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2018/05/26

進化論講話 丘淺次郎 第十六章 遺傳性の研究(二) 二 遺傳する性質の優劣

 

     二 遺傳する性質の優劣

 

 メンデルが實驗研究によつて見出したことは、先づ第一には、相異なる品種がそれぞれの性質を雜種に遺傳するに當つて、その勢力に優劣の差のあることである。一例を擧げて説明すると、こゝに碗豆の黃色い豆のなる甲品種と、靑い豆のなる乙品種とがある。この兩種は若し純粹に培養したならば、甲品種はどこまでも黃色い豆、乙品種はどこまでも靑い豆が出來るが、この兩品種の間に雜種を造ると如何なるものが生ずるかといふと、第一代の雜種としては悉く黃色い豆のみが出來て、一つも靑い豆は出來ない。而して雜種を造るに當つて、甲の方の花粉を乙の花に著けても、乙の方の花粉を甲の花に著けても、結果は全く同一である。かやうに第一代の雜種では、豆の色に關しては兩親の中の一方だけの性質を受けて、他の方からは何も傳はらなかつた如くに見えるが、更にこの豆を蒔いて引き續き培養して見ると、第二代以後にまた靑い豆の出來ることから考へれば、乙品種の性質は全く子に傳はらなかつた譯ではなく、雜種の第一代に於てはたゞ表面に現れなかつた

といふに過ぎぬ。この事實を見てメンデルは次の如き説を考へ出した。卽ち第一代雜種の體内には黃色い豆を生ぜしめる甲品種の性質も、靑い豆を生ぜしめる乙品種の性質も竝び存するが、一方の勢力が優つたために、その方のみが表面に現れ、他の方は負けて隱れて居るのであると見倣して、之を優劣の法則と名づけた。二品種の相異なる點は、皆相對立せしめることの出來るもので、例へば、甲は果實の色が黃色で乙は靑いとか、甲は花の色が白で乙は赤いとか、または甲は葉の幅が廣くて乙は狹いとか、甲は莖が長くて乙は短かいとかいふ類であるが、かやうに相對する性質の中で、一方が優勢で他が劣勢である場合を明にしたのは、メンデルの功績である。なほメンデルは實驗の結果、碗豆に於ては豆の形の丸いこと、莢の形の簡單に膨れたること、若い莢の綠色なること、莖の丈の高いことなどが、優勢の性質で、之に對し、豆の形に角あること、莢の形の豆粒の間に縊れてあること、若い莢の黃色なること、莖の丈の低いことなどが、劣勢の性質であることを確めた。またメンデル以後の研究によると、かやうなことは、碗豆の外にも、動物・植物ともに隨分澤山あつて「たうもろこし」では粒の黃色が優勢で白が劣勢、兎では毛の短いのが優勢で長いのが劣勢、鷄では普通の羽毛が優勢で、烏骨鷄のやうな絹樣の羽毛が劣勢である如きは、最も確な例である。

 

Kurosiromadarareguhon

[黑白斑のレグホーン]

[やぶちゃん注:講談社学術文庫版を用いた。]

 

