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2019/02/18

蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 絕望

  

  
 
 

現(うつつ)こそ白(しら)けたれ、香油(にほひあぶら)の

艷(つや)も失(う)せ、物(もの)なへて呆(ほゝ)けて立てば、

夢(ゆめ)映(うつ)すわが心(こゝろ)、鏡(かがみ)に似(に)てし

性(さが)さへも、痴(うつ)けたる空虛(うつろ)に病(や)みぬ。

 

在(あ)るがまま、便(たづ)きなさ、在(あ)るを忍(しの)びて、

文(あや)もなし、曲(きよく)もなし、唯(ただ)あらはなり、

臥房(ふしど)なき人(ひと)の生(よ)や裸形(らぎやう)の「痛(いた)み」、

さあれ身(み)に惱(なや)みなし、淚(なみだ)も涸(か)れて。

 

追想(おもひで)よ、ここにして追想(おもひで)ならじ、

燈火(ともしび)の滅(き)えにたる過去(くわこ)の火盞(ほざら)と

煤(すゝ)びたり、そのかみの物(もの)はかなさを、

悅(よろこ)びを、などかまた照(て)らし出(い)づべき。

 

眼(ま)のあたり佗(わび)しげの徑(こみち)の壞(くづ)れ、

悲(かなし)みの雨(あま)そそぎ洗(あら)ひさらして、

土(つち)の膚(はだ)すさめるを、まひろき空(そら)は、

さりげなき無情(つれな)さに晴(は)れ渡(わた)りぬる。

 

狼尾草(ぢからしば)ここかしこ、光(いかり)射(い)かへす。

貝(かひ)の殼(から)、陶(すゑ)ものの小甁(をがめ)の碎(くだ)け――

あるは藍(あゐ)、あるは丹(に)に描(ゑが)ける花(はな)の

幾片(いくひら)は、朽(く)ちもせで、路(みち)のほとりに。

 

靈(たま)燻(く)ゆる海(うみ)の色(いろ)、宴(うたげ)のゑまひ、

皆(みな)ここに空(あだ)の名や、噫(あゝ)、望(のぞみ)なし、

匂(にほ)ひなし、この現(うつつ)われを囚(とら)へて、

日(ひ)は檻(をり)の外(そと)よりぞ酷(むご)くも臨(のぞ)む。

 

[やぶちゃん注:「艷(つや)も失(う)せ、物(もの)なへて呆(ほゝ)けて立てば、」「なへて」はママであるが、加工用データとして使用している「青空文庫」版は「なべて」とし(底本は昭和四三(一九六八)年講談社刊「日本現代文学全集」第二十二巻「土井晚翠・薄田泣菫・蒲原有明・伊良子清白・横瀬夜雨集」)、後の自選「有明詩抄」では改作版であるが、この行は、

   *

物なべて香(にほひ)呆(ほほ)けてあれば、

   *

とする。だいたい「なへて」は致命的におかしいことはすぐわかる。仮に歴史的仮名遣を誤った(有明の場合、非常に稀だが、他の詩篇で少数だが認められる)として、百歩譲って「なえる」(萎える:ヤ行下二段活用)だったとしよう。しかしそれもまた、おかしいからである。原詩の詩句はそもそもが「物」が「呆(ほゝ)けて」いると言っているのであって、それに「物」が「萎えて」いるというのでは、屋上屋で、しかも「萎え」た者対象が「立てば」、「立」とうはずがあるまい。さればこそ、ここは「なべて」の誤植であるということが確定するのである。但し、初版を読んだ読者が皆こうした脳内処理をして本詩篇を読んだとは到底思われないからして、そのまま示し、ここで、かく注した。

