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« 大和本草卷之十四 水蟲 介類 チシヤコ(キサゴ) | トップページ | 栗本丹洲自筆軸装「魚譜」より「アマダイ」 »

2018/05/03

大和本草卷之十四 水蟲 介類 鼈(スッポン)

 

鼈 順和名曰加波加米今ノ俗ダウガメト云又スホント

 云○鼈肉能外提於下陷氣故久瀉ヲ止メ下血ヲ

 治シ脱肛ヲ收ム夏月土用捕テ鹽藏歷久者增佳

 如此之功本草不載之只其頭ヲ陰乾ニ乄脱肛陰

 脱ヲ治スル方アリ是雖水物有溫補性本草以爲性

 平或爲冷者何乎只別錄曰補中益氣補不足ト云

 者爲得之春ハ陸ニ上リ穴ヲホリ卵ヲ多クウム雀卵ヨ

 リ大ナリ食ヘシ本草ニ鹽ニヲサメ煨シ食フ止小兒下

 痢夏ニ至リテヒトリカヘワレテ小鱉トナル藥ニ用ル鱉

 甲ハ卽ダウガメノ甲也然ルニ近世本邦醫師ノ作レル書ニ

 海中ニアル大ガメノ甲トス藥肆ニモ海中ノ大龜ノ甲ヲ用

 ユアヤマリ也○按本草鼈身有異者皆能害人且本

 草ニ合食之禁多可省觀○俗ニスホント云ハ出没ノ

 轉訛ナルヘシト云能出沒于水中○本草云薄荷煮

 鼈能害人

○やぶちゃんの書き下し文

「鼈〔(ベツ)〕」 順の「和名」に曰く、『加波加米(カハガメ)』。今の俗、「ダウガメ」と云ひ、又、「スホン」と云ふ。

○鼈の肉、能く、下陷〔(かかん)〕の氣〔(き)〕を外提〔(ぐわいてい)〕す。故に久しき瀉を止〔(とど)〕め、下血〔(げけつ)〕を治し、脱肛を收む。夏月の土用、捕つて鹽藏し、久しきを歷(ふ)る者、增々〔(ますます)〕佳し。此くのごときの功、「本草」に之れを載せず。只だ、其の頭を陰乾にして、脱肛・陰脱を治する方、あり。是れ水物〔(すいぶつ)〕と雖も、溫補〔(をんほ)〕の性〔(しやう)〕有り。「本草」、以つて『性、平』と爲し、或いは『冷』と爲〔(す)〕るは何んぞや。只だ、「別錄」に曰く、『中を補ひ、氣を益し、不足を補ふ』と云ふは、之れを得〔(とく)〕と爲〔(な)〕す〔なり〕。春は陸に上り、穴をほり、卵(かいこ)を多く、うむ。雀の卵より、大なり。食ふべし。「本草」に鹽にをさめ、煨(う〔ゑ〕い)し、食ふ。小兒の下痢を止〔ましむ〕』〔と。〕夏に至りて、ひとり、かへ〔り〕、われて、小さき鱉〔(べつ)〕となる。藥に用ふる。鱉甲〔(べつかう)〕は、卽ち、「ダウガメ」の甲なり。然るに、近世、本邦の醫師の作れる書に、海中にある「大がめ」の甲とす。藥肆にも海中の大龜の甲を用ゆ。〔これ、〕あやまり、なり。

○「本草」を按ずるに、鼈の身〔には〕、異〔なる〕こと有る者、皆、能く人を害す〔と〕。且つ、「本草」に合食〔(くひあはせ)〕の禁、多し。省〔(かへ)り〕觀るべし。

○俗に「スホン」と云ふは、「出没(しゆつぼつ)」の轉訛なるべしと云ふ。能く、水中に出沒す〔ればなり〕。

○「本草」に云はく、『薄荷〔(はつか)〕〔にて〕鼈を煮る〔は〕、能く人を害す』〔と〕。

[やぶちゃん注:爬虫綱カメ目潜頸亜目スッポン上科スッポン科スッポン亜科キョクトウスッポン属ニホンスッポン Pelodiscus sinensis(本邦産種を亜種Pelodiscus sinensis japonicusとする説もある)。

「ダウガメ」多くの本や記載では、現在の「スッポン」は江戸時代には「ドロガメ」と読んでいたと書かれてある。確かに水底の泥の中に潜んでいることが多いから、それで無批判に信じそうになるが、「泥龜」は淡水産カメ類なら、汎用的であるし、「荘子」の昔から、カメは尾を泥中に曳いているのであって、私はどうもこれは食用とし得るスッポンに代表される中・大型のカメ類の総称の方がしっくりくる。寧ろ、ここで益軒の記す「ダウガメ」の方がそれらしくて気になるのである。まず、これは決して書き誤り足り得ぬ文字列であるから、「ドロガメ」の誤記説は退ける。そこでやおら、私は、正規の歴史的仮名遣上では違う(違っても、江戸の庶民は歴史的仮名遣をかなり間違えていたから問題にはならない)のだが、これは私は「胴龜」(歴史的仮名遣「ドウガメ」)ではないかと推理する。スッポンは標準的最大甲長で三十八・五センチメートル、ごく稀れには六十センチメートルもの巨大個体も存在するから、「胴」染みた小型・中型の酒樽みたような感じになること、しかも甲羅表面が他のカメと異なり、角質化せず軟らかく、甲羅と体の主要部が強い一体性を持っている感じを与え、それはカメ以上に胴状の甕か樽から手足が妖怪の如く、ニョッキリと、出たり、入ったりするように見える。されば私は断然、「胴龜」で採りたくなるのでる。大方の御叱正を俟つ。