 然しながら、二品種の間に雜種を造れば、いつでもこゝに述べた如きことが生ずるかといふと、決してさやうではない。雜種は當然兩親の間の性質を有すべき筈とは誰も考へることであるが、近年盛に行はれる實驗の結果で見ても、雜種には樣々な場合がある。碗豆の如くに一方の親の性質のみが現れるものもあるが、また兩親の中間に位する性質を示すものが頗る多い。例へば「おしろい花」の赤い花の咲く品種と、白い花の咲く品種との間の雜種には、桃色の花が咲く。丈の高い「たうもろこし」と丈の低い「たうもろこし」との間には、中位の丈の雜種が出來る。白い卵を産む鷄の品種と、茶色の卵を産む品種との開の雜種は、薄茶色の卵を産み、耳の長い兎と耳の短い兎との間には、中位の耳を持つた子が生れる。京都の動物園には西藏産の二瘤駱駝とアラビヤ産の一瘤駱駝とが飼つてあるが、その間に生れた雜種は二つの瘤が連續して一つになつた如き中間の形の瘤を持つて居る。兩親の中間の性質というても、必ずしも兩親の性質を合せて二で割つたやうな性質が、總べての子に揃つて現れるといふわけではない。尾の長い犬と尾の短い犬との間には、尾の稍長い稍短い子など、樣々なものが生れる。白人と黑人との間の子も之と同樣で、やはり兩親の間の色を有するが、その中に色の黑さに種々の程度がある。また、生れた子の體部によつて、兩親の性質の優劣の關係が違ふものがある。例へば、頭は父に似て、尾は母に似るとか、左半は男親の通りで、右半は女親の通りとかいふ如き場合がある。四本指のドルキンと五本指のドルキンとの間には、往々左足には四本、右足には五本の指のある雛の生れることがある。黑と白との兩親の性質が子の體部により優劣を異にすれば、その結果として斑[やぶちゃん注:「まだら」。]が生ずるが、黑いレグホーンと白いレグホーンとの間には、時々全身に黑白の細かい斑點のあるものが生れる。その他、最も相異なる鳩の變種の間に雜種を造ると、往々兩親の何れにも似ずして、却つて野生の「かわら鳩」に似たものが生ずることは已にダーウィンも知つて居たが、鷄なども甚しく違つた品種間の雜種に、今日マレイ地方に棲んで居る野生の鷄にそのまゝのものが生ずる。これらは恐らく先祖の姿に戾つた譯であらうが、「おしろい花」の白い品種と黃色の品種との間に、赤と桃色との斑の花の咲く雜種の出來た場合の如きは、餘程關係が複雜で、なかなか一々の性質の遺傳の道筋を明にすることは容易でない。

[やぶちゃん注:「おしろい花」ナデシコ目オシロイバナ科オシロイバナ属オシロイバナ Mirabilis jalapa。花は赤・黄・白及び絞り模様(同じ株でも複数の色の花を咲かせる場合もある)などであるが、白と黄の絞りは少ない。

「たうもろこし」単子葉植物綱イネ目イネ科トウモロコシ属トウモロコシ Zea maysウィキの「トウモロコシによれば、『トウモロコシは長い栽培の歴史の中で用途に合わせた種々の栽培品種が開発されている。雑種強勢(異なる品種同士を交配すると、その子供の生育が盛んとなる交配の組み合わせ)を利用したハイブリッド品種が』一九二〇年頃から『アメリカで開発され、以後収量が飛躍的に増加した。また、近年では遺伝子組換えされた栽培品種も広がりつつある』。『一般にトウモロコシの分類に用いられるのは、粒内のデンプンの構造によって種を決める粒質区分で』、『種によって用途や栽培方法に違いがある』とある。我々がよく呼び、食用としている「スイートコーン(甘味種)」は Zea may svar.saccharata である。

「西藏産の二瘤駱駝」「西藏」は「チベット」であるが、ここは現在の中国のチベット自治区も含まれ、その周辺域まで広げておいた方がよいであろう。ウシ目ラクダ科ラクダ属フタコブラクダ Camelus ferus。中央アジア原産で、トルコ以東のイラン・カスピ海沿岸・中央アジア・新疆ウイグル自治区やモンゴル高原付近にまで棲息している。頭数は百四十万頭程度で、ラクダのうちの十%程度に過ぎない(後は総てヒトコブラクダ)。しかもこれらは家畜個体の頭数であり、野生のフタコブラクダの個体数は世界中で約千頭しかいないとされており、野生のフタコブラクダは二〇〇二年、国際自然保護連合(IUCN)によって絶滅危惧種に指定されている(ウィキの「ラクダ」に拠る。次も同じ)。旧版やそれの一つを底本としている講談社学術文庫版では『滿州産』『満州産』となっている。どちらが正しいのかであるが、実際に運ばせたのは中国東北部(旧満州地方)で家畜していた個体であったのだろうが、それは恐らく、中央アジアから運んだものであるから、まあ、この「西藏」の方が当時としてはよりよいとは思う。

「アラビヤ産の一瘤駱駝」ヒトコブラクダ Camelus dromedaries。西アジア原産で、インドやインダス川流域から西の、中央アジア・イランなどの西アジア全域、アラビア半島・北アフリカ・東アフリカを中心に広汎に分布している(現在、飛び地的にオーストラリア中央部の砂漠地帯に約七十万頭が棲息するが、これは人為移入したものが野生化したもの)。なかでも特に「アフリカの角」地域(Horn of Africa:アフリカ大陸東端のソマリア全域とエチオピアの一部などを占める半島部の広域呼称)では現在でも遊牧生活に於いてラクダが重要な役割を果たしており、世界最大のラクダ飼育地域となっている。但し、これは総てが家畜個体で、ヒトコブラクダの個体群はほぼ完全に家畜個体群に飲み込まれたため、野生個体群は絶滅している。

