あげな、不可思議な形をしよるに、我々、人間に近い生物なんやで! 要するに、微小な幼生期(オタマジャクシ型を成す)に我々の脊髄の元となるものと同じ脊索が形成されるんやで! 私が本種及び海鞘類について語り出すと、徹夜になるから、これはこれ、自粛致すこととしよう。そこで例えば、以下の私の記載を読まれんことをお薦めする。しかし、それらの私の注に目を通すだけでも、夜が明けてしまうかも知れぬ。

海産生物古記録集2 「筠庭雑録」に表われたるホヤの記載

海産生物古記録集4 後藤梨春「随観写真」に表われたるボウズボヤ及びホヤ類の記載

海産生物古記録集5 広瀬旭荘「九桂草堂随筆」に表われたるホヤの記載

大和本草卷之十四 水蟲 蟲之上 ホヤ

『博物学古記録翻刻訳注 13 「本朝食鑑 第十二巻」に現われたる老海鼠(ほや)の記載』

毛利梅園「梅園介譜」 老海鼠このマボヤの絵は絶品!

『武蔵石寿「目八譜」の「東開婦人ホヤ粘着ノモノ」』これには実は私は副題で「真正の学術画像が頗るポルノグラフィとなる語(こと)」というのを添えてある。しかし私は非常に美しいと思っている

『神田玄泉「日東魚譜」老金鼠(ホヤ)』

最後の三つの絵だけを見るのも一興であろう。]

Gibosimusi

[ぎぼしむし]

[立体感があるので、底本の国立国会図書館デジタルコレクションの図を採用した。]

 その他海岸の砂の中に住む「ぎぼしむし」といふものがあるが、この蟲は恰も紐の如き形で、長さが一尺から三尺位までもあり、極めて柔で切れ易く、殆ど完全には捕れぬ程で外形からいへば、少しも脊椎動物と似た點はないが、これを解剖してその食道・呼吸器等の構造を調べて見ると、多少魚類などに固有な點を見出すことが出來る。食道から體外へ鯉孔が開いて、こゝで呼吸の作用を營む動物は、魚類の外には先づ皆無といふべき有樣であるが、この「ぎぼしむし」は食道が多數の鰓孔で直に、體外に開いて居る外に、詳しく比較解剖して見ると、なお脊椎勤物に似た一二の性質があるから、現今ではこれをも脊椎動物に近いものと見倣す人が甚だ多い。倂し、この動物と普通の脊椎動物との間の相違は如何にも甚だしいから、これを以て脊椎動物に最も近いと見倣す考が正しいか否かは、まだ容易に判斷することは出來ぬ。

[やぶちゃん注:「ぎぼしむし」新字で漢字表記するなら、「擬宝珠虫」である。あの橋などの欄干の飾りの「擬宝珠」(ぎぼし・ぎぼうしゅ)である。動物界 Animalia半索動物門 Hemichordata腸鰓(ギボシムシ)綱Enteropneusta に属する純海産の動物群の総称。ギボシムシを知っている方は殆どおられぬであろうから(ウィキにさえ「ギボシムシ」の項はない)、ここに主に保育社平成七(一九九五)年刊「原色検索日本海岸動物図鑑[]」の西川輝昭先生の記載から生物学的な現在の知見を詳述する。

  半索動物門の現生種にはもう一つ、翼鰓(フサカツギ)綱Pterobranceiaがあるが、そこに共通する現生半索動物門と二綱の特徴は以下の通り(西川氏の記載に基づき、一部を省略・簡約し、他資料を追加した)。

体制は基本的に左右相称。前体(protosome)・中体(mesosome)・後体(metasome)という前後に連続する三部分から成り、それぞれに前体腔(一個)・中体腔(一対)・後体腔(一対)を含む。これらは異体腔であるが、個体発生が進むと体腔上皮細胞が筋肉や結合組織に分化して腔所を満たすことが多い。前体腔及び中体腔は小孔によってそれぞれ外界と連絡する。

