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2018/11/01

萩原朔太郎詩集「月に吠える」正規表現版 戀を戀する人

 

  戀を戀する人

 

わたしはくちびるにべにをぬつて、

あたらしい白樺の幹に接吻した、

よしんば私が美男であろうとも、

わたしの胸にはごむまりのやうな乳房がない、

わたしの皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、

わたしはしなびきつた薄命男だ、

ああ、なんといふいぢらしい男だ、

けふのかぐはしい初夏の野原で、

きらきらする木立の中で、

手には空色の手ぶくろをすつぽりとはめてみた、

腰にはこるせつとのやうなものをはめてみた、

襟には襟おしろひのやうなものをぬりつけた、

かうしてひつそりとしなをつくりながら、

わたしは娘たちのするやうに、

こころもちくびをかしげて、

あたらしい白樺の幹に接吻した、

くちびるにばらいろのべにをぬつて、

まつしろの高い樹木にすがりついた。

 

[やぶちゃん注:五箇所の太字は底本では傍点「ヽ」。「あろうとも」はママ。前の「愛憐」の注で示した通り、風俗壊乱の一篇として、書店での発売分の初版からは切り取られて、存在しなかった

 初出は『詩歌』大正四(一九一五)年六月号。大きな改変はないが、風俗壊乱とされた一篇の初出形なればこそ、示すこととする(太字は同前)。

   *

 

  戀を戀する人

 

わたしはくちびるにべにをぬつて、

あたらしい白楊の幹に接吻した、

よしんば私が美男であらうとも、

わたしの胸にはごむまりのやうな乳房がない、

わたしの皮膚からはきめのこまかい粉おしろいのにほひがしない、

わたしはしなびきつた薄命男だ、

ああ なんといふいぢらしい男だ。

けふのかぐはしい初夏の野原で、

きらきらする木立の中で、

わたしは空色の手ぶくろをすつぽりとはめてみた、

わたしの腰にこるせつとをはめてみた、

襟には襟おしろひのやうなものをぬりつけた、

かうしてひつそりとしなをつくりながら、

わたしは娘たちのするやうに、

こころもちくびをかしげて、

あたらしい白楊の幹に接吻した。

くちびるにばらいろのべにをぬつて、

まつしろの高い樹木にすがりついた。

 

   *

敢えて指摘するなら、大きな変化は大道具の樹木の違いである。初出は「白楊」で、これが「はくやう(はくよう)」と読まれるなら、

双子葉植物綱キントラノオ目ヤナギ科ヤマナラシ(山鳴らし)属ヨーロッパヤマナラシ変種ヤマナラシ Populus tremula var. sieboldii(木製の小箱の材料にしたことから「箱柳(ハコヤナギ)」の異名を持ち、「白楊」と書いて「はこやなぎ」と読む人も多い)

或いは、同じヤナギ科 Salicaceae

ヤマナラシ属ドロノキ(泥の木)Populus suaveolens

の異名となる。しかし、私などはつい、これを「しろやなぎ」と読みたくなり、そう読むなら、やはり同じヤナギ科の、

ヤナギ属シロヤナギ Salix jessoensis

となる。初出形のそれが、この三種の孰れを指すかは判らぬが、改変された、「白樺」

ブナ目カバノキ科カバノキ属シラカンバ Betula platyphylla

となると、如何にもな高原のロケーションとなって(それが萩原朔太郎の確信犯であろとも)、私にはやらせに過ぎた臭さを覚える。個人的には私が見慣れた、好きなシロヤナギがいい

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