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2018/03/26

栗本丹洲 魚譜 【銀ハ】エ (ギンザメ♀)

 

Gizame3

 

[やぶちゃん注:図版は国立国会図書館デジタルコレクションの「魚譜」から。上辺でキャプションの上部が切れてしまっているのと、下部の左胸鰭の先端が切れているのは、原巻子本のママ。標題を除くキャプションは文意が通じるので、更に上部に完全にカットされた字はないと推理出来るが、頭に配された本魚の名は最後がカタカナの「エ」であること以外は視覚上は判らない。後で述べるが、私はこの標題魚名は「銀ハエ」とあったのではないか最終推定した。]

 

□翻刻1(原典のママ。■は巻子本化するに際して、カットされてしまったと推定される字)

■■エ

 雌者腹大ニ色

 ウスシ雌雄俱

 總身銀箔

 似タリ因テ名ヲ

 得 此類ニテ

 ノ長キモノアリ上ヘ

 反張ス天狗ザメ

 ト云モノヽヨシ日東

 魚譜ニ略図アリ

 

□翻刻2(今まで通り、読み易く整序変更した。切除されたものは「銀」と「ハ」と推定してそれを〔 〕で補った。推定根拠は後注を参照されたい)

銀ハエ。

 雌の者。腹、大に、色、うすし。雌雄俱に、總身、銀箔を押すに似たり。因りて名を得(う)。

 此の類(たぐ)ひにて、鼻の長きもの、あり。上へ反張(はんちやう)す。「天狗ザメ」と云ふものの、よし、「日東魚譜」に略図あり。

 

[やぶちゃん注:尻鰭がないように描かれている点と頭額部形状(特有の反り返った突出部を持たない)から、軟骨魚綱全頭亜綱ギンザメ目ギンザメ上科ギンザメ科ギンザメ属ギンザメ Chimaera phantasma に同定する。

 なお、本図の魚名標題を「銀ハエ」とした理由を述べる。

 丹洲はキャプションの最後で、「此の」図に描かれた魚と同じような種「類」のもので「鼻」が「長」いものがおり、その「鼻」は「反張す」、則ち、その器官(部位)は、その魚の鼻とシミュラクラする位置に反り返った形で張り出して着いている、だから「天狗ザメ」と呼ぶのだとあることがら、その反鼻(へんび)した鼻のような部位(器官)とは、ギンザメのの頭部にのみ認められる鈎状突起を指している(これは交尾の際にを押さえつけるための器官と言われている。但し、深海魚であるギンザメ類自体の生体画像が撮られたのはごく最近のことであり、さらにその交尾行動を詳しく現認した観察記録があるとは、どうも私には思えない。とすると、これが確かに交尾時の補助器官であるかどうかは、私は少し疑問な気がするのである。親しい生物の教師も同様に本当にそのような器官として昨日するかどうかというのはちょっと怪しいと言っていたことを言い添えておく)から、それはまず、ギンザメ Chimaera phantasma と考えるのが自然であり、それに非常によく似ているが、突起がないというのだから、同種のとすることに異論はないものと思う。

 次に丹洲は神田玄泉「日東魚譜」に略図があると言っているのであるが、それはこの突起を持ったそれを指していると思われ、当該画像は国立国会図書館デジタルコレクションのこれではないかと私は推察した(左頁)。そしてそこには図に『ギンザメ』とキャプションがあるのである。さらに、上部の神田玄泉解説文では冒頭に、

 銀鮠魚

とあるのである。鮠(はや)は現行も昔も通常は淡水魚の条鰭綱コイ目コイ科 Cyprinidae のうちで、中型で細長い体型を持つ種群(コイ科ウグイ亜科ウグイ属ウグイ Tribolodon hakonensis・コイ科ウグイ亜科アブラハヤ属アムールミノー亜種アブラハヤ Rhynchocypris logowskii steindachneri・アブラハヤ属チャイニーズミノー亜種タカハヤ Rhynchocypris oxycephalus jouyi・コイ科 Oxygastrinae 亜科ハス属オイカワ Opsariichthys platypusOxygastrinae 亜科カワムツ属ヌマムツ Nipponocypris sieboldiiOxygastrinae 亜科カワムツ属カワムツ Nipponocypris temminckii 等)の総称である(ハエ或はハヨとも呼ぶ)のであるが、実は「鮠」は、それ以外に或いは「鮠魚」と書いて「サメ・フカ」の類をも古くは指したことがあったのである(不審を持たれる方は、Mitsuru Nakajima 氏の魚類サイト内の「真名真魚字典」のこちらの「鮠」の項を参照されたい)。とすれば、この「鮠」は「ハエ」と読んで「サメ」の意をも併せ持っていると考えてよい。

 残存した文字は「エ」だけである。だとすれば、ここは丹洲が「日東魚譜」に描かれた「ギンザメ」それと、同じ仲間であると判断したと考えるのは自然であり、丹洲はそこで、この魚の名として、「銀鮠」=「ギンザメ」という名(種群名)を与えたのだと考えて私はよいと思う

 ただ、丹洲は或いは、『此の類(たぐ)ひにて、鼻の長きもの、あり。上へ反張す(はんちやう)。「天狗ザメ」と云ふものの」由、『「日東魚譜」に略図あり』と記しているところから見ると、これを現在の魚類学的事実としての同種の♀♂ではなく、反り返った「鼻」を持つ、ギンザメ類の別種と捉えていた可能性も否定は出来ない。卵を持っていればとは判るから、図を描いた後に剖検して卵を見出したから「雌」と冒頭に断定しているのだと考えれば、現行のように反鼻様の突起物があるからとしたのではないと考えた方が、寧ろ、自然であって、やはり、形態は「鼻」を除いて完全に相同でありながら、丹洲は「鼻」のあるギンザメと「鼻」のないギンザメの二種がいると考えていたのではないか。形状分類のみが分類の鉄則であった当時から考えると、そう腑に落ちるのである。以上、大方の御叱正を俟つものではある。

「天狗ザメ」現行では、ギンザメ目 Chimaeriformes にはギンザメ上科 Chimaeroideaギンザメ科 Chimaeridae 以外に、著しく伸長した吻を有する、遙かに異形でより「天狗」っぽく見える、全くの別種ギンザメ上科テングギンザメ科 Rhinochimaeridae が三属八種もおり、日本近海にもアズマギンザメ(テングギンザメ科アズマギンザメ属アズマギンザメ Harriotta raleighana・クロテングギンザメ(テングギンザメ科テングギンザメ属クロテングギンザメ Rhinochimaera africana・テングギンザメ(テングギンザメ科テングギンザメ属テングギンザメ Rhinochimaera pacifica)の三種が棲息するが、この「テングギンザメ」と、この「天狗ザメ」は同名異物であることになるので、注意されたい。なお、現行の真正のテングギンザメ科のテングギンザメ類は、後の図に出る。

「反張(はんちやう)す」初見時は「そりはり」と訓読みしたかったが、「す」との繋がりが悪いので音読みした。]

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