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2019/05/18

禿筆餘興 伊良子暉造(伊良子清白)

 

禿筆餘興

 

 

  玉 章

 

おぼろに匂ふ春の夜の、

月の光も影更けて、

ねられぬ夜半の小衾に、

はかなく物を思ひつゝ。

 

思ひあまりてきえぎえの、

閨の燈火かゝげつゝ、

かくとはすれど玉章に、

おつるなみだをいかにせむ。

 

思へばむかし君とわれ、

櫻をかざし月をめで、

春の長日も秋の夜も、

みじかしとこそ契りしか。

 

いなみてもなほたらちねの、

ことわり過ぎしかなしびに、

思はぬ人を見てしより、

たのしき夢は破れてき。

 

草刈る賤にみをなして、

埴生の小屋に住ふとも、

君と二人が暮しなば、

玉のうてなにまさるらむ。

 

おもてにゑみをよそひても、

うらにはうきをつゝみつゝ、

心もとけぬ朝ゆふは、

都もひなにことならず。

 

常盤の松のとはにこそ、

きよき操もちかひしが、

うつろふ花のときのまに、

かはるこゝろを思ひきや。

 

久しきあとのかたみにと、

二人うつしゝ面影も、

かはらで殘るうつしゑよ、

かはる心をうらむらむ。

 

うつゝも夢もあはぬみは、

ねてもさめてもくるしきに、

君とへだてのうき雲は、

なみだの雨とそゝぐなり。

 

君がたまひし玉章は、

ことわり深くきこえたり、

うらむみよりもうらまるゝ、

心を君ははからずや。

 

つま重ねにし小夜ごろも、

こはいひとかむすべもなし、

君をし思ふまこゝろは、

たゞ末かけてかはらじな。

 

筆ををさめてうちぬれば、

誰しのべとやをしふらむ、

關の戶近き梅が香の、

枕に深くかをるなり。

 

 

  百合と蝶

 

姉と妹がうちつれて、

あそぶ野川の片岸に、

一もと咲ける百合の花。

 

妹の少女うれしげに、

母がめでますこの花の、

一枝はつどに手折りてむ。

 

姉の少女はとゞめつゝ、

ねぶるこてふのさむるまで、

靜けき夢なやぶりぞよ。

 

二人ながむる水のもに、

花はちりてぞうかびける、

うかぶを蝶もしたひつゝ。

 

世に情ある少女子が、

かふき言葉を咲く花と、

蝶はいかにや思ひけむ。

 

 

  

 

櫻狩してかへるさの、

山の下遣道わがくれば、

谷をへだてし藁やより、

樓織るおさの音ぞする。

 

折しも月のをかしきに、

笛とりいでゝ吹きなせば、

藁やのはたはとだえして、

岸に少女ぞたてるなる。

 

[やぶちゃん注:明治二九(一八九六)年三月二十五日発行の『文庫』第二巻第四号掲載。署名は本名の伊良子暉造。

「かふき言葉を咲く花と、」の一句意味不祥。「歌舞伎」では、今一つ、私は意味が採れぬ。識者の御教授を乞う。]

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