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2019/05/07

夕となりぬ 伊良子清白 (ハイネ訳詩/附・生田春月訳)

 

夕となりぬ

 

夕となりぬ日は暮れぬ

霧は海路(かいろ)をかくしけり

浪異(け)しからずさざらぎて

白きすがたの見えぞする

 

潮搔き分けて海の精

わが居る岸に來りけり

縑(かとり)の衣(きぬ)のひまもれて

しろき乳房のこぼれつつ

 

われを抱(いだ)きつ抱(だ)き籠めつ

心に傷をおはせけり

あはれ﨟(らふ)たき乙姬よ

あまりに强しなが腕は

 

「なれを抱(だ)くなり腕(ただむき)に

力を籠めていだくなり

今宵の風の寒ければ

あたたまらんと思ふなり」

 

薄墨色の雲間より

月は靑くものぞきけり

あはれ﨟(らふ)たき乙姬よ

なれがまなこはぬれぞます

 

「濡れはまさらずわがまなこ

もとよりかくはしめるなり

波をかづきていでし時

まみに雫のおきしゆゑ」

 

鷗悲しみ波いかり

海の景色のかはりけり

あはれ﨟たき乙姬よ

荒く搏(う)つなりなが心臟(むね)は

 

「荒く搏つなりわが胸は

うつなり荒くわが心臟は

切なる愛のそのために

こひしきなれのそのために」

 

[やぶちゃん注:明治三六(一九〇三)年五月発行の『文庫』初出(署名「清白」)であるが、総標題「夕づゝ(Heine より)」の下に、「さうび百合ばな」「きみとわが頰の」「頰は靑ざめて」「使」「老いたる王の」「墓場の君の」「うきをこめたる」「戀はれつこひつ」・本「夕となりぬ」・「なれをこひずと」の十篇からなる、ハイネ(Christian Johann Heinrich Heine 一七九七年~一八五六年)の翻訳詩群である。本篇は一八二六年初版一八三〇年再版の詩集“Reisebilder”(「帰郷」)の第XⅣ歌(第十四歌)である。原詩は恐らくこちら(今回はInternet Archive の原詩集の当該詩篇の画像)ではないかと思う(私はドイツ語が出来ないので悪しからず)

「縑(かとり)」「かたおり(固織)」の音の縮約。絹織物の一種で、細い糸で目を細かく固く織った薄い絹布を指す。反対語は「絁(あしぎぬ)」。

 前に倣って、生田春月(明治二五(一八九二)年~昭和五(一九三〇)年)の訳を国立国会図書館デジタルコレクションの大正一四(一二五)年春秋社刊生田春月訳「ハイネ全集 第一巻」(「詩の本」)の「帰郷」パートから示す。春月のそれは第「十二」歌とするので、思うに初版を底本とするか。

   *

 

  十二

 

夕闇がだんだん迫つて來て

霧は海一面を蔽うてしまつた

波は不思議な音立てて

白い柱を立ててゐる。

 

人魚は波から海邊に上つて來て

わたしの傍(うしろ)に來てすわる

そのましろな胸を美しく

紗衣(うすもの)の下からのぞかせて。

 

彼女は息さへ出來ぬほど

わたしをしつかりかきいだく――

これはあんまりきついぢやないか

ねぇ、美しい人魚さん!

 

『わたしはあなたをこの腕で

力いつぱい抱きますわ、

あなたのお胸であたたまりたいの

あんまり寒い夜ですもの』

 

月はだんだん蒼ざめて

くらい雲間に照つてゐる、

おまへの眼はだんだん曇つて濡れてくる、

ねぇ、美しい人魚さん!

 

『だんだん曇つて濡れて來るのぢやありません、

わたしの眼はもとから濡れて曇つてゐるのです、

水の中から出てまゐつた身ですもの

眼の中に雫が殘つてゐるんです』

 

鷗は悲しげに鳴きさけび

海はさかまき吼え立てる――

おまへの胸は大さう動悸が打つてるよ、

ねぇ、美しい人魚さん!

 

『わたしの胸は大そう動悸が打つてます、

ええ、あなたが仰しやる通りだわ、

大層あなたを愛してゐますもの

ねぇ、かはいらしい人間さん!』

 

   *

「ぇ」の小文字表記はママ。]

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