「スホン」「す」と「ほ」は続けて発音するには口唇が同形になるので、難しいから、私は画時代にこのまま発音していたとは私は考えにくく、これで既に「すぽん」「すっぽん」と読んでいたのではないかと推理する。

「下陷〔(かかん)〕の氣〔(き)〕」漢方で内臓の下垂や慢性の下痢(本文の「久しき瀉」)などを意味する。

「外提〔(ぐわいてい)〕」不詳であるが、恐らくは外部から投与したものによって、有る症状を抑制して統(す)べる、という意味のような気がする。

「下血」内臓性或いは消化器系疾患による肛門からの出血。

「脱肛」痔疾の一つで、肛門の粘膜や直腸下端の粘膜が肛門外に出てしまう症状。

「夏月の土用」「土用」は陰陽五行説に基づく節期で正式には「土旺用事(どおうようじ)」と呼ぶ。春・夏・秋・冬をそれぞれ五行の木・火・金・水に当て、土を各季節の終わりの十八日間に該当させたもので、立春・立夏・立秋・立冬の前の十八日間の季節の変化時期を「土用」としたものであるが、現行では一般的に立秋前の十八日間の「夏土用」を指し、この期間を別に「暑中」とも呼ぶのである。例えば、今年二〇一八年の夏の土用は八月七日が立秋であるから、七月二十日から八月六日となる。

「陰脱」女性生殖器の膣脱・子宮脱を指す。

「水物〔(すいぶつ)〕と雖も、溫補〔(をんほ)〕の性〔(しやう)〕有り」漢方では薬材や食材を「熱」・「温」・「平」・「涼」・「寒」の五性(ごしょう)に分け、「熱」と「温」は身体を温める性質で「温」は穏やかに体を温め、「熱」は「温」よりも強く温める性質を指す。「平」はフラットな中間的性質、体を温めも冷やしもしないことから、長期に服用・摂餌しても偏りを生じないものを指し、「寒」「涼」は体の熱を冷ます性質で「涼」は「温」のい対、「寒」は「熱」の対となる。但し、水産生物だからと言って、体温より低い「寒」「涼」の性を持つものではないから、この益軒の「水物と雖も」という謂いは、或いは、そういう風に単純に五性を考えてしまう素人へ向けての注意喚起かも知れぬ。

『「本草」、以つて『性、平』と爲し、或いは『冷』と爲〔(す)〕るは何んぞや』本草書のバイブル的存在である明の李時珍の「本草綱目」の記述に益軒先生、かなりムッときて、反論しているのである。「本草綱目」の「鼈」の記載は非常に長いものであるが、確かに益軒の言うように「鼈」の肉の「性」を「平」「冷」としている。

「別錄」中国で、三~四世紀に成立したと推定される「名醫別錄」。七百三十品以上の薬物を記述したものと思われ、「本草綱目」にはしばしば引かれているが、散逸して、原本は現代には伝わらない。

「中を補ひ、氣を益し」漢方で「中」は現在の「胃腸」相当を指し、「益氣」は正常な気の流れを生み出させるという意。胃腸の消化吸収を整えて正常な気の流れを生み出す。漢方に於ける最も代表的な基本処方である。

「之れを得〔(とく)〕と爲〔(な)〕す〔なり〕」スッポンは薬餌として絶大な効果が得られる有益な薬剤であり、食材である、と規定している。

「春は陸に上り、穴をほり、卵(かいこ)を多く、うむ」スッポンの産卵期は五月中旬から九月初旬までと長く、通常時はスッポンは陸に上がらないが、産卵時は陸に上がって地面を掘り、土の中に卵を産む。こちらで上野不忍池に於けるスッポンの産卵の様子が動画で見られ、そこで卵の大きさも概ね、判る。

『「本草」に鹽にをさめ、煨(う〔ゑ〕い)し、食ふ。小兒の下痢を止〔ましむ〕』「本草綱目」「鼈」に時珍の言として『卵主治鹽藏煨食止小兒下痢』とある。「煨」は本邦では見かけない漢字ではあるが、「大辞林」に「煨(ウェイ)」として載り、中国語とし、『中国料理の調理法の一』つで、『ごく弱火で長時間煮込むこと』とある。

「ひとり、かへ〔り〕、われて」原文のままでは意味が採れない(私には)ので、かく処理し「(親が温めたりしないでも土中で)自然に孵(かえ)り、殻が割れて」と訓じた。誤りがあるならば、御教授あられたい。

