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2019/01/16

萩原朔太郞 靑猫(初版・正規表現版) 惡い季節

 

  惡 い 季 節

 

薄暮の疲勞した季節がきた

どこでも室房はうす暗く

慣習のながい疲れをかんずるやうだ

雨は往來にびしよびしよして

貧乏な長屋が並びてゐる。

 

こんな季節のながいあひだ

ぼくの生活は落魄して

ひどく窮乏になつてしまつた

家具は一隅に投げ倒され

冬の 埃の 薄命の日ざしのなかで

蠅はぶむぶむと窓に飛んでる。

 

こんな季節のつづく間

ぼくのさびしい訪問者は

老年の よぼよぼした いつも白粉くさい貴婦人です。

ああ彼女こそ僕の昔の戀人

古ぼけた記憶の かあてんの影をさまよひあるく情慾の影の影だ。

 

こんな白雨のふつてる間

どこにも新しい信仰はありはしない

詩人はありきたりの思想をうたひ

民衆のふるい傳統は疊の上になやんでゐる

ああこの厭やな天氣

日ざしの鈍い季節

 

ぼくの感情を燃え爛すやうな構想は

ああもう どこにだつてありはしない。

 

[やぶちゃん注:大正一一(一九二二)年一月号『日本詩人』初出。初出や「定本靑猫」に有意な異同は認めない。

「白雨」は「はくう」で、通常は「明るい空から降る雨・俄か雨・夏の夕立」を指すが、「冬」と「薄命の日ざし」と時制を示しており、冬の夕暮れのざっと降り出したそれである。減衰した夕暮れの日差しはあるが、そこに白っぽく見えるほどに俄かに降り出した雨を指している。

「古ぼけた記憶の かあてんの影をさまよひあるく情慾の影の影だ」「影の影」を中心に美事な一行である。]

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