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2019/03/03

蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) 鐘は鳴り出づ

 

 鐘は鳴り出づ

 

『火(ひ)はいづこぞ』と女(め)の童(わらは)、――

『見(み)よ、伽藍(がらん)ぞ』と子(こ)の母(はゝ)は、――

父(ちゝ)は『いぶかし、この夜(よ)に』と。

  (鐘(かね)は鳴(な)り出(い)づ、梵音(ぼんおん)に、――

        紅蓮(ぐれん)のひびき。)

 

『伽藍(がらん)のやねに火(ひ)ぞあそぶ、

ああ鳩(はと)の火(ひ)か、熖(ほのほ)か』と、

つくづく見入(みい)る女(め)の童(わらは)。

  (鐘(かね)は叫(さけ)びぬ、梵音(ぼんおん)に、――

        無明(むみやう)のあらし。)

 

『火(ひ)は火(ひ)を呼(よ)びぬ、今(いま)、垂木(たるき)、

今(いま)また棟木(むなぎ)、――末世(まつせ)の火(ひ)、

見(み)よ』と父(ちゝ)いふ、『皆(みな)火(ひ)なり。』

  (鐘(かね)はとどろく、梵音(ぼんおん)に、――

        苦熱(くねつ)のいたみ。)

 

『火(ひ)はいかにして莊嚴(しやうごん)の

伽藍(がらん)を燒(や)く』と子(こ)の母(はゝ)は、――

父(ちゝ)は『いぶかし誰(た)が業(わざ)』と。

  (鐘(かね)は嘆(なげ)きぬ、梵音(ぼんおん)に、――

        癡毒(ちどく)のといき。)

 

『熖(ほのほ)は流(なが)れ、火(ひ)は湧(わ)きぬ、

ああ鳩(はと)の巢(す)』と女(め)の童(わらは)、――

父(ちゝ)は『燒(や)くるか、人(ひと)の巢(す)』と。

  (鐘(かね)はふるへぬ、梵音(ぼんおん)に――

         壞劫(ゑごふ)のなやみ。)

 

『熖(ほのほ)の獅子座(ししざ)火(ひ)に宣(の)らす

如來(によらい)の金口(こんく)われ聞(き)く』と、

走(はし)りすがひて叫(さけ)ぶ人。

  (鐘(かね)はわななく、梵音(ぼんおん)に、――

         虛妄(こまう)のもだえ。)

 

『火(ひ)は内(うち)よりぞ、佛燈(ぶつとう)は、

末法(まつはふ)の世(よ)か、佛殿(ぶつでん)を

燒(や)く』と、罵(ののし)り謗(そし)る人。

  (鐘(かね)はすさみぬ、梵音(ぼんおん)に、――

         毗嵐(びらん)のいぶき。)

 

『鐘樓(しゆろう)に火(ひ)こそ移(うつ)りたれ、

今(いま)か、今(いま)か』と、狂(くる)ふ人(ひと)、――

『鐘(かね)の音(ね)燃(も)ゆ』と女(め)の童(わらは)。

  (鐘(かね)は(た)え入(い)る。梵音(ぼんおん)に、――

         無間(むげん)のおそれ。)

 

『母(はゝ)よ、明日(あす)よりいづこにて

あそばむ』と、また女(め)の童(わらは)、――

母(はゝ)は『猛火(みやうくわ)も沈(しづ)みぬ』と。

  (鐘(かね)は殘りぬ、梵音(ぼんおん)に、――

         欲流(よくる)のしめり。)

 

『父(ちゝ)よ、わが鳩(はと)燒(や)け失(う)せぬ、

火(ひ)こそ嫉(ねた)め』と女(め)の童(わらは)、――

父(ちゝ)は『遁(のが)れぬ、後(あと)追(お)へ』と。

  (鐘(かね)はにほひぬ、梵音(ぼんおん)に、――

         出離(しゆつり)のもだし。)

 

[やぶちゃん注:珍しい、仏教色の異様に濃い、叙事詩的詩篇である。

「毗嵐(びらん)」仏教用語。「毘嵐風(びらんぷう)」「毘藍婆(びらんば)」等とも言い、この世の終わりに吹いて、全てを破壊し尽くすとされる、強く激しい暴風の謂い。

「欲流(よくる)」仏教用語らしい。欲望が内心の善を洗い流してしまうことを言うか。]

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