「藥に用ふる」これは生まれたばかりの子スッポンをの意であろう。

『近世、本邦の醫師の作れる書に、海中にある「大がめ」の甲とす。藥肆にも海中の大龜の甲を用ゆ。〔これ、〕あやまり、なり』「藥肆」は薬種屋。この「本邦の醫師の作れる書」は不詳。但し、寺島良安の「和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」(リンク先は私の古い電子テクスト注。良安の当該百科事典は益軒の死の二年前の正徳二(一七一二)年に完成している)の「瑇瑁(タイマイ)」の項には、はっきりと『俗に龜甲を以て鼈甲と名づくは甚だ誤りなり』と記している(益軒先生は流石に同書を見てないだろうな。ちょっと残念な気がする)。そこの注で書いたのだが、実は私も何で「鼈」=スッポン(潜頸亜目スッポン上科スッポン科スッポン亜科Trionychinaeの仲間)の甲羅が「鼈甲」なのか、長く疑問なのであったが、「鼈甲」は、実は中国では確かに「スッポンの背甲」を指し、工芸品の「鼈甲」を指さないのである。文字通りの真正の「スッポンの甲羅」である「鼈甲」は乾燥させて粉末にし、漢方で「土鼈甲」と呼んで薬用としていたのである。我々の知る海産ウミガメのタイマイ(潜頸亜目ウミガメ上科ウミガメ科タイマイEretmochelys imbricata)の甲羅を煮詰めて作った材料からの工芸品としての「鼈甲」はそもそもがこれ、国字であったのである。実は江戸時代、寛文八(一六六一)年の贅品輸入禁止令及び倹約令のお達しは、鼈甲の原料の玳瑁にも及んだが、それ以後も実際には取り引きされた。その際、これは瑇瑁ではなくスッポンの甲羅ですと言いくるめたところが、「鼈甲」の由来という。益軒が憤激している、この「大和本草」は宝永七(一七〇九)年に刊行されたものである。実はそこにこんなバレバレの真っ赤な鼈甲、じゃない、嘘が背景が隠れていたのである

『「本草」を按ずるに、鼈の身〔には〕、異〔なる〕こと有る者、皆、能く人を害す〔と〕』ここには決定的ではないが、益軒のやや読み違いがあるように思われる。「本草綱目」には「能鼈」というスッポンの異物、別名を「三足鼈」三本足(四肢の一本が欠損)のカメを挙げており、そこに『肉氣味大寒有毒』とし、『食之殺人』(之れを食へば、人を殺す)とあるのがそれだ。この能を「鼈」から切り離してしまい、副詞として誤読した結果、「名無しの毒ガメ」ということになってしまったのではなかろうか? なお、寺島良安の「和漢三才圖會 卷第四十六 介甲部 龜類 鼈類 蟹類」でもこれ「みつあしのかめ 三足龜」を「賁龜」(ふんき)として項立てしている。但し、そこでは良安は殺人毒の話をせず、専ら、本邦の奇形カメやアルビノ(白化個体)の白ガメの古記録を掲げていて、奇瑞収集記の体(てい)に傾斜してしまっていて、ちょっとヘンである。

「合食〔(くひあはせ)〕」本邦の「食い合わせ」と同義で採ってかく訓じておいた。

「省〔(かへ)り〕觀るべし」省察してみる価値はあろう。

『俗に「スホン」と云ふは、「出没(しゆつぼつ)」の轉訛なるべしと云ふ。能く、水中に出沒す〔ればなり〕』「スッポン」の語源については幾つかあり、「言海」ではポルトガル語であるとする説があると記し、また、それは見た目から男性器に関わるポルトガル語「スボ」由来とするちと怪しげなもの、さらに江戸後期の元商人で歌人・文筆家であった伴蒿蹊(ばん こうけい 享保一八(一七三三)年~文化三(一八〇六)年:生家は近江八幡出身の京都の商家であったが、八歳で本家の近江八幡の豪商伴庄右衛門資之の養子となり、十八歳で家督を継ぎ、家業に専念、三十六歳で家督を譲って隠居・剃髪、その後は著述に専念した)の享和元(一八〇一)年刊の随筆「閑田耕筆」の「巻之三 物之部」に『鼈をすぽんといふ』は『其鳴聲によれり。是は間遠(マドホ)に「すぽんすぽん」といふ。夜に』『及びて聞』けり、などと記すが、スッポンに発声器官はないから、何らかの他の動物の鳴き声の誤認であり信用出来ない。スッポンが川に飛び込んだ際の音を表わしたという擬音説もあるけれど、産卵期以外はあまり陸に上がりたがらない(但し、上がると意想外に早く走るし、そのままズッポンと水には入る)から、これもなんだかな、という気はする。しかしこの「出没」→「すっぽん」転訛説というのも、ちょっと苦しそうだ。私はつるんペロンとした体表と、あのファルス的な頸部から「すっぽんぽん」の丸裸かな? なんて考えてはいたのだがね。お後がよろしいようで……

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