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2019/05/10

やま彥 伊良子暉造(伊良子清白)

 

や ま 彥

 

紅葉かつ散る夕まくれ、

谷の細道乙女子は、

夕日せおひて歸り來ぬ。

走りて行きて又ゆきて、

あとなる母をながめつゝ、

かたみにみてる松茸を、

出しては入れつ又出しつ、

かぞヘかぞへてうれしげに、

やさしき歌をうたふなり。

うたひながらも母さまよ、

あれ聞き給へはゝ樣よ、

かしこに聞ゆるうたの聲、

妾のうたににたりけり。

去年の長月あねさまに、

おしへて給ひしこの歌に、

よくもにたりと乙女子は、

手をうち叩きうちたゝき、

いとうれしげに母さまよ、

よびてよよびてかの人を、

よびてよ母よかの人を、

妾のうたふこのうたを、

うたへる人は姉ならむ。

櫻のはなの咲く頃に、

わかれまつりし姉ならむ。

よびてよよびてあね樣を、

あね樣かしこにおはすなり。

呼びて呼びてとむつかるを、

母はすかしつ姉さまは、

追いや遠きいや遠き、

遠き國へと行きましぬ。

遠きくにへと行きまして、

こゝにはたえてあらぬなり。

あらぬをなれはいかなれば、

姉よ姉よとしたふらむ。

されども孃よ姉さまは、

明日にもならばかへりなむ。

明日にもならば土產(ミヤ)もちて、

かへりますらむ姉さまは、

よい子よ孃もひとりして、

あそべといへば乙女子は、

つむりふりつゝ姉さまは、

かしこの谷におはすなり。

かしこの松の下陰に、

きのこたづねておはすなり。

わらはは行かむかの谷に、

この籠もちて姉さまに、

見せなばいかに多(サハ)なりと、

たゞへますらむ母さまよ、

行かむ行かむとむつかるを、

母はとゞめてかなしげに、

かしこに聞ゆる歌聲は、

なれのうたへるうたなれど、

姉のうたへるうたならず、

木魂におとする山彥の、

こたふる聲のひゞくのみ。

まことや孃やが姉さまは、

道いや遠きいや遠き、

遠き國なる久方の、

あまつ國へと行きまして、

天津御神のそのそばに、

その歌うたひておはすらむ。

おはすなるらむうれしげに、

よい子よ孃もひとりして、

あそべといへば乙女子は、

いとあやしげにいく度か、

悲む母を見あげつゝ、

わらはの姉のゆきませし、

天つ御國はいづこかと、

問ひつゝつむり傾けて、

わらはも行かむその國に、

つれてゆきてよ母樣よ、

つれてつれと乙女子の、

せくをすかしつ諸共に、

かなしき歌をうたふなり。

かなしき歌もいつしかに、

遠くなり行く谷陰を、

おくれて歸る村鴉、

時に友やまつならむ、

あとなるものはまた先に、

さきなるものはまたあとに。

 

[やぶちゃん注:明治二七(一八九四)年十一月の『少年文庫』掲載。署名は本名の伊良子暉造。「たゞへますらむ母さまよ、」の「たゞへ」はママ。]

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