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2018/05/02

大和本草卷之十四 水蟲 介類 河貝子

 

河貝子 河螺ナリ順和名曰和名美奈俗用蜷字非

也小ナル長螺ナリ本草ニ蝸蠃一名螺螄別錄曰蝸

螺生江夏溪水中此類ナルヘシ山谷溪水溝渠ノ内或

大木ノ傍ニ付テ有之形長ク頭口大ニ末小ナリ土人

煮食フ海水ニモ長螺アリ溪水ニアルト形同シ藥ニ入ニ

ハ河水ニアルヲ用ユ河螺ニハ田螺ノ形ナル圓ハナシ三才

圖繪云蠃生溪澗中者絶小食苔而潔蠃今作螺

○天蛇毒ト云瘡アリ手足ノ指ノ本末ニ生ス

ルヲ俗ニウラブトヽ云本ニ生スルヲ本ブトヽ云早ク治セサレハ

指クサリ切ルヽ事アリ河貝子ヲ燒テ存性爲末ウスノリ

ニ和シハレタル指ニコトコトクヌリ上ニ紙ヲオホフヘシ口未ミエ

スハノコラスヌルヘシ口スデニ見エハ口ニナル所ヲアケテヌルヘシ

此藥大ニ驗アルコト餘藥ニ甚マサレリシハシハ驗ヲヘタリ

海螺及潮入地ニ生スル螺ハ不可用右ノ方亦和方ナリ

○やぶちゃんの書き下し文

「河-貝(みな)子」 河-螺〔(かはにな)〕なり。順〔したがふ〕が「和名」に曰はく、『和名、「美奈」。俗に「蜷」の字を用ふるは非なり』〔と〕。小なる長螺〔(ながにな)〕なり。「本草」に、『蝸蠃(〔くわ〕ら)。一名、螺螄(らし)。「別錄」に曰はく、『蝸螺、江に生ず。夏、溪水中〔にあり〕』〔とあるは〕、此の類なるべし。山谷の溪水・溝渠の内、或いは、大木の傍(かたはら)に付きて、之れ、有り。形、長く、頭口(とうこう)、大に〔して〕、末(すゑ)、小なり。土人、煮て食ふ。海水にも長螺あり。溪水にあると、形、同じ。藥に入るるには、河の水にあるを用ゆ。河螺〔(かはにな)〕は田螺〔(たにし)〕の形なる〔やうな〕圓(まる)きは、なし。「三才圖繪」に云はく、『蠃は溪澗の中に生ずる者は絶〔(はなは)〕だ小なり。苔を食つて潔し。蠃、今、「螺」に作(な)す』〔と〕。

○「天蛇毒」と云ふ瘡〔(かさ)〕あり、手足の指の本・末に生ずるを、俗に「ウラブト」と云ひ、本に生ずるを「本ブト」と云ふ。早く治せざれば、指、くさり、切るる事、あり。河貝(みな)子を燒きて性〔(しやう)〕を存し〔たるままに〕末〔(まつ)〕と爲し、うすのりに和し、はれたる指に、ことごとくぬり、上に紙をおほふべし。口、未だみえずば、のこらず、ぬるべし。口、すでに見えば、口になる所をあけて、ぬるべし。此の藥、大いに驗〔(しるし/げん)〕あること、餘の藥に甚だまされり。しばしば、驗、をへたり。

海螺及び潮の入る地に生ずる螺〔(にな)〕は用ふべからず。右の方〔(はう)〕、亦、和方なり。

[やぶちゃん注:ここ以降の訓読では、読解上、あった方がよいと思われる語句を〔 〕で本文に組み込むこととした。

 これは複数の別種をひっくるめている。まずは「河貝子」(これは「河貝」にのみ「みな」とルビを振っている以上、「みなご」或いは「みながひ」と訓じているように私は思う)は通常、現代では狭義の、

軟体動物門腹足綱吸腔目カニモリガイ上科カワニナ科カワニナ属カワニナ Semisulcospira libertina

を指す語なのであるが、しかし、ここでは比較的近縁な、

カワニナ科 Pleuroceridae 及びトウガタカワニナ(トゲカワニナ)科Thiaridae

の尖塔螺旋型の同形状をしたものも当然、含まれることになる。ところが、益軒はここで「山谷の溪水・溝渠の内」以外に、「大木の傍(かたはら)に付きて、之れ」がいる、と述べているのが、大問題なのであって、これは、明らかにそれらとは全く別種である陸生貝類、則ち、カタツムリやナメクジと同類の、尖塔螺旋形状を成すところの、

腹足綱有肺目キセルガイ科 Clausliidae

辺りをも含めているのである。しかも、「海水にも長螺〔(ながにな)〕あり」とあるから、ここには、当然の如く、

カニモリガイ上科ウミニナ科ウミニナ属ウミニナ Batillaria multiformis

を代表とする、

ウミニナ科 Batillariidae

の貝類が含まれることになり、さらに面倒なことに、実はそれらとは別種でありながら、やはりよく似た尖塔螺旋形状を成す海産腹足類までも挙げておかなくてはならないということになるである。

『順〔したがふ〕が「和名」』平安中期に源順(したごう)によって編せられた辞書「倭名類聚鈔」。

『和名、「美奈」。俗に「蜷」の字を用ふるは非なり』この決定的な根拠は不明であるが、少なくとも順は「みな」と「にな」(「蜷」は巻貝の意)は語源的に全く異なるものだという立場に立っているように私には思われる。

「本草」明の本草学者李時珍の「本草綱目」完成は一五七八年であるが、十八年後の板行されたのは時珍の亡くなった三年後の一五九六年。

「別錄」中国で、三~四世紀に成立したと推定される「名醫別錄」。七百三十品以上の薬物を記述したものと思われ、「本草綱目」にはしばしば引かれているが、散逸して、原本は現代には伝わらない。

「蝸螺、江に生ず。夏、溪水中〔にあり〕」正確には「本草綱目」(巻四十六の「蝸蠃」)では『別錄曰蝸螺生江夏溪水中小于田螺上有稜』である。

「溝渠」(こうきょ)は給水や排水のために土を掘った溝(みぞ)のこと。

「頭口(とうこう)」巻貝の口辺部、筍状を成す上記の貝類では確かに「頭」に見え、貝殼の「口」ではある。

「三才圖繪」通常は「三才圖會」。明の王圻(おうき)と、その次男王思義によって編纂された、絵を主体とした中国の類書(百科事典)。一六〇九年出版。全百六巻。

に云はく、『蠃は溪澗の中に生ずる者は絶〔(はなは)〕だ小なり。苔を食つて潔し。蠃、今、「螺」に作(な)す』〔と〕。

「天蛇毒」一般には漢方では毒蛇や毒虫などの毒による全身性の潰瘍性皮膚疾患を指すようだが、以下を見ると、「ブト」という疾患名が気になる。これは本邦の「根太」(ねぶと)と酷似した呼称だからである。根太は、主に背中・大腿部・臀部などに生ずる腫れ物を広く指す語で、多くは黄色ブドウ球菌の感染によって毛包が炎症を起こし、膿んで痛む毛嚢炎が相当する。別に「固根(かたね)」とも呼ぶのであるが、これは江戸時代、別に性感染症によるリンパ節腫脹などもかく呼んでいるはずである。実際に、ニナ類は潰して「おでき」に塗るとよいという民間療法が、古くから本邦には(まさしく益軒の言う「和方」である)あった。

「うすのり」穀粒を潰して水を加えて伸ばした薄糊であろう。]

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