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« 進化論講話 丘淺次郎 第十七章 變異性の研究(一) 序・一 食物による變異 | トップページ | 大和本草卷之八 草之四 雞冠菜(トサカノリ) »

2018/06/30

大和本草卷之八 草之四 鷓鴣菜(マクリ)

 

【外】

鷓鴣菜 閩書曰生海石上散碎色微黑小兒腹中

 有蟲病少食能愈○甘草ト同煎用ユレハ小兒腹中

 蟲ヲ殺ス初生ニモ用ユ

○やぶちゃんの書き下し文

【外】

「鷓鴣菜(マクリ)」 「閩書〔(びんしよ)〕」に曰はく、『海石の上に生ず。散碎〔(さんさい)し〕、色、微黑。小兒、腹中に蟲病〔(ちうびやう)〕有〔るに〕、少し食へば、能く愈〔(い)ゆ〕。』〔と〕。○甘草と同〔(とも)に〕煎じ用ゆれば、小兒〔の〕腹中の蟲を殺す。初生にも用ゆ。

[やぶちゃん注:ここで記されているものの内、本邦産の「マクリ」についての叙述部分のそれ(益軒は「閩書」(既出既注の明の何喬遠(かきょうえん)撰になる福建省の地誌「閩書(びんしょ)南産志」のこと)のそれも全く同一のものとしているのだが)は、

紅藻植物門紅藻植物亜門真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目フジマツモ科アルシディウム連マクリ属マクリDigenea simplex

ではある(問題あり。後注参照)。

 マクリは「海人草」で「まくり」と読ませるのが一般的で、二〇〇四年平凡社刊の田中二郎解説の「基本284 日本の海藻」によれば、分布は『太平洋沿岸南部、南西諸島』で、大きさは高さ十~二十センチメートル、枝の長さは二~六ミリメートル。『日本には本種のみが知られる。カイニンソウ(海人藻)とも呼ばれ、虫下しの薬として、古くからよく知られた海藻である。岩や、サンゴ礁の死んだサンゴの上に生育する。タイドプールなどにも多い。円柱状のからだには多数の毛状の枝があって、それに小型の藻が、数多く付着することがあり、元の藻体の形状が想像できないほど』、『太くなることがある』とある。他の小型藻類が多数付着していて、生態写真ではどこの部分が「マクリ」の本体か、どのような形状かが正直、全く判らぬ写真が実は多い。そんな中で、目から鱗なのが、サイト「生きもの好きの語る自然誌」の鈴木雅大氏記載の「マクリ」である。是非、参照されたい。その薬効成分はカイニン酸で、ウィキの「カイニン酸によれば、『カイニン酸(Kainic acid)は『結晶性の固体で、水によく溶け』る。昭和二八(一九五三)年に『竹本常松らにより、虫下しとして用いられていた紅藻のマクリ(海人草=カイニンソウともいう、学名Digenea simplex)から発見・命名された。これは、カイニン酸が寄生虫の回虫やギョウチュウの運動を』、『最初』、『興奮させ、のち』、『麻痺させることによる』とされ、『この作用は』『カイニン酸がアゴニスト』(Agonist:生体内の受容体分子に働いて神経伝達物質やホルモンなどと同様の機能を示す、本来、当該生物が体内に保持しない「作動薬」のこと。現実に生体内で働いている、特定の受容体(レセプター:receptor)に特異的に結合する物質の場合はリガンド(ligand)と呼ばれる)『としてグルタミン酸受容体に強く結合し、神経を過剰に興奮させることによって起こる。このため、神経科学分野、特に神経細胞死の研究のために天然抽出物及び合成品が用いられている』とある。

 但し、冒頭の漢名表記が「鷓鴣菜」となっている点と、益軒がそのしょっ鼻に「閩書」を引いている点で、実は大きな問題があるのである。

 まず、「ウチダ漢方和薬株式会社」公式サイト内の「生薬の玉手箱」の「【マクリ】」(同社情報誌『ウチダの和漢薬情報』の平成九(一九九七)年三月十五日号より転載されたもの)に、以下のようにある。

