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2018/04/10

進化論講話 丘淺次郎 第十三章 古生物學上の事實(6) 五 他の動物進化の實例

 

     五 他の動物進化の實例

 

 高等の動物では斯く完全に進化の往路の知れて居るのは、今の所では殆ど馬ばかりであるが、稍々下等な動物には、進化の有樣が望めるだけ完全に解つた例が幾つかある。特に淡水の池に住む貝類などは、代々の介殼が同じ池の底に泥と共に溜るから、底の土を上から掘つて行きさへすれば、今生きて居る子孫から順を追うて、その始の先祖までの遺體を悉く採集して調査することが出來る理屈故、生物進化の實際を見るには、最も都合の宜しい種類である。而して今日生物進化の事蹟の最も完全に知れて居る例といふのは、多くはやはりこの類に屬する。

 

Hiramakigai

[平卷貝の進化]

[やぶちゃん注:以下三図、孰れも底本の国立国会図書館デジタルコレクションの画像を使用した。]

 

 

 ドイツヴュルテンベルヒスタインハイムといふ村に可なり大きな湖水の跡がある。水は餘程前に涸れて、今ではたゞの畑になつて居るが、そこの土中には、種々の介殼が澤山にあり、特に平卷貝といふて、日本でも、天水桶や溝などの中に居る平に卷いた黑い小な貝と同屬の貝が夥しくある。こゝから出る貝類ばかりを特に調べた學者が二三人もあるが、深く掘るに隨うて、貝の形が漸々に變じて行き、終には全く種の異なつたものかと思ふほどに甚だしく違ふやうになる有樣は、この人等の研究によつて明瞭となつた。こゝに掲げたのは斯く順を追うて變化して行く中から、若干の段を選んで取り出した標本の寫生圖であるが、之を見れば、文句で長い記述を讀むよりも、遙に明瞭に解るであらう。初め恰も日本産の如き扁平な形から、漸々卷き方が平でなくなつて、終には殆ど田螺の如き形となり、更に尚鋭く尖つた介殼を有するに至つたのであるが、之は單に進化の中心系統の一部分だけで、尚この外には多少途中より橫へ分かれて進化した側系ともいふべきものがあるから、異なつたと思はれる形狀を總べて勘定して見ると、實に夥しい。それ故、之を丁寧に調べず、たゞ飛び飛びに若干の介殼だけを拾つて見ると、餘程澤山な種類がある如くに感ずる。實際斯く完全に研究せられる前には、之を十四種にも區別してあつたが、眞に無理もないことである。今では之を改め、總體を合して一種と見倣し、「多くの形を有する平卷貝」といふ意味の學名が附けてある。

[やぶちゃん注:「ドイツヴュルテンベルヒスタインハイム」現在のドイツ連邦共和国の十六の連邦州の一つであるバーデン=ヴュルテンベルク州(Land Baden-Württemberg)のハイデンハイム(Heidenheim)郡シュタインハイム・アム・アルブッヒ(Steinheim am Albuch)。ここ(グーグル・マップ・データ)。直径二十四キロメートルの盆地、中新世中期、約千五百万年前に直径百五十メートルほどの大きさの隕石の衝突で出来たとされる「シュタインハイム・ベッケン」(Steinheimer Becken(「ベッケン」はドイツ語で盆地。英語では「シュタインハイム・クレーター」(Steinheim crater)とも呼ばれる)で知られる。ウィキの「シュタインハイム・クレーターによれば、『クレーターが湖となっていた時代に形成された湖沼性堆積物中には』、『中新世の種々の化石に富み、シュタインハイム盆地は』、『この時代の化石研究において最も重要な場所の一つに数えられている。すなわち』、『脊椎動物(魚類、爬虫類、鳥類、哺乳類)の化石が多数発見されているほかに、素晴らしく豊富で状態の良い淡水性貝類の化石が見られることで有名で、いわゆる Steinheimer Schneckensand』(シュタインハイム貝砂層)『と呼ばれているのがそれである』一八六二年、古生物学者フランツ・ヒルゲンドルフ(Franz Martin Hilgendorf 一八三九年~一九〇四年)は、『ここの堆積物中のヒラマキガイ科のヒラマキガイ属 Gyraulus 』(後注参照)『の殻を調査し、殻の形が古い堆積層のものから新しい堆積層のものへとゆっくり変化していることを述べた。このヒラマキガイの殻の漸次変化に関する研究は』一八五九年に『チャールズ・ダーウィンが出版した『種の起源』における進化論を最初に追認したものであった』とある。