後体の前端部(咽頭)側壁に、外界に開き繊毛を備えた鰓裂(gill slit)を持つ。鰓裂を持つのは動物界にあって半索動物と脊索動物だけであり、両者の類縁関係が推定される[やぶちゃん注:下線やぶちゃんウィキの「半索動物」によれば現在、18SrDNAを用いた解析結果などによると、ギボシムシ様の自由生活性動物が脊索動物との共通祖先であることを支持する結果が得られている。この蚯蚓の化け物のようにしか見えない奇体な生物は、正しく我々ヒトの祖先と繋がっているということなのである。]。

口盲管(buccal diverticulum)を持つ。これは消化管の前端背正中部の壁が体内深く、円柱状に陥入したもので,ギボシムシ類では前体内にある。口盲管はかつて脊索動物の脊索と相同とされ、そのため半「索」動物の名を得た。現在ではこの相同性は一般に否定されているが(ウィキの「半索動物」によれば、例えば脊索形成時に発現するBra遺伝子が口盲管の形成時には認められないなどが挙げられるという)、異論もある。

神経細胞や神経繊維は表皮層及び消化管上皮層の基部にあり、繊維層は部分的に索状に肥厚する。中体の背正中部に襟神経索(collar nerve cord)と呼ばれる部分があるが、神経中枢として機能するかどうかは未解明である。

開放血管系を持ち、血液は無色、口盲管に付随した心胞(heart vesicle)という閉じた袋の働きで循環する。

排出は前体の体腔上皮が変形した脈球(glomerulus)と呼ばれる器官で行なわれ、老廃物は前体腔を経て外界に排出される。

消化管は完全で、口と肛門を持つ。

一般に雌雄異体。生殖腺は後体にあり、体表皮の基底膜と後体腔上皮とによって表面を覆われている。外界とは体表に開いた小孔でのみ連絡する。但し、無性生殖や再生も稀ではない。

体表は繊毛に覆われ、粘液で常に潤っている。石灰質の骨格を全く欠き、体は千切れ易い。

 腸鰓(ギボシムシ)綱 Enteropneusta は、触手腕を持たず、消化管が直走する点で、中体部に一対以上の触手腕を持ち、U字型消化管を持つ翼鰓(フサカツギ)綱Pterobranceiaと区別される。

以下、西川先生の「ギボシムシ綱 ENTEROPNEUSTA」の記載に基づく(アラビア数字や句読点、表現の一部を本テクストに合わせて変更させて戴き、各部の解説を読み易くするために適宜改行、他資料を追加した)。

  細長いながむし状で動きは鈍く、砂泥底に潜んで自由生活し、群体をつくることはない。全長数センチメートル程度の小型種から二メートルを超すものまである。

 前体に相当する吻(proboscis)は、外形がドングリや擬宝珠に似ており、これが本動物群の英俗称“acorn worm”[やぶちゃん注:“acorn”は「ドングリ」。]や「ギボシムシ」の名の由来である。吻は活発に形を変え、砂中での移動や穴堀りそして摂餌に用いられる。

 中体である襟(collar)は短い円筒形で、その内壁背部に吻の基部(吻柄)が吻骨格(proboscis skeleton:但し、これは基底膜の肥厚に過ぎず、石灰化した「骨格」とは異なる)に補強されて結合する。吻の腹面と襟との隙間に口が開く。
 後体は体幹あるいは軀幹(trunk)と呼ばれ、体長の大部分を占めるが、その中央を広いトンネル状に貫いて消化管が通る。途中で肝盲嚢突起(hepatic saccules)を背方に突出させる種もある。

 生殖腺は体幹の前半部に集中し、ここを生殖域と呼ぶが、この部分が側方に多少とも張り出す場合にはこれを生殖隆起、それが薄く広がる場合にはこれを生殖翼と、それぞれ呼称する。

 彼等は砂泥を食べ、その中に含まれる有機物を摂取するほか、海水中に浮遊する有機物細片を吻の表面に密生する繊毛と粘液のはたらきにより集め、消化管に導く。この時、鰓裂にある繊毛が引き起こす水流も役立つ。消化し残した大量の砂泥を紐状に排出し、糞塊に積みあげる種も少なくない。

