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2019/03/01

蒲原有明 有明集(初版・正規表現版) どくだみ

 

 どくだみ

 

皐月(さつき)を溝(みぞ)の穢(けが)れ水(みづ)

かぐろみ蒸(む)して沸(わ)きそふや、

小舍(こや)、廢屋(あばらや)のかたかげに

草(くさ)どくだみは(花(はな)白(しろ)き

單瓣(ひとへ)ぞ四片(よひら))、朝(あさ)ゆふべ、

朽木(くちき)を出(い)でて日(ひ)に障(さや)る

羽蟻(はあり)の骸(から)の墓(はか)どころ、

暗(くら)きにほひにしたしみぬ。

 

いかなる罪(つみ)の凶會日(くゑにち)に

結(むす)びそめたる種(たね)ならむ、

花(はな)どくだみや、統譜(うぢぶみ)の

系(すぢ)をたださば、こは刹利(せつり)、

須陀羅(しゆだら)にあらぬさまかたち、――

花の四片(よひら)は白蓮華(びやくれんげ)、

葉(は)はまろらかに、さはあれど

色(いろ)のおもてぞ濁(にご)りたる。

 

穢(けが)れて臭(くさ)き醜草(しこぐさ)の、

その類葉(るゐえふ)のひとつには

誰(た)が教(おし)へけむ、去(さ)りあへぬ

怨嫉(をんしつ)の鬼(おに)根(ね)に纒(まと)ひ、

生(お)ひかはる芽(め)を咀(のろ)ふにか、

これや曼陀羅(まだら)に織(お)り入(い)れて、

淨土(じやうど)をしめす實相(じつさう)の

花(はな)ともなさむ本來(もと)の性(さが)。

 

噫(ああ)、眇目(めうもく)の陰陽師(おむみやうじ)、

古(ふ)りし「烏(からす)」にまかせなむ、

過去(くわこ)にうけにしどくだみの

占(うら)に知(し)らるる業(ごふ)の象(かた)。

正眼(まさめ)に見(み)れば、道(みち)を得(え)て、

ひとり罪負(つみお)ふ法類(ほふるゐ)や

花(はな)には蘂(ずゐ)ぞ輝(かがや)ける、

闇(くら)きを照(て)らす火(ひ)の匂(にほ)ひ。

 

寶鐸(はうちやく)のこゑ曇(くも)りたる

皐月(さつき)にこもり、刻々(こくこく)の

「死(し)」は物(もの)かげに降(ふ)り濺(そそ)ぎ、

膿(うな)わく溝(みぞ)の穢(けが)れ水(みづ)、

朽木(くちき)を出(い)でて日(ひ)に障(さや)る

羽蟻(はあり)は骸(から)を、どくだみの

(單瓣(ひとへ)四片(よひら)の白蓮華(びやくれんげ))、

花(はな)に足(た)らへる奧津城(おくつき)に。

 

[やぶちゃん注:第三連末の「性(さが)。」は底本では「性(せい)」。底本の「名著復刻 詩歌文学館 紫陽花セット」の解説書の野田宇太郎氏の解説にある、有明から渡された正誤表に従い、特異的に呈した。


「怨嫉(をんしつ)の鬼(おに)根(ね)に纒(まと)ひ、」の「鬼(おに)」は底本では「あに」とルビする。しかし、「鬼」に「あに」の読みはなく、激しく躓く。因みに、パラルビのパラルビの「青空文庫」版(底本は昭和四三(一九六八)年講談社刊「日本現代文学全集」第二十二巻「土井晚翠・薄田泣菫・蒲原有明・伊良子清白・横瀬夜雨集」)では、「鬼」にも「根」にもルビをしない。さすれば、これは「おに」の植字ミスであると断じ、特異的に訂した。
「曼陀羅(まだら)」のルビはママ。「まんだら」の撥音「ん」が表記されない形で、「源氏物語」等に「まだら」と普通に見られる。音数律を保持する効果もある。「眇目(めうもく)」のルビはママ。「眇目」は通常は「べうもく(びょうもく)」と読んで「片目・独眼」の意(他に「意識的に瞳を片寄せた横目」の意があり、呪的ポーズの一つではあるが、ここは本来の片目が見えないの意で採る)であるが、「眇」の音には別に「メウ(ミョウ)」の読みがあるので誤りではない。

「どくだみ」被子植物門双子葉植物綱コショウ(胡椒)目ドクダミ科ドクダミ属ドクダミ Houttuynia cordata。古くは「之布岐(しぶき)」と呼んだ。「どくだみ」は「毒矯み」(毒を抑える)の意に基づく。傷つけた際の特有の臭気から嫌われるが(私はドクダミの花が大好きだ)、古くから、民間薬として生の葉を揉んで腫物に貼ったり,煎じて利尿剤や駆虫剤とし、食用にもなる。本邦では「十薬」の異名を持つが、これは「ドクダミで馬を飼育すると、十種の薬に相当する効果がある」とされたことから生まれたと言われる。

「凶會日(くゑにち)」陰陽道で、干支の組合せに基づく凶日、悪日。例えば、旧暦正月では庚戌・辛卯・甲寅、二月では己卯・乙卯・辛酉の日が、これに当たるとされ、二十四種ある。

「刹利(せつり)」「刹帝利」の略。刹帝利はサンスクリット語「クシャトリヤ」の漢音写。古代インドに於ける四姓(バルナ:四種姓)の一つ。最高の婆羅門(バラモン)族の次に位するもので、王族及び士族の階級。

「須陀羅(しゆだら)」同じくバルナの最下層(第四位)の身分(隷属民)を指す「シュードラ」の漢音写。

「烏(からす)」陰陽師は呪法に式神(しきがみ)を使役するが、通常、目に見えない彼らは時にカラスに変身する。

「寶鐸(はうちやく)」「はうたく(ほうたく)」とも読む。堂塔の軒の四隅などに飾りとして吊るす大形の金属製の風鈴。風鐸(ふうたく)。

「膿(うな)」「膿(うみ)」に同じ。「日本書紀」の「神代上」の「則膿沸蟲流」の水戸本の訓読に「則ち膿(うな)沸(わ)き、蟲(うじ)流(たか)る」とある。]

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