「平卷貝」ここでは、腹足綱異鰓亜綱有肺下綱水棲目ヒラマキガイ上科ヒラマキガイ科ヒラマキガイ亜科ヒラマキガイ族Planorbiniヒラマキガイ属 Gyraulus の種。ヨーロッパ産で多く見られ、ドイツにも分布する現生種ではGyraulus albus がいる(本邦産のハブタエヒラマキガイ Gyraulus illibatus の近縁種。但し、ここで丘先生が挙げた種がそれだというわけではない)。ウィキの「ヒラマキガイによれば、現生種群は『世界に広く分布する淡水生の巻貝の』一科で、『一般に小型で殻は薄く、蓋をもたない。有肺類であるため、普通は時々水面に呼吸孔を開いて肺呼吸する』。『科を代表する Planorbis 属をはじめ、螺管が平たく巻くものが多いために』、『この名がある。しかし』、『カサガイ型やサカマキガイ型のものもあり、淡水貝類中で最も殻の形が多様な科の一つで、科を特徴付けているのは歯舌の形態や生殖器の前立腺(摂護腺)が複数の小房に分かれるといった体の形質である。一般に小型で』、数ミリメートから一センチメートル前後の『ものが多いが、フトミズヒラマキのように直径が』四センチメートル『近くなる大型種もある。有肺類の基眼類に属し、眼は鞭状の触角の基部にある。呼吸孔を水面に出して肺呼吸を行うほか、水中では皮膚呼吸や偽鰓による呼吸も行う。科全体が左巻きだが、外見上右巻きのように見える種類がある』。『世界中の池沼、湖、河川、水溜まりその他の淡水域に多くの種が分布しており、熱帯魚の水槽にもよく見られる。人や物資の移動に伴って世界中に移入されている種がある一方で、棲息環境の悪化や消失のために絶滅が危惧されている種もある。また、住血吸虫症のある地域では原因となる吸虫の中間宿主となることがあり、駆除の対象とされることもある』。『分類が非常に難しく、種や亜種の区別から属や科の分け方に至るまで時代や研究者によって異なることも多く、いまだ混沌としている』。『学名 Planorbidae は科のタイプ属 Planorbis (ラテン語: planus (平たい)+ orbis (円形))に国際動物命名規約で科を表す接尾辞「-idae」を付けたもの』である。『名前の』通り、『螺管がとぐろを巻くように平たく巻くものも多い』。『殻質は一般に薄質で、半透明淡褐色のものが多いが、中型~大型種には比較的丈夫な殻をもつものもある』。『体は左巻きで、螺塔の高い種では普通の左巻きの貝殻をもつためそれがよく分かるが、平巻き型の種では殻頂が強く凹んで臍孔(へそあな)のようになると同時に、本来の臍孔が浅くなったり』、『盛り上がったりして、あたかも右巻きの貝のように見えるものがある。このため古くは右巻きと思われており、殻口を右側に置いた側面図で示されてきた。しかし』、『体が左巻きとわかってからは、慣習どおり殻口を右側に殻頂を下面にして図示される場合と、殻口を左側に置き左巻きの貝として図示される場合とがある』。蓋は持たない。『触角は一対で、先細りになる長い鞭状を呈し、同じヒラマキガイ上科』(Planorboidea)『のサカマキガイ科』(Physidae)『のそれによく似ており、三角形の触角をもつモノアラガイ科』(Lymnaeidae)『とは異なっている。