 鰓裂は水の排出経路としてはたらくだけでなく、その周囲に分布する血管を通じてガス交換にも役立つ。鰓裂は背部の開いたU字形で、基底膜が肥厚した支持構造を持つ点、ナメクジウオ類の持つ鰓列と似る[やぶちゃん注:「ナメクジウオ類」は、やはり我々脊椎動物のルーツに近いとされる「生きた化石」の、脊索動物門頭索動物亜門ナメクジウオ綱ナメクジウオ目ナメクジウオ科ナメタジウオ Branchiostoma belcheri とその仲間を指す。]。鰓列は種によって異なるが(十二から七百対)、鰓裂のそれぞれは鰓室という小室を経て触孔(gill pore)と呼ぶ小孔で外界と連絡する。各鰓裂に、微小な鰓裂架橋(synapticula)がいくつか備わることもある。

 本種の際立った特徴である、虫体が発するヨードホルム臭と形容される独特の強いにおいは、ハロゲン化フェノール類やハロゲン化インドール類によるものである。

 また、過酸化型のルシフェリンルシフェラーゼ反応による発光がみられる種もある。

 雌雄異体で体外受精する。トルナリア(tornaria)と呼ばれる浮遊幼生の時期(最長九ヶ月を超す)を経た後、適当な砂泥底に降りて変態する種のほか、こうした時期を経ず直接発生する種も知られている。後者では、一時的に肛門の後ろに尾のような付属部(肛後尾 postanal tail)が現れ、その系統学的意味づけが議論を呼んでいる。有性生殖のほか、一部の種では再生や,体幹の特定の部分から小芽体が切り離される方式による無性生殖も知られている。

 体腔形成の様式はまだよくわかっていない。[やぶちゃん注:中略。]

 潮間帯から深海にいたる全世界の海域よりこれまでに七十種以上が知られ,四科十三属に分類される(目レベルの分類は提唱されていない)。わが国からは三科四属にわたる七種が記録されているが、調査はまだきわめて不十分であり、将来かなりの数の日本新記録の属・種が報告されることは確実である。[やぶちゃん注:二〇〇八年の“An overview of taxonomical study of enteropneusts in Japan. Taxa 25: 29-36.”によると全十六種を数える。]

 以下、本邦四科を示す。

  ハネナシギボシムシ科 Spengeliidae

 ギボシムシ科 Ptychoderidae

 ハリマニア科 Harrimaniidae

 オウカンギボシムシ科 Saxipendiidae

 以上、「原色検索日本海岸動物図鑑[]」の西川輝昭先生の記載に基づく引用を終わる。実は以上は既に私が六年前、「生物學講話 丘淺次郎 六 泥土を嚥むもの~(1)」で注したものを援用したものである。そこで私は以下のように擱筆した。その思いは今も変わらぬので、そのまま引いておく。『刊行されてすぐに購入したこの二冊で五万円した図鑑を、今日、初めて有益に使用出来た気がした。本書をテクスト化しなければ、私はこの、素人では持て余してしまう』、『とんでもない図鑑を使う機会もなかったに違いない。再度、丘先生と西川先生に謝意を表するものである』。]

 海鞘・「ぎぼしむし」などには實際少しも脊椎といふものがないから、これらまでを脊椎動物に合して、之を總括した門を置くとすれば、之を脊椎動物と名づける譯には行かぬ。それ故、別に脊索動物門といふ名稱を造り、脊索動物門を分ちて幾つかの亞門とし、第一の亞門には海鞘類、

