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2018/05/27

大和本草卷之八 草之四 裙蔕菜(ワカメ)

 

【外】

裙蔕菜 食物本草載之和名抄曰ニキメ處々海中ニ

 多シ二月ニトル伊勢ノ海ニ産スルヲ好トス又紀州ノ賀多

 ニ産スルハ脆クシテ味ヨシ珍賞ス爲茹而食ス煮羹亦

 可也生ナルヲモ食ス又莖ヲモ食フ莖ハコトニ甘滑ナリ

 莖ノ傍ニツキテ厚ク耳ノ如クナルヲメミヽト云莖モメミヽモ

 羹トシ又鹽醬ニツケテ食ス○性寒味甘シ有虫積

 患腹痛人不可食或曰本草二十八卷ニ所載ノ石

 蓴是ナルヘシト云○生薑ト酢ニ和乄食ヘハ無腹痛之

 患ワカメヲ食テ腹痛スル者モ亦可食之

○やぶちゃんの書き下し文

【外】

「裙蔕菜(ワカメ)」 「食物本草」、之れを載す。「和名抄」に曰はく、『ニギメ』〔と〕。處々〔の〕海中に多し。二月にとる。伊勢の海に産するを好しとす。又、紀州の賀多〔(かた)〕に産するは、脆くして、味、よし。珍賞す。茹で爲〔(な)〕して食す。煮て羹〔(あつもの)〕と爲すも、亦、可なり。生なるをも、食す。又、莖をも食ふ。莖は、ことに甘〔く〕滑〔か〕なり。莖の傍〔ら〕につきて、厚く耳のごとくなるを「メミミ」と云ふ。莖も「メミミ」も羹とし、又、鹽〔(しほ)〕・醬〔(ひしほ)〕につけて、食す。

○性、寒。味、甘し。虫積〔(ちゆうしやく)〕有〔りて〕腹痛を患ふ人、食ふべからず。或いは曰はく、『「本草」二十八卷に所載の「石蓴」、是れなるべし』と云ふ。

○生薑〔(しやうが)〕と酢に和して食へば、腹痛の患ひ無し。ワカメを食ひて腹痛する者も亦、之れを食ふべし。

[やぶちゃん注:お馴染み、

褐藻綱コンブ目チガイソ科ワカメ属ワカメ Undaria pinnatifida

である。しかし、本邦には同属の非常によく似た、

アオワカメ Undaria peterseniana

ヒロメ Undaria undarioides

が植生し、孰れも食用であるから、これらもここに含めるべきであろう。なお、ワカメの生体は黄色或いは茶色である(湯通し処理した緑色のワカメの絵を海中にしばしば描くが、それが本種「ワカメ」ならば、それは大きな誤りである)が、このアオワカメ・ヒロメの二種は生体でも暗い青緑色に見える。これらは葉片が分かれず、ぺろんとしているから、容易に「ワカメ」とは区別は出来る(アオワカメ・ヒロメは、ヒロメの方は中肋がはっきりとしていることで識別でき、アオワカメよりもより暖海性である)。また、流通上では歯応えや味に違いがあることから、ワカメの北方品種で茎が長い

ナンブワカメ Undaria pinnatifida var. distans

と、南方型変種で、茎が短く、葉状部と胞子葉が繋がっている

ナルトワカメ Undaria pinnatifida f. narutensis(野生のそれは絶滅に近い)