眼は触角の基部の上皮下にある』。『雌雄同体で、雌雄の生殖孔は体の左側に別々に開口し、雄性生殖器に付属する摂護腺は複数の房に分かれる。また、Gyraulus (ヒラマキガイ属)など一部の属では』、『雄性生殖器内に細長い針状の刺激針(恋矢:れんし)』(私の生物學講話 丘淺次郎 第九章 生殖の方法 二 雌雄同體の注を参照されたい)『をもつものがある。歯舌の中歯は左右対称で、一部の例外を除き中央には』一『対の歯尖があり、ときにその間に』一『個の小歯尖、もしくは両側に小さい歯尖をもつものもある。歯は多く、数十個を』一『列として』二百『列ほどがあるため、歯舌全体では』一『万数千個の歯が並んで微細なおろし金状になっている。ヘモグロビンをもち、体色が淡いものやアルビノの個体では軟体が赤く見える。空気呼吸用の肺をもつ有肺類であるが、呼吸孔近くには多少なりとも体表の一部が伸びた部分があり、二次的な鰓として水中での皮膚呼吸に役立っている。これは特にインドヒラマキガイ亜科』(Bulininae)『のものでよく発達しており、偽鰓と呼ばれる』。『原則として淡水に生息するが、稀に汽水でも見られることもある。河川や小川などの流水を好む種と池や水田などの止水を好む種があり、両方に見られるものもある。ただし河川などでも、岸近くで植物が茂って流れが緩やか場所を好むものが多く、流れの速い渓流などに棲むものは少ない。小さな水槽などでも水草などに付着して来たものが繁殖することがある』。『主に水生植物の組織や、付着藻類、落ち葉などの植物遺骸、デトリタス、水面を覆う幕状の有機物その他を餌としており、原則として植物質を中心とした雑食性と考えられている。ときおり』、『動物性のものを食べることがあっても、積極的な肉食性はない』。『雌雄同体で他の個体と交尾して受精するが、自家受精もする。卵は卵嚢に包まれた状態で水中の物の表面に産み付けられる。ここから殻をもった稚貝が直接這い出す直達発生で、浮遊幼生を持たないのは他の淡水性基眼類と同様である。しかし成貝でも、しばしば水面の裏面を這ったり、そのままぶら下がって水流に乗って移動することがある』。『寿命は不明なものが多いが、小型の種では数か月、中型-大型の種では』二~三年の『寿命があると推定されている』。『世界中の熱帯から寒帯まで広く分布する。垂直分布も広く、標高』ゼロ・メートルから『低山地帯に種類が多いが、標高約』三千八百メートルの『チチカカ湖にも Taphius 属などが生息する。大部分の種は水際から水深数』メートル『までの浅い部分で生活するが、深い湖では水深』三百五十メートルから採取された『記録もある』。『ほとんどの種は小型で食用などには適さず、殻も薄く壊れやすいため利用価値がなく、貝そのものと人間との目立った関係はない』。『しかし』、『他の淡水貝類と同様に寄生虫の中間宿主となり、特にアフリカ、中東、中南米などヒラマキガイ科貝類が関与する住血吸虫症の多い地域では』各種のヒト感染症を引き起こす住血吸虫(扁形動物門吸虫綱二生亜綱有壁吸虫目住血吸虫上科住血吸虫科 Schistosomatidae)類の中間宿主『として問題とされている』。]