   《引用開始》

 一方、マクリは「鷓鴣菜」の名でも知られますが、鷓鴣菜の名が最初に現れるのは歴代の本草書ではなく、福建省の地方誌である『閩書南産誌』だとされています。そこには「鷓鴣菜は海石の上に生え、(中略)色わずかに黒く、小児の腹中蟲病に炒って食すると能く癒す」とあり、駆虫薬としての効果が記されています。

 わが国におけるマクリ薬用の歴史は古いようですが、駆虫薬としての利用はこの『閩書南産誌』に依るものと考えられ、江戸時代の『大和本草』には、それを引いて「小児の腹中に虫がいるときは少しく(炒っての間違い)食すれば能く癒す」とあります。しかし、引き続いて、「また甘草と一緒に煎じたものを用いれば小児の虫を殺し、さらに初生時にも用いる」とあり、この甘草と一緒に用いるというのは『閩書南産誌』にはないので、この記事は古来わが国で利用されてきた方法が融合したものではないかと考えられます。

   《引用終了》

『「大和本草」の記載もあって、何ら、問題ないじゃないか?』と思われるかも知れぬが、別な生薬解説サイト「健康食品辞典」の「鷓鴣菜」を読むと、「鷓鴣菜」は「マクリ」ではないと書かれてあるのである(下線太字やぶちゃん。読点を追加し、アラビア数字を漢数字に代え、記号の一部も変更させて貰った)。

   《引用開始》

鷓鴣菜(しゃこさい)

 温暖な地域の沿岸や河口付近に分布する海藻コノハノリ科のセイヨウアヤギヌ(Caloglossa leprieurii)の全藻を用いる。かつて鷓鴣菜を日本の駆虫薬である海人草の別名とする説もあったが、海人草は紅藻類のフジマツモ科のマクリ(Digenea simplex)のことである。ちなみに鷓鴣とは中国南部に生息する鶉に似た鳥のことである。

 アヤギヌは一~四センチメートルくらいの紫色の偏平な海藻で、岩や防波堤に付着している。鷓鴣菜は海人草と同様にカイニン酸を含み、鷓鴣菜の煎液には回虫の駆虫作用が認められる。内服による副作用はほとんどないが、とき下痢、悪心、めまいがみられることがある。

 漢方でも駆虫の効能があり、回虫や蟯虫の駆虫薬として、大黄・甘草と配合して用いる(三味鷓鴣菜湯)。また南西諸島から台湾[やぶちゃん注:「に生息する」の脱文か?]、フジマツモ科のハナヤナギ(Chondria armata)を南西諸島ではドウモイと呼んで、古くから駆虫薬として用いていた。その有効成分はドウモイ酸と呼ばれ、カイニン酸より強力といわれる。

   《引用終了》

ここで挙げられているセイヨウアヤギヌ(西洋綾絹)は、

真正紅藻綱マサゴシバリ亜綱イギス目コノハノリ科アヤギヌ連アヤギヌ属セイヨウアヤギヌ Caloglossa leprieurii

であるが、先の鈴木雅大氏の「セイヨウアヤギヌ」を見られたい。見られれば、マクリとは確かに科のタクソンで違う、全く異なった紅藻であることが判る。鈴木氏の解説によれば、本種は『亜熱帯域や熱帯域に多くみられる紅藻類で,日本では沖縄などの南西諸島に分布してい』るとある(リンク先の画像は、驚くべきことに、静岡県南伊豆町青野川青野川(ここ(グーグル・マップ・データ))河口に棲息しているものの発見の個体群なので、この青野川が「セイヨウアヤギヌの北限」あると言いたくなるところなのだが、実は『青野川河口には』昭和三四(一九五九)年に『種子島から移植されたというメヒルギ』(真正双子葉綱キントラノオ目ヒルギ科メヒルギ属メヒルギ Kandelia obovata)の群落があって、所謂、「マングローブ林」を形成しているという。『アヤギヌ類はマングローブ域に群落を形成する「マングローブ藻類」である』ことから、この『移植したメヒルギにセイヨウアヤギヌの藻体あるいは胞子(果胞子や四分胞子)が付着しており』、『それが青野川河口に移入』・『定着したという可能性が考えられます。青野川の紅藻類の分布や生育状況に関する過去の記録は無いので』、『セイヨウアヤギヌがマングローブの移植前から青野川に自然分布していた可能性も否定出来ませんが』、『現在のところ青野川以外の本州太平洋沿岸や四国沿岸でセイヨウアヤギヌが見つかっていないことから』、『人為的な移入の可能性は低くないと思います。種子島及び南西諸島で採集したセイヨウアヤギヌとの比較』、『特にDNA配列を用いた系統地理学的な解析が必要だと思います』とある。うー、楽しそうだなぁ!)。

