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2018/04/05

栗本丹洲自筆「翻車考」藪野直史電子化注(6) 翻車魚(一個体丸ごと塩蔵品)

 

Honsyagiyo_2

 

[やぶちゃん注:画像は底本である国立国会図書館デジタルコレクションのこちらの「翻車考」のものをトリミングした。]

 

□寛政年間に丹洲のもとに齎された一個体丸ごとの小型個体の塩蔵品

■翻刻1

翻車魚 マンボウ

口ヨリ尾ノサキマテ二尺許

上下ヒレノサキマテ二尺餘

寛政中

冬月塩

藏日ヲ經ケルモノ

ヲ親看シテ手

写ス腥気ナシ

全身沙アリテサメ

肌ナリ粗キ皺アリ

テ斑ヲナス斑車ノ

名アルモ又宜ナリ

同僚山本啓俊院

癰腫ヲ患フル

ツテコレヲ贈レリ

[やぶちゃん注:「癰」は「隹」のない異体字であるが、表記出来ないので正字で示した。]

 

[やぶちゃん注:以下、舵鰭の後ろのキャプション。一行目は虫食いが甚だしいので、国立国会図書館デジタルコレクションの今一つの「翻車考」と校合して字を起した。「其物其物」の後半は踊り字「〱」と判じたが、正字化した。「之」のようにも見えるが、「之」では意味が通り難い気がする。]

尾ハ一枚ニ乄ヒレノ如クナレ共上下ノ鰭ト同シカラズ

コレニハ圓文十四排列セリ其物其物ニヨリテ一様ナラズ

 

[やぶちゃん注:頭部の下方のキャプション。]

歯ハ上下各二枚アリ

河豚ノ歯ニ異ナルヿ

        ナシ

 

 

■翻刻2(読み易さを考え、私が《 》で語句を補った)

「翻車魚(はんしやぎよ)」 「マンボウ」

口より尾のさきまで、二尺許(ばか)り。上下、ひれのさきまで、二尺餘り。寛政中、冬月、塩藏《のものの》日を經(へ)けるものを、親看(しんかん)して手写す。腥き気(かざ)、なし。全身、沙(すな)ありて、さめ肌なり。粗(あら)き皺、ありて、斑(まだら)をなす。「斑車(はんしや)」の名あるも、又、宜(むべ)なり。同僚山本啓俊院、癰腫(ようしゆ)を患(わづら)ふるによつて、これを贈れり。

 

尾は一枚にして、ひれの如くなれ共(ども)、上下の鰭と同じからず。これには、圓文、十四、排列せり。其の物、其の物によりて、一様ならず。

 

歯は上下各二枚あり。河豚(ふぐ)の歯に異なることなし。

 

[やぶちゃん注:舵鰭の根の白い円紋や頭部上方が、やや盛り上がっているのが気になるが(ここが有意に飛び出るのは、マンボウ属ウシマンボウ Mola alexandrini の特徴ではある)、捕獲地が記されていないこと、塩蔵品で日を経ていること、マンボウとしては決して大きくないことから若年個体と思われること(マンボウ属マンボウ Mola mola とウシマンボウは若年個体では専門家でも判別が困難とされる)、舵鰭の後端が波うっていること(ウシマンボウは波うたない)等から、やはりマンボウ Mola mola に比定しておく。

「二尺許(ばか)り」六十一センチメートルほど。

「寛政中」一七八九年から一八〇一年。

「冬月」旧暦十月から十二月。

「親看(しんかん)」間近に観察すること。

「粗(あら)き皺、ありて、斑(まだら)をなす」マンボウの生体でも見られるものだが、塩蔵品の日を経たものであることを考えると、皺はその処理によるものと考えた方がよい。

「同僚山本啓俊院」栗本丹洲と同じ幕医。大名の書簡や医学関連書の筆者として確認でき、丹洲と名を連ねて出る論文も見出せた。

「癰腫」悪性の腫れ物で根が浅く、大ききなものを言う。マンボウの腸(はらわた)が広汎な腫物(「癰疽(ようそ)」)に効果があるとする記載は、既に「本朝食鑑」等で見た。

「其の物、其の物によりて、一様ならず」十四個が並んである円紋は、それぞれが、互いには一様でなく、有意な違いがある、というのである。観察が鋭い。

「河豚(ふぐ)の歯に異なることなし」現代の魚類学からみても正しい観察です、丹洲先生。マンボウは条鰭綱 Actinopterygii フグ目 Tetraodontiformes フグ亜目 Tetraodontoidei のマンボウ科 Molidae で、フグの仲間だからです。イギリスの生物学者ダーシー・ウェントワース・トンプソン(D'Arcy Wentworth Thompson  一八六〇年~一九四八年)の最も知られた著作On Growth and Form(「(生物の)成長の形態について」。一九一七年刊)の中の、これまた極めて著名な相対成長研究のチャートでもマンボウが登場する。英文サイトのこちらの図を是非、参照されたいが、一番右端の下にあるOrthragoriscusMola のシノニム)がマンボウのタイプ体型、その上にあるDiodonが、お馴染みの条鰭綱フグ目ハリセンボン科ハリセンボン属 Diodon のタイプ体型である。これで、フグ類のフォルムを頭部から体部後半に向けて上下に扇型に引き伸ばしたような形が一般的なマンボウ類の体型であることが、極めて明瞭に判る。【2018年4月7日追記】どうも、このフォルムの変容の私自身の説明が気に入らなかった。もう少し、きっちりと学術的に言えないだろうかと不満だったので、知り合いの若き数学者に訊ねてみたところ――同相写像(又は同位相写像)による連続変形――という表現がしっくりくるように思われる、という答えを得られた。非常に腑に落ちたので、ここに言い添えておく。

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