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2018/07/07

大和本草卷之八 草之四 海薀(モヅク)

 

海薀 本草時珍云縕亂絲也其葉似之故名正月

 取タルハワカク柔ニ乄良シ鹽ニ淹セハ久ニ堪フ薑醋ニ

 テ食フ性冷利食物本草所載苔菜ヲ向井氏ハモツ

 クナルヘシト云ヘリ食物本草曰苔菜生海中浮波面其

 形縷々線ノ如シ鹽醋ニ拌食ス味淸鮮トイヘリ

○やぶちゃんの書き下し文

「海薀(モヅク) 「本草」〔に〕時珍〔が〕云はく、『縕は亂絲なり。其の葉、之れに似る。故に名づく。』〔と〕。正月に取りたるは、わかく、柔〔(やはらか)〕にして、良し。鹽に淹〔(ひた)〕せば、久〔(ひさ)〕に堪ふ。薑醋〔(しやうがず)〕にて食ふ。性、冷利なり。「食物本草」載する所の「苔菜〔(たいさい)〕」を、向井氏は『「モヅク」なるべし。』と云へり。「食物本草」に曰はく、『苔菜は海中に生じ、波の面に浮ぶ。其の形、縷々〔(るる)として〕線(いとすぢ)のごとし。鹽醋〔(しほず)〕に拌〔(ま)〕ぜ、食す。味、淸鮮。』といへり。

[やぶちゃん注:「モズク」は「水雲」「海蘊」等と漢字表記し、そのままの標準和名種は

褐藻綱ヒバマタ亜綱シオミドロ目ナガマツモ科モズク属モズク Nemacystus decipiens

で、他にナガマツモ科Chordariaceaeに属するモズク類の総称であるが、本邦で食用として流通している「モズク」は、上記の真正の「モズク」ではなく、

ナガマツモ科イシモズク属イシモズクSphaerotrichia divaricate

ナガマツモ科オキナワモズク属オキナワモズク Cladosiphon okamuranus

とが九割以上を占めている。しかし、私には一九八〇年代まではモズクかイシモズクが「モズク」であり、今はなき大船の沖繩料理店「むんじゅる」でオキナワモズクを初めて食した際には、私には「このモズクでないモズクに少し似た太い別種の海藻を食品名としてかく命名した者は大きな誤りを犯している」(と私は心底そう感じた)と、その後も長く思い込んでいたものであった。また、これほどオキナワモズクが「モズク」として席捲するとも思っていなかった(私は沖繩を愛すること、人後に落ちないつもりであが、こと、モズクに関して言えば、あの「オキナワモズク」を「モズク」と呼称することについては、私の『味覚・食感記憶』が今も強い違和感を覚えさせるのである。但し、オキナワモズクの天ぷらは美味い)。イシモズクもいやに黒々して歯応えも硬過ぎる気がして、やはり「モズク」と呼称したくないのが、正直な気持ちである。但し、現在、沖縄に於いて、全国への流通量が少なくなっていた真正のモズクNemacystus decipiens(奇異なことに「オキナワムズク」を「モズク」と呼称するようになってしまい、本来の真正モズクであるそれが流通名で「イトモズク」とか「キヌモズク」とか呼ばれるようになってしまったのは著しく不当であると考えている)の養殖が行われており、商品として沖繩産でありながら『おや? これはオキナワモズクではないぞ? 「モズク」だぞ!』と感じさせるものが出回るようになったのは嬉しい限りである(それがまた沖繩産であることも快哉を叫びたい)。一般にはモズク Nemacystus decipiens 等が同じ褐藻綱のホンダワラ(ヒバマタ目ホンダワラSargassum fulvellum)等に付着することから、「藻に付く」「もつく」となったのが語源とされるが、実は我々の知る上記のオキナワモズク・イシモズクは他の藻に絡みつかず、岩石に着生するのである(されば和名語源から言えばオキナワモズクとイシモズクはモズクに非ずということになるのである)。なお、本邦には他に、

イシモズク属クサモズク Sphaerotrichia divaricata(食用)

モズク科フトモズク属フトモズク Tinocladia crassa(食用。鈴木雅大氏サイト「生きもの好きの語る自然誌(Natural History of Algae and Protists)」のフトモズクのページによれば、加藤氏の採取したものには、高さ三十~四十センチメートル、主軸直径一センチメートルにも及ぶものがあるとされる。リンク先に写真有り)

ニセモズク科ニセモズク属ニセモズク Acrothrix pacifica(ヒバマタ亜綱コンブ目ツルモ属ツルモ Chorda asiatica に着生。薬剤素材となっているから、食用は可能と思われる)

等の近縁種がいる。なお、鈴木氏は先のサイトのクサモズクのページで、クサモズク Sphaerotrichia divaricata 『個人的には最も美味しいモズクの仲間』とされておられる。岩手に行ったら、入手するぞ!