「ドルキン」鳥綱キジ目キジ科キジ亜科ヤケイ属セキショクヤケイ亜種ニワトリ(ガルス・ガルス・ドメスティカス)Gallus gallus domesticus の英国産品種の一つである“Dorking chicken”のことであろう。英文ウィキを参照されたい。

「レグホーン」“Leghorn”。レグホンとも呼ぶイタリア原産のニワトリの品種。イギリス・アメリカで改良された。白色・褐色・黒色があるが、白色が最も産卵数が多い。「レグホン」はイタリアのトスカーナ州の西のリグリア海に面した港町リボルノ(Livorno(グーグル・マップ・データ))が本種の特産地であったことから、その英語名に由来する。

「かわら鳩」ハト目ハト科カワラバト属カワラバト Columba livia。最も普通に見かけ、我々が通常、「鳩」と呼んでいる種である。

「マレイ地方」現在のマレー半島(Malay Peninsula)。太古には周辺域に広がるスンダ列島とともに大スンダ大陸を形成しており、その頃からの生物では島嶼部からマレー半島にかけて原生棲息しているような種群が多く見られる。現在、北西部はミャンマーの一部、中央部と北東部はタイの一部、南部の大部分はマレーシアである(ウィキの「マレー半島」に拠った)]

 

 また兩親の性質に明に優劣があつて、第一代雜種が兩親の孰れか一方に似る場合でも、いつも必ずメンデルの碗豆に於ける如く、簡單に規則正しく行はれるとは限らぬ。例へば同一の性質でも相手によつて或は優勢となり、威は劣勢となることもある。黃色い繭を造る蠶の甲品種が、白い繭を造る乙品種に對しては優勢で、その間には黃色い繭のみを造る雜種を生むに拘らず、同じく白い繭を造る丙品種に對しては劣勢で、それとの間に出來た雜種は悉く白い繭を造るといふ如き例もあり、また蠶の甲乙二品種の間の雜種で、繭の色が兩親の孰れに似るか全く不規則で定まらぬこともある。また、若いときには親の一方に似、成長するに隨つて、他の一方の親に似るものもある。例へば、殼の黃色い蝸牛と殼の紅い蝸牛との間の雜種では、幼時に出來た殼部は黃色で、成長してからは紅い殼を生じた。鳥類にも之に類する例がある。その他、子が雄ならば一方の親なる甲品種の性質が優つて現れ、雌ならば他の一方の親なる乙品種の性質が優つて現れるといふやうな場合も少くない。

 以上述べた通り、相異なる兩親の性質が子に傳はるには、種々の仕方があつて、然もその間には判然した境界は附けられぬ。單に優劣の點のみに就いて論じても、白と赤との間に中間の桃色の生ずる如き殆ど優劣のない場合から、碗豆の如くに優劣の明なものまでの間に、無數の階段がある。また桃色の最も濃いのは赤と區別が出來ず、桃色の最も薄いのは白と區別が出來ぬ。試に赤インキに二割の水を混じて字を書いて見るに、元の色との區別は到底分らぬ程であるから、第一代雜種が全く一方の親のみに似て居ても、必ずしも他の方の親の性質が少しも混じて居らぬとの斷言は出來ぬ。赤と白との斑も、赤が段々減ずれば終には全く白となり、白が段々減ずれば終には全く赤となる。赤と白との斑が細かくなれば絞りとなり、霜降りとなり、更に細かくなれば全部一やうの桃色となる。斯く考へると、雜種には兩親の性質が或る割合に相混じて現れるのが通則であつて、メンデルの實驗した碗豆の如きはその一方の極端に位する特殊の場合と見倣すが至當であろう。メンデルは偶然にも初め碗豆を用ゐて實驗したから、兩親の性質が雜種の體内で相爭ひ、勝つた方が負けた方を壓服して居る如くに想像したが、若し他の材料を用ゐたならば、恐らく雜種には常に兩親の性質が或る形に相混じて現れることが明に知れて、優劣の區別には斯くまで重きを置かなかつたかも知れぬ。且碗豆の場合と雖も、第一代雜種が一方の親と全く同一で、少しも相違がないやうに見えるのも、或は見る人に識別力が足らぬためであるかも知れぬといふことに氣が附いたであらう。

 

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