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2019/05/23

いさり舟 すゞしろのや(伊良子清白)

 

いさり舟

 

 

  う ま 追

 

菫はな咲くませ垣に、

もたれてひとりながめやり、

妹まつひまの手すさびに、

なびく柳をいくたびか、

ときつ結びつまたときつ。

 

むかひあはせの近ければ、

朝夕かほは見るものを、

さすがにいはですぎ行くを、

かたみに二人いひいでゝ、

うらみあひしもいくそたび。

 

めぐみも深きたらちねの、

父とはゝとのうせしより、

にはかに家はおとろへて、

あとにのこりしみなし子は、

うま追ふ賤におちぶれき。

 

契りし妹も人づまと、

淸きみさををかへぬれば、

人の心のつれなさに、

ひとり思にたえかねて、

袂もくつるうきなみだ。

 

草むらごとに蟲なきて、

夕風さむきさとのみち、

うまおひながら皈り行く、

尾花の末に松見えて、

これぞ昔のおのが家。

 

 

  

 

夕やけ雲の色そへて、

日影殘れる山の端の、

うすくれなゐに匂ふとき。

そよがぬ木々のひまとめて、

水より淡き大空に、

星の帝王(みかど)はのたまひぬ。

 

「あはれわが臣けふもまた、

鳥を塒におくりてよ。

雲をみ山にかへしてよ。

ふねを湊にあつめてよ。

菫つむ子をまつ母の、

そのふところにおくりてよ。」

 

のたまふまゝに三ツ二ツ、

四つ六つ五つつぎつぎに、

星のひかりのあらはれて、

空もせきまでなりし時、

淸き夢路の戶を開けて、

宇宙は皆安く眠り行く。

 

 

  あ る 夕

 

秋の夕べをかなしとは、

いかなる人か言初めし。

あゝわが如くいにしへも、

うせにしせこをこひわびて、

ひとりさびしき岸に行き、

水のながれにうらみけむ、

少女やかくもいひそめし。

 

 

  し ら 浪

 

春の夕べのさびしさに、

ひとり海邊にたちいでゝ、

こゝろともなく眺むれば、

みるめだになき荒いそに、

たれをか戀ひししら浪の、

とほき潮路をわたりきて、

よせてはかへしきてはうつ。

 

 

  行 く 水

 

ながれゆく水の、

    あとをおひて、

しばし語らむと、

    ふたりあゆむ。

 

空はれわたりて、

    いとしづかに、

星かげきらめく、

    ゆふぐれどき。

 

すぎこしうれひを、

    おもひいでゝ、

戀のかなしさに、

    袖をぬらしぬ。

 

されどもせめては、

    きみとあひて、

かたらひうるをぞ、

    さいはひとせむ。

 

みにしみわたれる、

    夕ぐれどきの、

えならぬけしきを、

    いかでわすれむ。

 

ながれ行く水の、

    あとをおひて、

かたりしゆふべを、

    いかでわすれむ。

 

 

  は る 風

 

あしのわか葉の、

    末かけて、

妹がそで吹く、

    うみのかぜ。

八重たちこむる、

    あまぐもの、

千さとのをちを、

    しのびきて、

さわらびもゆる、

    わかやまの、

尾上のまつに、

    吹きわたる。

 

[やぶちゃん注:明治三〇(一八九七)年四月二十日発行の『文庫』掲載。署名は「すゞしろのや」。]

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