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2019/05/20

美人禪 蘿月(伊良子清白)

 

美 人 禪

 

麓におふる松杉の、

枝をかはしてきよらかに、

日蔭もらさず生ひ繁り、

涼しき風のまにまに、

菅なき笛の吹きすさぶ。

 

はるけき谷を流れくる、

水は幾谷落ちあひて、

幾度わきつあひつしゝ、

けしき磐根にくだかれて、

絃なき琴をかなでけり。

 

うき世を外のこの山邊、

おとのふ人もあばらやに、

住める共なくさしこめて、

のどかに暮す人やある、

見ゆる屋根こそ床しけれ。

 

軒端かたむき壁おちて、

僅にのこる庵のさま、

かくても人のあるなるや、

竹の編戶もとざゝねば、

 

まさしく住める人あらん。

あはれ住みいる人や誰れ、

まだうらわかき乙女子の、

麻の衣をまとへども、

ゆかしかりける名殘こそ、

靑き額にのこりけれ。

 

哀れいかにやかくばかり、

人目はなれし山里に、

色香たへなるさ乙女の、

浮世をすてゝわびしくも、

佛につかへまつるらん。

 

かれは悟りし身ならんも、

さすがに思ひ忍びてか、

形見の文かとり出でつ、

淨き衣の袖をしも、

ぬらし汚しぬ淚もて。

 

照りそう日蔭もらさじと、

枝をかはせる木々の音は、

浮世にたちし心しも、

物思ふ身はいかばかり、

哀れになどか埋るらん。

 

谷を流れて幾度か、

われつあひにし水の音は、

佛のつかふ身ながらも、

なき人かこつ心にも、

いかでかあだに過すへき。

 

[やぶちゃん注:明治二九(一八九六)年六月『新聲』掲載。署名は蘿月。]

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