 以上から、私は、「閩書南産志」所収の「鷓鴣菜」は「マクリ」ではなく、上記の「セイヨウアヤギヌ」或いは、先のサイトの掲げた植生海域が重なる感じのする、

イギス目フジマツモ科ヤナギノリ連ヤナギノリ属ハナヤナギ Chondria armata

を指しているのではないか? と推理するのである。而して「鷓鴣菜」を無批判に「マクリ」と当て読みして難読文字の読みばかり知っていることを自慢する輩は、同時にそれが生物学的には誤謬であることを合わせて学ぶべきであるとも言っておく。ともかくも大方の御叱正を俟つ。

 最後に。……小学校時代、チョコレートのように加工して甘みで誤魔化した「マクニン」が「ポキール」による回虫検査で卵が見つかった者に配られていたのを鮮明に思い出す。……何故なら、私はあのチョコレートのような奴が欲しくてたまらなかったから。そのために秘かにキールをする時には(リンク先はグーグル画像検索「ポキール」! 懐かしいぞう!!)、回虫の卵がありますようにと願ったものだった。……遂にその願いは叶わなかったから、私は今も、あの「マクリ・チョコレート」の味を、知らないのである…………

 

「鷓鴣菜」この「鷓鴣」(しやこ(しゃこ))とは、広義にはキジ目キジ科Phasianidae の鳥のうちでウズラ(ウズラ属ウズラ Coturnix japonica)より一回り大きく、尾が短く、茶褐色の地味な色彩をしたものの一般的な呼称である。狭義にはキジ科シャコ属Francolinusに含まれる四十一種を指すものの、このシャコ類は殆んど本邦に棲息していないから、この「鷓鴣」を日本人は鶉の別称的なニュアンスにイメージするに過ぎぬと私は思っている。因みに、これが「閩書南山志」(「閩」は現在の福建省にあった旧国名)を始めとする、中国(特に南部)での呼称であるとするならば、私は極めて高い確率で、この「鷓鴣」は中国南部・東南アジア・インドに棲息するシャコ属コモンシャコ(小紋鷓鴣)Francolinus pintadeanus に比定してよいと考えている。同種はズバリ、中国では「中華鷓鴣」「中國鷓鴣」と呼ばれているのである。さても迂遠の注になったが、「鷓鴣菜」というのは、その藻体の色からかと思うに、コモンシャコは結構、単体で更地で見ると、まさに小さな紋模様がくっきりしていて「マクリ」「セイヨウアヤギヌ」「ハナヤナギ」のくすんだ地味な色は孰れも似ていない。しかし、考えてみると、コモンシャコはあれで草地に入り込むと、叢の中に溶け込んでしまって、逆にカモフラージュの役割をしている。さても、「マクリ」「セイヨウアヤギヌ」「ハナヤナギ」は植生していても、下手をすると、それを見逃すほど、岩礁の岩に似ているのだ。それを昔の中国の人は、得意の比喩でかく呼称したのではあるまいか?

「散碎」恐らく藻体(小さいが)が拡大して見ると、細かく分岐していることを言っているものと思う。

「微黑」「マクリ」も「セイヨウアヤギヌ」も孰れも微かに黒いと言える。

「甘草と同〔(とも)に〕煎じ用ゆれば」先の「ウチダ漢方和薬株式会社」公式サイト内の「生薬の玉手箱」の「【マクリ】」の解説から、かく混合させて煎じるとして訓読してみた。

「初生」生まれてそう経たない乳児。しかし、乳しか飲まない乳児の消化器の中には寄生虫はいないし、「マクリ」のカイニン酸は乳児には如何なものか? 過剰に与えれば逆によろしくないように思われる。]

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