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2018/10/31

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 春夜

 

  春  夜

 

淺利のやうなもの、

蛤のやうなもの、

みぢんこのやうなもの、

それら生物の身體は砂にうもれ、

どこからともなく、

絹いとのやうな手が無數に生え、

手のほそい毛が浪のまにまにうごいてゐる。

あはれこの生あたたかい春の夜に、

そよそよと潮みづながれ、

生物の上にみづながれ、

貝るゐの舌も、ちらちらとしてもえ哀しげなるに、

とほく渚の方を見わたせば、

ぬれた渚路には、

腰から下のない病人の列があるいてゐる、

ふらりふらりと步いてゐる。

ああ、それら人間の髮の毛にも、

春の夜のかすみいちめんにふかくかけ、

よせくる、よせくる、

このしろき浪の列はさざなみです。

 

[やぶちゃん注:「淺利」はママ(現行「浅蜊」と表記し、全集も例の強制補正でそうなってしまっているが、アサリ(斧足綱マルスダレガイ目マルスダレガイ科アサリ属アサリ Ruditapes philippinarum)の和名は「浅」い場所に棲息すること、「さり」は砂「利」(さり・じゃり)で砂のことを指すことに由来するから、「淺利」を誤字として書き換えるのは私にはいただけない)。幼年期より海産無脊椎動物に異様に興味を持ち続け、小学五年で小泉八雲の怪談・奇談にのめり込んだ私が、中学時代に萩原朔太郎に致命的に惹きつけられてしまうことになったのは、まさにこの一篇によってであった。初出は『ARS』(創刊号)大正四(一九一五)年四月号。殆んど変化はないが、初出形を以下に示す。

   *

 

  春夜

 

淺利のやうなもの、

蛤のやうなもの、

みぢんこのやうなもの、

それら生物の身體は砂にうもれ、

どこからともなく、

絹糸のやうな手が無數に生え、

手のほそい毛が浪のまにまにうごいて居る、

あはれこの生あたたかい春の夜に、

そよそよと潮みづながれ、

生物の上にみづながれ、

貝類の舌もちらちらとしてもえ哀しげなるに、

遠く渚の方を見わたせば、

ぬれた渚路には、

腰から下のない病人の列があるいて居る、

ふらりふらりと步いて居る、

ああ、それら人間の髮の毛にも、

春の夜のかすみいちめんにふかくかけ、

よせくる、よせくる、

この白き浪の列はさざなみです。

 

   *]

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