の「ワカメ」の「三種」を区別しているらしいが、生物学の分類学上はこれを区別しない。但し、一部、参考にさせて戴いた鈴木雅大氏のサイト「生きもの好きの語る自然誌(Natural History of Algae and Protists)」のワカメのページによれば(コンマを読点に代えた)、二〇〇七年の研究で、『ミトコンドリアにコードされる cox3 遺伝子を用いた遺伝子解析の結果、ワカメ(Undaria pinnatidida)、ヒロメ(U. undarioides)、アオワカメ(U. peterseniana)は同種であると述べ』られており、一九七二年の報告では、交雑実験によって、この三『種はどの組み合わせでも雑種第一代(F1)を作ること、ワカメとヒロメでは雑種第二代(F2)まで作ること』が判っており、『自然界でもワカメとヒロメあるいはアオワカメとの雑種と考えられる個体がしばしば採集されており』、一九九八年の記載によれば、同属の種の一つとされてきた『Undaria crenata はワカメとアオワカメの雑種であると考えられて』おり、『これらの結果は、ワカメ、ヒロメ、アオワカメが生物学的に同種であることを強く示唆してい』る(太字下線はやぶちゃん)が、『ヒロメとアオワカメをワカメと呼ぶのは、ワカメ属(Undaria)の歴史的背景や』、三『種が一般的に広く浸透していることから難しいかもしれ』ないと述べておられる。本邦では海藻食は非常に古く且つ広く行われてきており、神饌・食膳に供するものとして、南北を問わず、極めて一般的であるが、世界的には逆にすこぶる限定的な食文化で、中国・朝鮮・インドネシアなどのアジアの一部と、アイルランドやフランス沿岸部のごく限られた一部地域でしか見られない。昆布と並ぶごく普通の海藻として子どもでさえ知っているワカメは、現在、しかも、タンカーなどのバラスト水によって遊走子が多量に、本来、植生していなかった地域に持ち込まれ、ニュージーランド・オーストラリア及びヨーロッパ諸国沿岸域で摂餌する天敵もなく、環境への適合が旺盛であることから、激しく増殖しており(オーストラリアの一部海域では他の海藻類を駆逐してしまいワカメだけが密生している惨状を映像で見た)、人為移入による強力な外来侵入生物、深刻な生態系破壊を惹起させる危険な種として問題になっている事実を知る日本人は少ない。これを私が人に説明すると、その中の多くの方が、必ず「なぜ、採って食べないのだろう?」と反問してくる。かつてペルーやイタリアに行った時、仲良くなった現地の子にお菓子を上げると、煎餅の海苔を黒い包装紙と思って剝して食べた。「一緒に食べると美味しい」と食べて見せても、彼らは信じず、やっと口にしても吐き出してしまった。梅干しや納豆とタメ張りで海苔は外国人には得体の知れぬ黒い紙かの中国であっても今も多くの人は海苔を食べたことがなかった。近年になって食されているのは、海苔に餅米を塗って揚げた「お菓子」としてである(韓国の『中央日報』日本語版のこの記事を参照)日本人はどこかで日本食が洗練された「美しい料理」だと誤認する傾向がある。私は鯨が好きだが(反捕鯨の思想は生物学的には殆んど正当な理由がない。ミンククジラは北極海で過剰に個体数が増えてしまっており、人為的な間引きが必要なことは鯨類学者でさえ提唱している)、犬は食いたいとは思わない(妻は中国派遣教師時代に中国東北部出身の教え子から振る舞われた赤犬を食べたことがあるが、非常に美味しかったそうである)。昆虫食(それでもイナゴ・ザザムシは食える)は勘弁だが、ホヤは大好物で上手く捌けるし、ユムシは美味いもんだ。こういう私を顰めツラで眺める日本人であるあなたも、西洋人からはおぞましいものを食べている人間と映っていることを忘れてはいけない

「裙蔕菜(ワカメ)」「裙」は「裳裾(もすそ)」の、「蔕」は「へた」である。これは中肋から左右に広がる大きな切れ込みを持った羽状の葉状部を前者に、その基部の根の上部の非常に厚くなった葉状部がぎゅっと縮まって折れ重なったようになっている、ここで後で言っている「メミミ」、現在、我々が「メカブ(和布蕪)」と呼んでいる箇所(ここには生殖細胞が集まっている)を「蔕」に喩えたものとして、非常に分かり易い漢字表記であり、現在も実はこの漢字表記は実際に使用されている。