「狼尾草(ぢからしば)」「ぢ」はママ。前記「青空文庫」版は『ちからしば』で、後の自選「有明詩抄」では改作版であるが、この行は、

   *

妄執(もうしふ)の狼尾草(ちからしば)根を張る中(なか)に、

   *

とする。しかしながら、「力芝」(後述)を地方で「ぢからしば」と呼ばないと断定は出来ぬし(有明自身は東京生まれであるが、父忠蔵は佐賀県出身の官吏であった)、「ぢからしば」が殊更に異様で、読んでいて躓くものでもない。さればこそ、ここもそのまま示し、かく注した。単子葉植物綱イネ目イネ科チカラシバ属チカラシバ Pennisetum alopecuroides はよく見かける雑草で、私は好きだし、「ぢからしば」でも違和感は全くない。ウィキの「チカラシバによれば、『ブラシのような穂が特徴的で』、『地下茎はごく短く、大きな株を作る、根元から多数の葉を出す。葉は細長く、根元から立ち上がる。葉はやや丸まる』。『花茎は夏以降に出て、真っすぐに立つ。花軸は枝分かれせず、先端近くの軸に多数の針状の毛に包まれた小穂がつく。小穂は最初は軸から斜め上に向けて出るが、果実が熟するにつれて軸から大きい角度をもつようになり、つまり開出して、全体としてビン洗いのブラシや、試験管洗いのような姿になる。果実が熟してしまうと、果実は小穂の柄の部分から外れるので、あとには軸だけが残る』。『小穂は短い軸の先に一つだけつく。小穂の基部の軸から針状の毛が多数伸びる。小穂は披針形で長さ』七ミリメートル『ほど、二つの小花を含むが、一つ目は果実をつけず、雄花となることも多い』。『果実は先端の毛と共に外れ、これが引っ掛かりとなって』、『大型動物の毛皮に引っ掛かるようになっている。いわゆるひっつき虫で、毛糸などの目の粗い衣服によく引っ掛かる。果実の先端から潜り込むようにして引っ掛かることが多い』。『日本、朝鮮半島、中国からフィリピン、マレー半島からインドまで分布する。日本国内では北海道南西部以南のほとんど全土で見られる。また、オーストラリア、北アメリカに帰化している』。『普通は穂や小穂の毛に紫色の着色があり、全体に紫を帯びるが、これには変異がある。特に赤っぽいものをベニチカラシバPennisetum alopecuroides forma erythrochaetum』)、『着色せず穂が緑のものをアオチカラシバ(Pennisetum alopecuroides forma viridescens』)『として区別する場合もある』。『道端にはえる雑草で、大きな株になる。非常にしっかりした草で、引き抜くにも刈り取るにもやっかいである。和名の「力芝」も』、『ひきちぎるのに力がいることに由来する』。『役に立つ面は少ないが、子供のおもちゃになることがある。穂をちぎって手のひらの中に握り込んで、ゆるゆると握ったり開いたりすると、小穂の毛が斜め上に向いているから、次第に穂の下側の方へと進んで行くのが、毛虫のようでおもしろいと言う。また、これを穂の下側の方から、長ズボンの裾から送り込んでやると、引っ張り出すのが難しく、体が動くにつれて中へともぐりこんで行く。それを見て笑うのであるが、うっかりすると』、『パンツの中までももぐりこむので、結構痛い思いをする』。『欧米では園芸品種が作出されており、観賞用に屋外で栽培される』。『穂から多数の毛が伸びてブラシ状になるものとしては、他に』やはりお馴染みでやはり私の好きな『エノコログサ類』(イネ科キビ亜科キビ連エノコログサ属 Setaria:タイプ種エノコログサ Setaria viridis)『があるが、たいていは穂の先がたれる。また、他にも穂に多数の毛や芒を出すものはあるが、このようなブラシ状のものはあまりない』。『この属には世界の熱帯・亜熱帯を中心に約』百三十『種ほどがある。日本では本種以外には次の種が自生している』。シマチカラシバ Pennisetum sordidum:『チカラシバによく似ているが、葉が細く、穂が黄みを帯びる。また、道端などに出現することはなく、海岸近くの岩地に生じる。九州南部から南西諸島、小笠原諸島に分布する』。『このほか、帰化植物がいくつか知られ、』エダウチチカラシバPennisetum orientale:『高さが』一メートル『を越えることもある大型の草で、チカラシバに似るが、小穂が』二~四『個ほどまとまってつくこと、小穂の根元から出る毛に枝を生じることなどで区別できる。インドからアフリカにかけて産し、日本では関東地方でまれに発見される』。ナピアグラスPennisetum purpureum:表記上の揺れでは、『ネピアグラスと書かれることもある。エダウチチカラシバよりもさらに大きく、高さ』二メートル『近くにもなる。基部は横に這い、そこから真っすぐ立ち上がる姿はむしろ』ヨシ(イネ科ダンチク亜科ヨシ属ヨシ Phragmites australis)『などのようにも見えるが、穂の形はチカラシバそっくりである。穂は黄色っぽくて、長さが』十五センチメートル『ほどにもなる。家畜飼料として持ち込まれ、野生化したもの』で『熱帯アフリカ原産』。『現在では世界の熱帯、亜熱帯域に広く帰化している』。『栽培植物としてはトウジンビエ』(チカラシバ属トウジンビエ Pennisetum glaucum)『がアフリカなどで穀物として古くから栽培されており、多くの品種が知られている』とある。なお、「狼尾草」は穂のミミクリーで本種の漢名である。

「便(たづ)きなさ、」底本は「便(たづ)きなき、」。底本の「名著復刻 詩歌文学館 紫陽花セット」の解説書の野田宇太郎氏の解説にある、有明から渡された正誤表に従い、特異的に呈した。

「ゑまひ」「笑まひ」。微笑(ほほえみ)。]

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