點が發見になると、之をもその部類に附け添えるが適當であるとの考が起るが、さて之を加へ込むと、その第二亞門には「ぎぼしむし」を當て嵌め、第三の亞門を脊椎動物と名づけて、更に之を哺乳類・鳥類云々と分けるやうにして居る人が今日ではなかなか多いが、斯くすれば分類の階段がこゝにも一つ增す。前の節にも述べた通り、研究の進むに隨つて分類の階段を漸々增さざるを得ぬに至る理由は多くはこの通りで、所屬の明でない動物の解剖・發生等を取調べた結果、從來確定して居る或る動物の部類に多少似た點が發見されると、之をもその部類に附け添へるが適當であるとの考が起るが、さて之を加へ込むと、その部類の範圍が廣くなる故、先づ之を大別してかからなければならず、終に新な階段を設ける必要が生ずるのである。また植物の方でも、從來顯花植物と隱花植物とは、その區別が割合に判然で、種子を生ずるのは顯花植物のみである如くに思はれて居たが、近來の化石植物研究の結果によると、古代の外形が羊齒類に極めてよく似ている或る種の大木は、確に種子を生じたものであることが明に知れた。今日ではこれらの化石植物を「羊齒種子植物」と名づけて居る。

[やぶちゃん注:植物界 Plantae シダ種子植物門 Pteridospermatophyta シダ種子植物綱 Pteridospermopsida。丘先生の言うように現生種はなく、化石種(絶滅種)のみからなる。ウィキの「シダ種子類」によれば、約二億五千万年前の『デボン紀後期から栄え、白亜紀に絶滅した。典型的なものでは』、『現生のシダに似た葉(栄養葉と胞子葉が分化していない)に種子がついているが、その他に形態的には異なるが関連すると考えられる多数の種類を含む』。『胞子は雌雄の区別(大胞子と小胞子)があり、大胞子は葉上で発生して胚珠を形成し、ここに小胞子が付いて発生し受精が行われたと思われる。より進化したとされるものでは栄養葉と胞子葉が分化している』。『系統関係は明らかでなく、現生裸子植物の祖先もしくは近縁と考えられるものや、被子植物の祖先に近いともいわれるものを含み、原始的な種子植物からなる側系統群と見られている』とある。私は化石種の場合、琥珀に丸ごと閉じ込められたものや、完全冷凍になった遺体といった特殊なケースを除いて、概ね、旧態然とした形態比較からしか分類が出来ないことから、現行の最新の分類学と同等に扱うことは出来ないと考えているので、ここでは綱以下の学名を示さないこととする。]

 

Sidasyusisyokubutu

[羊齒植物(復元圖)]

[やぶちゃん注:講談社学術文庫の図を採った。]

 

 分類といふことは、元來人間が勝手に行ふことであるから、個體を集めて之を種に分ちとき、種を集めて之を屬に分つとき、屬を集めて之を科に分つときなどに、若干の曖昧なものが後に剩つたからというて、之を以て直に生物進化の證據と見倣すベからざるは勿論であるが、斯かる所屬不明の動植物が皆他の大きな綱目等の特徴を一部分だけ具へ、中には二個以上の大きな綱目の特徴を一部分づゝ兼ね具へて、恰も二個以上の綱目を繋ぎ合せる如き性質を帶びて居るものがあるのは如何なることを意味するものであらうか。例へば動物を脊椎動物と無脊椎動物とに分けようとすれば、海鞘・「ぎぼしむし」の如き脊椎動物の特徴の一小部分だけを具へたものがその間にあつて、孰れにも明には屬せず、分類の標準の定め方次第にて、或は脊椎動物の方へも或は無脊椎動物の方へも入れられるといふことは、何を意味するものであらうかと考へるに、生物各種を全く互に關係のないものとすれば素より何の意味もないが、生物は總べて同一の先祖から分かれ降つたとすれば、斯かる曖昧な種類は、二個以上の綱目の共同の先祖の有して居た性質をそのままに承け繼いで降つた子孫、或は一綱・一目の進化の初期の性質をそのままに承け繼いで來つたものと見倣して、その存在する理由を多少理會することが出來る。一々例を擧げて説明すれば、こゝに述べたことを尚明に示すことは出來るが、所屬不明の動物の最も面白い例は多くは海産・淡水産等の下等動物で、顯微鏡で見なければ解らぬやうな類もあり、普通に人の見慣れた動物とは餘程違ふものが多い故、こゝには略して置くこととした。

 

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