『「本草」〔に〕時珍〔が〕云はく、『縕は亂絲なり。其の葉、之れに似る。故に名づく。』〔と〕』「本草綱目」「草之八」の「海蘊」は全体が短い。

   *

海薀【溫・縕・、三音。「拾遺」。】

校正自草部移入此。

釋名時珍曰、「縕亂絲也。其葉似之故名。」。

氣味鹹、寒。無毒。

主治癭瘤結氣在間下水【藏器】。主水廕【蘇頌。】。

この時珍の「海薀」の「薀」の「縕」は「亂絲」の意と記すが、これ、よく意味が判らないのだが、「縕」は実は麻(バラ目アサ科アサ属 Cannabis。或いはカンナビス・サティバ(大麻草)Cannabis sativa を指す。だから、これはアサ類の葉っぱに似ているという意味であろう。しかし、この「縕」の字自体に派生的な「水草」(淡水産顕花植物)の意があり、「マツモ」や「キンギョモ」を指し、これまた、「マツモ」が実は狭義の双子葉植物綱スイレン目マツモ科マツモ Ceratophyllum demersum var.demersum を指すに留まらないこと、同様に「金魚藻」と呼称される種も極めて多種多様な水草群を含んでいること等から、混迷を極めてしまうので、この話はここまでとしておく。なお、モズク Nemacystus decipiensという学名もこれ、属名がギリシャ語の「Nema」(糸)と「cystus」(嚢)の合成で、種小名は「虚偽の・欺瞞の」という意味なのである。

「鹽に淹〔(ひた)〕せば、久〔(ひさ)〕に堪ふ」塩に漬けて塩蔵すれば、永く保存に耐える。

「食物本草」元の李東垣の著(但し、出版は明代の一六一〇年)になる「東垣食物本草」であろう。

「薑醋〔(しやうがず)〕」生姜酢。

「冷利」冷たくすっきりした食感を指すのではなく、漢方で体温を速やかに下げるの意であろう。

「向井氏」本草学者で医師の向井元升(げんしょう 慶長一四(一六〇九)年~延宝五(一六七七)年)であろう。ウィキの「向井元升」によれば、『肥前国に生まれ』で五『歳で父、兼義とともに長崎に出て、医学を独学し』、二十二『歳で医師となる』。慶安四(一六五一)年、ポルトガルの棄教した宣教師クリストファン・フェレイラの訳稿を元に天文書『乾坤弁説』を著し』、承応三(一六五四)年には『幕命により、蘭館医ヨアン(Hans Joan)から通詞とともに聞き取り編集した、『紅毛流外科秘要』』全五『巻をまとめた』。万治元(千六百五十八)年、『家族と京都に出て医師を開業した』。寛文一一(一六七一)年、『加賀藩主前田綱紀の依頼により『庖厨備用倭名本草』を著した。『庖厨備用倭名本草』は、中国・元の李東垣の『東垣食物本草』などから食品』四百六十『種を撰び、倭名、形状、食性能毒等を加えたものである』。なお、彼の『次男は俳人の向井去来』である。ここで『向井氏は『「モヅク」なるべし。』と云へり』というのは、この「庖厨備用倭名本草」に書かれている。幸いにして国立国会図書館デジタルコレクションの「庖厨備用倭名本草」第三巻の画像で当該部「苔菜(タイサイ/右ルビ:モヅク/左ルビ)」を探し当てることが出来た。である。そこで向井は「モヅクなるべし」という推定ではなく、「元升曰此ノ説ヲミレハ今俗ニ云モヅク也」と断定している。但し、「東垣食物本草」の原典に当たることが出来ないので私はこの李東垣の『苔菜は海中に生じ、波の面に浮ぶ。其の形、縷々〔(るる)として〕線(いとすぢ)のごとし。鹽醋〔(しほず)〕に拌〔(ま)〕ぜ、食す。味、淸鮮』という見解(しかし「苔菜」という呼び名を除けば、確かにこれはモズクの記載としてしっくりはくる)及びそれに基づく向井及び貝原の見解、則ち、「苔菜」=「モズク」とする主張への受け入れを留保する。何故なら、李東垣より後の「本草綱目」の巻二十六の「菜之一」の「紫」の異名に「苔菜」が出るのであるが、本文を見ると、水辺に植生するとあるものの、それは淡水で「海中」の文字は全くなく、しかも植生するのは水の中ではない。しかもこの「紫」とは現在のキンポウゲ目ケシ科キケマン属ムラサキケマン Corydalis incisa か、その近縁種を指すように思われ、同項目前も「菫」で、これは明らかに陸生植物であるからである。]

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