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2019/01/15

萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) 思想は一つの意匠であるか

 

  思想は一つの意匠であるか

 

鬱蒼としげつた森林の樹木のかげで

ひとつの思想を步ませながら

佛は蒼明の自然を感じた

どんな瞑想をもいきいきとさせ

どんな𣵀槃にも溶け入るやうな

そんな美しい月夜をみた。

 

「思想は一つの意匠であるか」

佛は月影を踏み行きながら

かれのやさしい心にたづねた。

 

[やぶちゃん注:「𣵀」は「涅」の異体字であり、誤りではない(筑摩版全集は強制校訂で「涅」とする)。大正一〇(一九二一)年十二月号『日本詩人』初出。初出と殆んど(「𣵀槃」は「涅槃」)違わない点で、特異点である。「定本靑猫」では、「佛は蒼明の自然を感じた」の最後に句点を打つこと、「𣵀槃」を「涅槃」とすること、『「思想は一つの意匠であるか」』を『「思想は一つの意匠であるか?」』と疑問符を配する点で異なる。

「蒼明」見慣れない語であるが(小学館の「日本国語大辞典」にも収録されていない)、ごく最近はよく使われ、人名などにも用いられるらしい。そこでは「透明感のある蒼み掛かった白」を指すらしい。ここはやや緑の勝った生き生きとした自然総体の、そうした透明なイメージを色合いに表現したものではあろう。

『「思想は一つの意匠であるか」』ブッダよ、その通りだ。宗教も思想であり、思想はまた、ただ外見を美しく見せているだけの、装飾的考案、趣向に過ぎぬ。]

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