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2018/05/09

つげ義春風「人魚橋」伝説夢(少々長めの昨夜見た夢)

 
 

晩春であった。
その橋は山間(やまあい)の深い溪谷に架かっていた。
見下ろすと、碧色の溪水の両岸に新緑の木々が茂っていた。

僕はこの四月から、この近くにある高校に赴任しているのだった。
[やぶちゃん注:これは夢を見ている僕の認識であって、学校自体は夢に出てこない。]
この学校には生徒の「遅刻カード」の提出が定められていた。
手札大の紙に遅刻理由を書いて、教員の捺印を受け、授業をしている教師に出すというものであった。
[やぶちゃん注:これに酷似したシステムは、僕が曾て七年間務めた高校で実際に行われていた。裏表で四十回分ほどの枠が発注されたピンク色の用紙に印刷されてあり、捺印は職員室にいる一時間目の授業のない教員が捺印することになっていた。やや辺鄙な場所にある高校で、遅刻する生徒は非常に多く、僕は一時間目の空いている日が憂鬱で仕方なかった。理由も書かさねばならず、遅刻がさらに長引き、その在り方に、僕は大いに疑問もあった。因みに、その学校は僕の家から遠く、朝六時起きで、二時間近くかけて通勤しなくてはならぬのであった。]

ところが、この学校、こうした教師の捺印方式にとっくに音を挙げたものか、登校には誰もがそこを必ず渡らねばならない、その橋のたもとに小屋を設け、そこで遅刻常習者の最大回数の者に印鑑押しの仕事を強制させているのであった。

この橋は「人魚橋」という名であった。
そうして――ご多分に漏れず、その橋に纏わる、とある「学校の怪談」が囁かれていたのであった。

……それは……

『――人魚族の血を引く生徒がこの番人役に当たると、その生徒を愛する生徒が出て来て「好きだ」と告げた時、その者に呪いをかけて、自身の身代わりと成すことができ、自分はほんとうの人間になれる。……もし――誰もその人を愛さなければ――未来永劫――その人は「人魚橋」の番人をしなければならない。……それから、その人魚の呪いを少しでも邪魔した者があった時は、やはり、その邪魔した者を身代わりとして呪うことで、人間への転生が成就する……』

というものだった。
僕は、赴任早々、教え子の女子生徒から、その話を聴いて、覚えていたのであった……

ある早朝、通勤で、橋の手前まで通じているバスに乗っていると、番人の女子生徒が僕の横に座っていた。
すぐ後ろに、新入生の男子生徒がいた。
すると、その後ろの男子が番人の女子に、僕の右肩越しに話しかけ始めた。僕は寝ている振りをしながら、しかし、聴いていた。
そのうちに、どうもこの男の子は入学するや、この番人の彼女に一目惚れしたらしいことが話し振りから判ったのだった。

彼はそれからそれへと彼女の気を引こうとする話をしているのが、よく判った。
横に僕がいるのも気にせず、大きな声で彼女に話をし、今にも「好きなんです」と言いかけそうな雰囲気になってきた。
僕は余りの五月蠅さに、彼の方を徐ろに振り返ると、

「君ね、まだ、新入生だから知らないかも知れないがね、この橋にはね、とある伝説があるんだ……」

と言いかけた――言いかけた途端――僕の右に座っていた番人役の彼女が真っ青になって――いや――形容ではなく――その溪谷の深い碧玉色の谷水のようになって――怖ろしい顔で僕を睨んだのであった……

……翌日……僕はその「人魚橋」の番小屋にいた。
僕はもう、そこに住むことに決めていた。
何の悲壮感もなかった。
あの女の子は人魚族の末裔であったのだ。
「だから、僕が、これから遅刻カードに捺印する役を背負わねばならぬだけのことだ」と妙に達観しているのであった。

僕は何十個もの印鑑を用意していた。三文判数本に、実印に、「心朽窩主人」や似顔絵附きのもの、何故か「國立國会圖書館之印」という四角なドデカいものもあった。
[やぶちゃん注:これは僕が実際に『毛利梅園「梅園魚譜」人魚』で同図書館の人魚図の画像を使用させて貰っていたりするからであろう。]

遅刻した生徒がたくさんやってきた。
僕は黙って笑って挨拶すると、片っ端から紙に印鑑を捺して配ってやる。
彼らに人気なのは「國立國会圖書館之印」なのであった。
それを黒インクでズンと捺した遅刻カードを、髪を紫色に染めた女子生徒が喜んで受け取っては、「チョーカッコいい!」と頭の上で振りながら、楽しそうに橋を渡って行くのであった。

気がつくと、橋のたもとの少し離れたところには、一軒の古い駄菓子屋があった。
そこでは、若い一人の美しい少女が店番をしているのであった。
彼女は、僕に向かって、「ご飯はこれから私が届けるのであります」と、はにかんで笑みを浮かべながら、声をかけてきた。
何か、嬉しくなった。
[やぶちゃん注:これはもう、つげの「紅い花」のキクチサヨコか、「もっきり屋の少女 」のコバヤシチヨジである。但し、ワンピースであって、浴衣ではなかった。]

ところが――
その瞬間――
番小屋の中の僕の右肩を、誰かの手が「グイ」と摑んだ――

……それは……あの、昨日までこの役を務めていた女子生徒であった。
黙ったまま、一寸咎めるような顔つきをしたが、すぐに僕の横に座ると、次から次へと入ってくる遅刻生徒のカードに、色々な印を楽しそうに捺しては、「はいはい! 遅刻してはいけません!」と言いつつ、笑っているのであった……

僕は悟った――
『彼女は人間にならずに――なれたのに――ここへ戻ってきたのだ……』……

え? 僕は今、どうしてるかって?

「今も――二人で仲良く――人魚橋の番小屋で――遅刻カードに印を捺しているのです――」

[やぶちゃん注:エンディグは、つげの「李さん一家」のそれの台詞のインスパイアに違いないのだが、寧ろ、僕には「やなぎ屋主人」で主人公が幻のように見る、仮想された、「やなぎ屋」の娘と夫婦になって年老いた二人の映像に近いものであった。並んで印を捺している二人のセピア色になった静止画像で終わっていたからである。
 ここからは蛇足で、覚醒後の感想なのだが、この夢の中の僕は、人魚族の末裔の彼女の体の一部を食べたのに違いないと思うのである。でなくては、番人として未来永劫、その仕事を全うすることは出来ないからである。

 言っておくが、以上は僕が昨夜見た夢を可能な限り、忠実に再現したものである。作り物? 創作する能力など、今の僕には殆んど枯渇しているのである。]

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