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2018/06/17

諸國里人談卷之二 雇天狗

 

   ○雇天狗(てんぐにやとはる)

正德のころ、江戸神田鍋町、小間物商(あきな)ふ家の、十四、五歳の調市(でつち)、正月十五日の暮かた、錢湯へ行〔ゆく〕とて、手拭など持〔もち〕、出〔いで〕けり。少時(しばらく)して、裏口に彳(たゝず)む人、あり。

「誰(たれ)ならん。」

ととがむれば、かの調市也。股引(もゝひき)・草鞋(わらじ)の旅すがたにて、藁苞(わらづと)を杖にかけて、内に入〔いり〕けり。主人、了(さと)き男にて、おどろく躰(てい)なく、

「まづ、わらんじを解(とき)、足をすゝぐべし。」

といへば、かしこまりて足をあらひ、臺所の棚より、盆を出〔いだ〕し、苞(つと)をほぐせば、野老(ところ)なり。これを積(つみ)て、

「土産なり。」

とて出〔いだ〕しぬ。主人の云〔いはく〕、

「今朝(けさ)は、いづかたよりか、來れる。」

「秩父の山中(さんちう)を、今朝(けさ)出〔いで〕たり。永々(ながなが)の留主(るす)、御事かけにぞ侍らん。」

といへり。

「いつ、家を出〔いで〕たる。」

と問ふに、

「舊臘(ふゆとし)十三日、煤(すゝ)をとりての夜、かの山に行〔ゆき〕て、きのふまで、其所に、あり。每日の御客にて給仕し侍り。さまざまの珍物(ちんぶつ)を給はる。客は、みな、御出家にて侍る。きのふ、仰(あふせ)つるは、

「明日は江戸へかへすべし。家づとに野老(ところ)をほるべし。」

とあるによつて、これを掘(ほり)ける。」

など、語りぬ。その家には、此もの、師走、出〔いで〕たる事を、曾て、しらず。其代(そのかはり)として、いかなるものか、化(け)してありけると、後にこそは、しりぬ。其後〔そののち〕、何の事もなく、それきりにぞ、すみける。

[やぶちゃん注:会話が多いので特異的に改行した。本話は既に柴田宵曲 妖異博物館 「天狗の誘拐」(1)の私の注で電子化してある。リンク先は天狗の神隠し風の話をよく集めてあり、それを読み易く現代語訳してもあるので、未読の方は同「(2)」と合わせてお薦めである。

「正德」一七一一年から一七一六年まで。

「神田鍋町」現在の東京都千代田区神田鍛冶町三丁目。この附近(グーグル・マップ・デ「調市(でつち)」「丁稚」(でっち)。 「でっち」の語源は諸説あり、弟子が変化した「でっし」の転じたとする説や、若者や身分の低いことを意味する漢語「丁稚(ていち)」の転訛とする説、他に「小者」であることから、双六で二つの骰子(さい)の目がともに一になる意味の「重一・調一・畳一」(総て「でっち」と読む)の転訛とする説等がある。従がって漢字表記は当て字と考えた方が無難で、他にここに出る「調市」の他、「丁兒」「童奴」等がある。

「藁苞(わらづと)」藁を編んで物を包むようにしたもの。そこから転じて「土産物」の意ともなった。

「野老(ところ)」ここは広義の山芋のこと。

「御事かけにぞ侍らん」ご迷惑をお掛け致しました。

「舊臘(ふゆとし)」音で「きうらふ(きゅうろう)」で「臘」「臘月」で陰暦十二月の意であるから、新年になってから、「昨年の十二月」の意で用いる語である。

「十三日、煤(すゝ)をとりての夜」年末、正月に備えて、家の内外を大掃除する「煤払い」のこと。江戸時代には十二月十三日に行うのが恒例であった。

「家づと」「家苞」。土産。]

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