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2019/02/25

蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 大鋸

 

 大 鋸

 

大鋸(おが)をひくひびきはゆるく

ひとすぢに呟(つぶ)やくがごと、

しかはあれ、またねぶたげに。

 

いや蒸(む)しに夏(なつ)のゆふべは、

風(かぜ)の呼息(いき)暑(あつ)さの淀(よど)を

練(ね)りかへすたゆらの浪(なみ)や。

 

河岸(かし)にたつ材小屋(きごや)のうちら、

大鋸(おが)をひく鈍(にぶ)きひびきは

疲(つか)れぬる惱(なや)みの齒(は)がみ。

 

うら、おもて、材小屋(きごや)の戸口(とぐち)、――

生(なま)あをき水(みづ)の香(か)と、はた

あからめる埃(ほこり)のにほひ。

 

幅(はゞ)びろの大鋸(おが)はうごきぬ、

鈍(にぶ)き音(おと)、――あやし獸(けもの)の

なきがらを沙(いさご)に摩(す)るか。

 

はらはらと血(ち)のしたたりの

おがの屑(くず)あたりに散(ち)れば、

材(き)の香(か)こそ深(ふか)くもかをれ。

 

大鋸(おが)はまたゆるく動(うご)きぬ、

夕雲(ゆふぐも)の照(て)りかへしにぞ

小屋(こや)ぬちはしばし燃(も)えたる。

 

大鋸(おが)ひきや、こむら、ひかがみ、

肩(かた)の肉(しし)、腕(かひな)の筋(すぢ)と、

まへうしろ、のび、ふくだみて、

 

素膚(すはだ)みな汗(あせ)に浸(ひた)れる

このをりよ、材(き)の香(か)のかげに

われは聽(き)く、蝮(はみ)のにほひを。

 

夜(よる)の闇(やみ)這(は)ひ寄(よ)るがまま、

大鋸(おが)ひきは大鋸(おが)をたたきて、

たはけたる歌(うた)の濁(だみ)ごゑ。

 

[やぶちゃん注:何故だか、私はこの一篇を偏愛する。大鋸を挽く「あの」音と、その「あの」匂いが、実際に漂ってくるからである。

「大鋸」「おが」は「おほが(おおが)」の音変化で大きな木材から板を挽 くための縦挽きの大型の鋸(のこぎり)のこと。元は中国・朝鮮の框鋸(かまちのこ)・枠鋸に由来するもので、日本へは十四世紀頃(室町時代)に導入されたとされる。工の字形の木枠の片側に幅の狭い鋸身をつけ,他端を紐で結び,この紐を絞ることによって鋸身を伸長させ、二人で挽いた(ウィキの「日本の鋸にある室町時代の画像をリンクさせておく)が、近世に入ると、前者より幅広い鋸身をもった一人挽きの柄鋸(えのこ)形式のものが現われた(グーグル画像検索「たい)。

「ひかがみ」名詞。「膕(ひかがみ)」。膝の後ろの窪んだ部分。「隠曲(ひきかがみ)」の変化した語という。「よぼろ」とも呼ぶ。]

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