 

Ousyutanisi

[田螺の進化]

 

 以上と全く同樣な例はオーストリヤスロベニアの新生代の湖水跡から出た田螺の介殼である。之も圖を掲げれば殆ど説明にも及ばぬ位であるが、初め介殼の圓い日本産の圓田螺[やぶちゃん注:「まるたにし」。]に善く似た形から、漸々變化して、螺旋狀の隆起が出來、終には榮螺の如き突起が生ずるまでの順序が明瞭に解る。之も研究の行き屆かぬ前には、六種乃至八種に分類してあつたが、今では總べて之を合して、一種と見倣すことに改めた。

[やぶちゃん注:「オーストリヤスロベニア」現在のスロベニア共和国(Slovenija)。本「進化論講話」初版は明治三七(一九〇四)年刊、本底本はその新補改版第十三版で大正一四(一九二五)年九月刊であるが、初版当時は確かにオーストリア=ハンガリー帝国領であったものの、底本当時はセルビア・クロアチア・スロベニア王国の一員であったので、誤りである。

「田螺」腹足綱原始紐舌目タニシ科 Viviparidae。現生のヨーロッパ産種群はタニシ亜科 Viviparinae Viviparus 属で、ウィキの「タニシによれば、『現生種の数はそれほど多くはないが、Viviparus 属には化石種が多く、平滑で単純な殻をもつ現生種に対し』、『化石種では螺肋や疣があるものも知られている』とあるので、ここで丘先生が挙げたものは同 Viviparus と考えてよい。

「圓田螺」タニシ科アフリカタニシ(アフリカヒメタニシ)亜科マルタニシ属マルタニシBellamya (Cipangopaludina) chinensis laeta。独立種として記載され、Cipangopaludina 属のタイプ種でもあるが、その後中国産のシナタニシ Bellamya chinensis chinensisの亜種として扱われるようになった。殻高約四・五~六センチメートルで、北海道から沖繩に分布する。但し、沖縄に分布するものは史前帰化とされているが、その他の地域の個体群も同様に帰化種である可能性はある。全体的に丸みを帯びることと、殻表に数列の点刻状彫刻があることなどで判別できるが、殻の外見では、北海道から九州に分布するオオタニシ(Bellamya (Cipangopaludina) japonica)との区別は容易でない個体もある(であれば、体内の胎貝の形態から、の成貝であれば、解剖により、確実に判別できる場合がある程度に似た個体が多い)。オオタニシ同様、大型であるため、古来から食用にされてきた。乾燥に強く、農閑期の水田や干上がった溜池などでも、泥に潜って耐久する能力があるが、極度の乾燥や水質の汚染などには弱い。かつては水田などでよく見られたが、二十世紀後期頃から、急速に減少傾向にあり、準絶滅危惧種に指定されてしまった(以上もウィキの「タニシに拠った)。]

 

 北アメリカフロリダに産する一種の袖貝に就いても、先年その系圖が明になつた。次の圖に掲げた如く、現今生存して居るものは、介殼の卷いた尖端の處が短く、殼の開く口の緣が餘程開いて、幅廣くなつてあるが、新生代の上層からは介殼が遙に細長く、口もさまでに廣くない種類が出る。著しく形が違ふから、前は之を二種としてあつたが、化石を多く集めて丁寧に調べて見ると、後者は明に前者の先祖で、その間には何處にも判然した境はなく、たゞ時とともに漸々形狀が變化して來ただけである。

 

Sodebora

[袖貝の進化]

[やぶちゃん注:「袖貝」腹足綱直腹足亜綱新生腹足上目吸腔目スイショウガイ上科スイショウガイ(ソデボラ)科Strombidae に属するソデガイ類。産地と形状から見て、現生種のソデボラ属フロリダソデボラStrombus alatus ではないかと考えられる。]

 

 以上掲げた例は、孰れも各動物の進化の有樣を明瞭に示すもので、地層上から漸々掘つて行くに隨ひ、いつとなしに形狀が變化して行く具合の明に解る化石の標本が、今では數箇所の博物館に隨分澤山に陳列してあるが、之は動物が進化し來つたといふ事實その物である故、之に就いて議論のあるべき筈はない。今日尚生物種屬は總べて萬世不變であると考へる人のあるのは、全く斯かる事實のあることを知らぬのに原因すること故、之に生物の進化することを認めさせるには、たゞこゝに擧げた如き例を告げ知らせれば、それで十分なわけで、決して議論によつて説の當否を決するなどといふべき場合ではないのである。尤もかやうに完全な例は、今日の所、まだ澤山には知られてないが、一方には少いながらも斯く完全に動物進化の直接の事實が知れてあり、また他方には生物が進化し來つたものと見倣さねば、到底説明の出來ぬやうな事實、卽ち生物進化の間接の證據ともいふべき事實が無數にある所を見れば、最早生物種屬は總べて漸々進化するものであると斷言する外には仕方がないやうである。

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