「食物本草」明の汪穎(おうえい)の撰になる食療食養専門書。

「「和名抄」に曰はく、『ニギメ』〔と〕」宮下章「ものと人間の文化史 11・海藻」(一九七四年法政大学出版局刊)の第二章「古代人の海藻」の「(二)海藻の漢名と和名」の「藻(モ・ハ)」の項によると、源順の『和名抄が編』纂『されるより少なくとも二、三百年前から、古代日本の人々は「海藻」の文字に「ニギメ」(ワカメ)の和名を当てるという誤りをおかしてしまった』とする一方、諸海藻名の末尾に多く見られる「メ」は『布のほか「女」「芽」にも通』ずるとする。また、後の「海藻(ニギメ・ワカメ)」の項では、『和名抄は、唐書が藻類の総称とする「海藻」をニギメと読む誤りをおかしたが、反面で「和布」という和製文字を示してくれた。また、ニギメのほかに「ワカメ」という呼び方も示してくれた』とする。

 これは「和名類聚抄」で、

   *

海藻 本草云海藻味苦醎寒無毒【和名𨒛木米俗用和布】

○やぶちゃんの書き下し文

海藻 「本草」に云ふ「海藻」は、味、苦醎(くかん)にして寒。無毒【和名は「𨒛木米(にぎめ)」。俗に「和布(わかめ)」を用ふ。】

   *

(「醎」は「鹹」に同じい)と記すのを指す。

 引用に戻る。

『たとえば、延喜式では海藻をニギメ、和布をワカメ、万葉集では稚海藻をワカメ、和海藻をニギメと読ませている』。『ニギメとワカメとは別種でなく、ニギメの若芽がワカメである。古くから若芽が喜ばれたと見えて、中世に入るころには「ニギメ」は消えてしまう。「メ」は藻類の総称だが、「和布刈(めかり)」の神事や人麻呂の』(「万葉集」巻第七・一二二七番)、

 

磯に立ち沖邊(おきへ)を海藻刈舟(めかりぶね)海人(あま)漕ぎ出(づ)らし鴨(かも)翔(かけ)る見ゆ

 

などでは『ニギメの意味にも使われていた』。『ニギメは、古代人に最もよく親しまれた藻類であった。神饌にもよく用いられ、貢納される量も多く、上下の差を問わずよく食べられた。だからこそ「メ」の文字を独占できたのである』。以下、ワカメの価値が記されているが、そこまで引くと同条全部になってしまうので、どうぞ、同書をお読みあれかし。

「伊勢の海に産するを好しとす」伊勢志摩産として現在も健在。伊勢神宮への神饌としてのブランド性が強み。

「紀州の賀多〔(かた)〕」現在の三重県鳥羽市鳥羽に賀多(かた)神社があるが((グーグル・マップ・データ)、この附近か、ここは志摩国であるが、北西端で生き残っただけで、旧志摩国の大部分(紀伊半島南東沿岸)は紀伊国に戦国期に吸収されてしまったから、言い方としてはおかしくないか。

「羹〔(あつもの)〕」煮凝(にこご)り。

「醬〔(ひしほ)〕」大豆と小麦で作った麹(こうじ)に食塩水をまぜて造った味噌に似た食品。なめ味噌にしたり、調味料にしたりする。ひしお味噌。

「虫積〔(ちゆうしやく)〕」現代の漢方ではヒト感染性寄生虫による痛みを漢方で言うが、実際には、ヒト感染性寄生虫による症状で痛みが出ることは極めて稀れであるから(明治以前は多量の寄生虫感染によって痛みや「逆虫(さかむし)」という寄生虫を嘔吐するはあったが、しかしそれでも痛みを生ずることは寄生虫閉塞以外にはまず考えられないから、広汎な消化器系疾患をこう言っていると考えた方がよい。

『「本草」二十八卷に所載の「石蓴」』以下。

   *

石蓴【「拾遺」。】 校正【自草部移入此。】

集解藏器曰、「石蓴、生南海。附石而生似紫菜色靑。氣味甘平無毒。主治、下水利小便。」。藏器、「主風祕不通五膈氣幷臍下結氣。煮汁飮之。胡人、用治疳疾李珣。」。

   *

「ワカメを食ひて腹痛する者も亦、之れを食ふべし」益軒先生、これは対症療法としてもいただけません!]

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